- 著者
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浅山 龍一
- 出版者
- 創価大学
- 雑誌
- 英語英文学研究 (ISSN:03882519)
- 巻号頁・発行日
- vol.28, no.2, pp.63-78, 2004-03
トウェインはフランクリンとよく似た家庭環境、宗教環境の中で、フランクリンの「自伝』や彼についての読み物に囲まれ、さらに、フランクリンを信奉する兄のもとで、フランクリンと同じ印刷屋の仕事をしながら育った。科学好きで合理主義のトウェインが、アメリカを代表する科学者・合理主義者のフランクリンを意識しながら、トム・ソーヤーを生み、ハンク・モーガンを生んだのは自然の成り行きかもしれない。フランクリン+(少し過度の)ヒロイズム=トム・ソーヤーであり、トムがさらに成長してハンク・モーガンになったようである。そして、フランクリン哲学の特徴である実利的人道主義(=実利的道徳主義)はトウェイン作品中のトムやハンクが示す道徳的ヒロイズム(とでも呼ぶべきもの)となって現れているのである。なお、アーサー王の時代(6世紀)に19世紀の科学文明を持ち込んで改革しようとする大発想をもつのがボスのハンクであるが、それは18世紀前半のまだピューリタニズムが支配する宗教国アメリカに、ヨーロッパの啓蒙主義・合理主義を持ち込み、独立まで導いたフランクリンの行った仕事とよく似ている。そして、アーサー王とその国の人々が示した戸惑いと混乱は、まさにアメリカが独立戦争時、さらには南北戦争時に示した、「自由・合理主義vs.保守主義」の混乱に似ているのかもしれない。そして、『ヤンキー』の中に登場する「下層民」は「黒人奴隷」と重なる気がする。また、トウェインは『トム・ソーヤー』『ヤンキー』および先の論文において紹介した4つの短編以外にも、さらにフランクリンを意識した作品(短編)を書いている。これらについては、稿を改めて述べることにしたい。