- 著者
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生田 眞人
- 出版者
- 京都産業大学
- 雑誌
- 京都産業大学論集. 人文科学系列 (ISSN:02879727)
- 巻号頁・発行日
- vol.39, pp.1-17, 2008-03
本論考では第一次世界大戦と第二次世界大戦との狭間である,いわゆる両次大戦間期という激動の時代にオーストリア・ウィーンに生きたユーラ・ゾイファー(Jura Soyfer, 1912-1938)の生涯をたどり,劇作と政治活動の両面で彼のウィーン文化への貢献とその意義を考察する。 既に高校時代にオーストリア・社会民主主義労働者党(通例,後に「労働者」を削除した呼称を用いたので,以下社民党と略称)の青年部に属して政治詩や政治的エッセイを書いていたゾイファーはオーストリア・社民党の日和見的,譲歩過多の政策に飽き足らず次第にオーストリア・共産党を信奉するようになっていく。その過程でラディカルな政治演劇を発表し続けたゾイファーは作品も発禁,演劇作品も上演を禁止されるようになる。本人も逮捕されるに至るが,1938 年2月にはシュシュニクの恩赦令により釈放されるものの,ゾイファーはその後一ヶ月足らずの3月13 日,スイスへの亡命を図って国境で再逮捕されるに至る。その後の運命は過酷で,ゾイファーはダッハウ強制収容所送りとなり,さらにブーヘンヴァルト強制収容所へ移送され,同所で病死した。 短い生涯ながら,カバレット(寄席文学演芸)での小作品や劇場で上演されるべき演劇作品を多数創作したゾイファーは,その中でも特に政治的アピールを含むテーマと娯楽性に富む上演形式をたくみに結合し,ユニークな政治演劇を創造した。本論では特に「世界没落」をテーマとし,そのテーマをそのままタイトルとする作品に注目し,忘れられた劇作家ゾイファーの復権をも視野に入れて,彼の政治活動との関連で,彼の演劇を中心とする文学の本質を究明する。