著者
重枝 利佳 石井 慎一郎
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.A0514, 2008

【目的】近年,ハイヒールやミュールなどを使用する女性が増えてきているが,これらの女性の歩行を見ると,明らかな膝関節の動揺や膝関節痛を訴えることが多い.そこで,三次元動作分析装置を用いて,裸足とヒール形状の違うミュール2種類を使用した時で,平地歩行において膝関節にどのような影響を及ぼすかを明らかにすることを目的とした.<BR>【方法】対象者は,健常女性20名とした.計測条件は,1)裸足,2)ヒール幅1.1cmのミュール(以下,ピンヒール),3)ヒール幅3.3cmのミュール(以下,ヒール)とし,それぞれ平地歩行を3試行ずつ行った.歩行計測には三次元動作分析装置VICON612(VICON PEAK UK)を使用し,Andriacchiらにより考案されたPoint Cluster法を用いて,歩行中の膝関節の屈曲・回旋・内反角度を算出した.分析は,歩行周期中に最も膝関節に動揺が起こるといわれている立脚初期に着目し,各パラメータを裸足,ピンヒール,ヒールの3群間で比較した.<BR>【結果】屈伸角度は,裸足が-20.8±7.7°,ピンヒールが-26.8±6.7°,ヒールが-26.4±8.1°であった.3種間で有意差は認められなかった.回旋角度は,裸足が-4.9±3.1°,ピンヒールが-8.0±3.3°,ヒールが-7.1±3.4°であった.裸足とピンヒール間に有意差が認められた.(p>0.041)内外反角度は,裸足が3.1±2.2°,ピンヒールが6.4±2.8°,ヒールが6.4±2.6°であった.裸足とピンヒール,裸足とヒール間で有意差が認められた.(p>0.004,p>0.003)<BR>【考察】歩行における立脚初期の膝関節は,大殿筋や大内転筋の働きによる大腿骨の外旋と,足関節の内反から外反へ向かう運動が引き起こす運動連鎖による脛骨の内旋によって,内旋位に置かれ動的安定化を図っている.しかし,ミュールを履くことで常に底屈位となる足関節は,踵接地から全足底接地にかけて,足関節の内反から外反へと向かう運動を行う時間を稼ぐことができず,脛骨を直立化させる運動連鎖を起こすことができない.そのため,ピンヒール,ヒールともに内反が大きくなったと考える.これを代償するために,床反力作用点を移動させて脛骨を直立化させる運動連鎖を起こすだけの時間を稼ごうとするが,ピンヒールは一点で接地するため十分な時間を稼ぐことができないのに対し,ヒールはピンヒールよりも接地面積が大きいため,脛骨を直立化させる運動連鎖を起こすことができるだけの床反力作用点の移動が起き,ピンヒールの方が,外旋が大きくなったと考える.<BR>【まとめ】本研究で得られた結果より,ピンヒールを使用することは膝関節にかなりの負担を与えるため,使用しないことが最も望ましい.しかし,近年多くの女性が社会進出することが当然となり,ハイヒールを使用する機会は増えてきている.ハイヒールを履かなければいけない場合は,接地面積の多く取れる,幅の広いヒールを使用すると良いと考えられた.

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CiNii 論文 -  ヒール形状の違いが歩行中の膝関節に及ぼす影響 https://t.co/tOEg7IomKz #CiNii

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