著者
櫻井 好美 石井 慎一郎 前田 眞治
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101960, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】 女性は同競技の男性選手よりも前十字靭帯(ACL)損傷の発生率が高く月経期の発生が多いことが報告され,これは月経随伴症状の影響であるとされている.一方,組織学的研究では女性ホルモンがACLのコラーゲン構造と代謝に影響を与えることが解明され損傷リスクが高いのは黄体期であると示唆されており,疫学的研究と異なるものである.また,競技関連動作中の膝関節運動について男女差を検討した報告は散見されるが,月経周期と膝関節の動的アライメント変化の関係については明らかになっていない.そこで本研究はPoint Cluster法(PC法)を用いた三次元運動計測により着地動作中の膝関節運動を解析し,月経周期との関連を調べることを目的に行った.【方法】 被験者は下肢に整形外科的既往がなく,関節弛緩性テストが陰性の健常女性30名(19~24歳)と健常男性10名(20歳~23歳)とした.女性には12週間毎日の基礎体温と月経の記録を求めた.三次元動作計測は7日ごとに12回行い課題は最大努力下での両脚垂直ジャンプとし両脚同時に着地した.被験者の体表面上のPC法で決められた位置に赤外線反射標点を貼付し,三次元動作解析装置VICON 612(VICON PEAK社製)を用いてサンプリング周波数120Hzで計測した.また床反力計(AMTI JAPAN社製)を用いて足尖が接地するタイミングを確認した.各標点の座標データをPC法演算プログラムで演算処理を行い,膝関節屈曲角度,内・外反角度,脛骨回旋角度,大腿骨に対する脛骨前後移動量を算出した.三次元動作計測と同日に大腿直筋,大腿二頭筋,半膜様筋の筋硬度を測定した.先行研究の手法に則り体温と月経の記録から低温期と高温期に分け,さらにそれぞれを1/2ずつにして月経期,排卵期,黄体前期,黄体後期の4期間に分けた.各期間のデータの比較には反復測定による分散分析を,男女の比較にはT検定を用い,それぞれ危険率5%未満をもって有意とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究は所属施設の研究倫理審査委員会の承認を得ている.被験者には事前に書面と口頭で説明を行い研究参加の同意署名を得て実施した.【結果】 着地直後,全被験者において膝関節屈曲・外反・大腿骨に対する脛骨の内旋が起こった.よって,最大内旋角度,最大外反角度,脛骨最大前方変位量について比較した.内旋角度は黄体前期が他の期と比べて有意に大きく,黄体前期をピークとして月経期まで増加傾向であった.また男性の最大内旋角度より有意に大きくなった.男性は12週間で変化はみられなかった.外反角度については4期間で変化はなかったがすべての期で男性よりも大きな値となった.脛骨前方変位量は黄体前期が他の時期と比較して有意に大きくなった.筋硬度については女性の大腿直筋・大腿二頭筋は黄体前期と後期が月経期・排卵期と比較して有意に高い値を示した.半膜様筋は,統計的有意差は認められなかった.男性は12週間で変動はみられなかった.【考察】 黄体前期には脛骨の内旋角度と最大前方変位量が増大した.先行研究にてヒトACLではエストロゲン濃度の上昇に伴い線維増殖や主要な構成要素であるTypeIコラーゲンの代謝が減少し弛緩性が増加すること,濃度上昇から弛緩性が変動するまでに3日程度のTime-delay(TD)があることが報告されている.エストロゲン濃度は排卵期にもっとも高くなる.本研究でみられた黄体前期の内旋角度や脛骨移動量の変化は,このTDにあてはまるものと考えられる.また血中エストロゲン濃度は黄体後期にも再び上昇するためTDは月経期まで持続し,粗になったACLの構造が回復するまで損傷リスクが高い状態であるといえる.ACLは膝関節の前方剪断と脛骨内旋を制動する第一義的な組織であり,弛緩したことで前方変位量と内旋角度が増加したものと考えた.さらに,黄体前期と後期には大腿直筋と大腿二頭筋の筋硬度が増加した.筋硬度はγ運動ニューロンと交感神経によって制御されている.交感神経は黄体前期に活発になるとされており,筋硬度の増加は交感神経の働きによるものと推察した.そしてこの筋硬度の上昇はACLの構造が粗になる黄体期に,筋によって膝関節の剛性を増し対応するためであると考えられた.以上のことから月経期は黄体期と比較して脛骨の内旋・前方変位が減少するものの筋硬度の低下によって膝関節の動的安定性が得られにくい時期であることが示唆され,ここに月経随伴症状が加わることでACL損傷リスクが高まると結論付けた【理学療法学研究としての意義】 本研究結果は女性のACL損傷予防ための有益な知見になるものと考える.
著者
長谷川 由理 石井 慎一郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A3O1023, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】我々は第44回日本理学療法学術大会において、スクリューホームムーブメント(以下SHM)と大腿骨前捻角度(以下FNA)の関係性について報告し、FNAの大きさにより大腿骨の運動方向、回旋量に違いが生じることを報告した。その中でFNAが大きいほど大腿骨の内旋、膝関節の外旋が大きくなるが、これらの回旋角度の増加が下腿や足部に及ぼす影響については、不明な点である。そこで本研究では、荷重位における膝関節伸展運動時の脛骨、足部の運動を調べ、FNAとの関係性を検討することを目的とした。【方法】対象は、下肢に既往のない成人男性4名、女性10名の計14名(平均年齢23.3±6.0歳)とした。測定課題は、自然立位から膝関節を約90°屈曲し、再び自然立位へと戻るハーフスクワットとした。計測には、三次元動作解析装置VICON612(VICON-PEAK社製)を使用した。赤外線反射標点を体表面上の所定の位置に計16個貼付し、課題動作中の標点位置を計測した。関節角度の算出はオイラー角を用いて、膝関節屈伸角度、大腿骨回旋角度、脛骨回旋角度、大腿骨と脛骨の相対回旋角度(膝関節回旋角度)、膝関節内外反角度を求め、さらに横足根関節回内外角度、前額面上での脛骨傾斜角度(脛骨傾斜角度)を算出した。角度の算出には、歩行データ演算用ソフトVICON Body Builder(VICON-PEAK社製)を使用した。またFNAの計測は、CTやレントゲン所見と相関が強いとされるcraing testにて行った。分析は、各被験者の屈曲60°から最終伸展位における大腿骨回旋角度、脛骨回旋角度、膝関節回旋角度、膝関節内外反角度、横足根関節回内外角度、脛骨傾斜角度を調べ、FNAと各角度の相関の程度をPearsonの相関係数を用いて検討した。統計学的有意水準は、危険率p<0.05とした。【説明と同意】本研究を行うにあたって、対象とした14名の被験者には、本研究の目的と方法について説明し、すべての被験者において同意を得られた。また年齢や計測結果などの個人情報は、本研究以外では使用しない旨を説明し、情報の管理に配慮した。【結果】膝関節伸展時、すべての被験者において膝関節は外旋し、SHMが生じた。FNAと正の相関が認められたのは、大腿骨回旋角度(r=0.62 p<0.05)と膝関節回旋角度(r=0.53 p<0.05)であり、脛骨回旋角度は相関が認められず(r=-0.18)、前回の報告と同様の結果を示した。またFNAと膝関節内外反角度、脛骨傾斜角度、横足根関節回内外角度との相関は認められなかった。しかし、膝関節内外反角度は、大腿骨回旋角度(r=0.79 p<0.01)、膝関節回旋角度(r=0.72 p<0.01)と正の相関を示し、脛骨傾斜角度は、大腿骨回旋角度(r=0.79 p<0.01)、膝関節回旋角度(r=0.60 p<0.05)、横足根関節回内外角度(r=0.56 p<0.05)と正の相関を示した。なお、膝関節伸展運動中、大腿骨は内旋、脛骨は外旋、外側傾斜、横足根関節では回外が生じ、膝関節は内反運動が生じていた。【考察】FNAは、立位姿勢における股関節アライメントを変化させる要因であり、FNAが大きいと、大腿骨頭中心が寛骨臼中心に対し前方に位置するため、大腿骨を内旋させて関節面の適合性を高めているものと考察する。また本研究結果から、大腿骨の内旋角度が大きいと、膝関節の内反、脛骨の外側傾斜が大きくなる傾向が確認された。従来の報告では、FNAが大きいと膝関節は外反外旋し、Knee-inする傾向にあると言われているが、脛骨の外側傾斜と膝内反が生じ、FNAが大きくても荷重位での膝関節伸展運動の最終局面では膝関節は内反することが分かった。それは、過剰な大腿骨の内旋運動が強要されると、膝関節の後内側関節包や内側側副靭帯、ACL、膝窩筋などの張力が増加し、大腿骨内旋が制動されるため、大腿骨と脛骨が連結した状態で、回転軸が膝から足部に移動したためであると考えられた。そのため、FNAが大きい被験者では、大腿骨の内旋運動に追従して、脛骨の外側傾斜、膝関節の内反が引き起こされたと考えられた。【理学療法学研究としての意義】FNAなどの形態は先天的なものであるが、長年の月日を経て二次的に変形性股関節症や膝関節症を引き起こす要因となりうるものである。今回得られた結果からも、FNAが大きいと膝関節内反、脛骨の外側傾斜が大きくなるため、内反変形を助長しやすい運動パターンであることが示唆された。二次的な機能障害の発生を予防していくためにも、閉鎖性運動連鎖を解明していくことが重要であると考える。
著者
長谷部 清貴 石井 慎一郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Ab0704, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 膝関節は屈曲位から伸展する際に、スクリューホームムーブメント(以下SHM)と呼ばれる外旋運動が受動的に起こる。荷重位におけるSHMでは、大腿骨と脛骨の相対運動の差分として回旋角度が決定されるため、SHMの評価は大腿骨と脛骨の回旋運動のどちらに大きく影響を受けているのか明確にする必要性がある。しかし、SHMに関する研究は非荷重位のものが多く、荷重位におけるSHMに関する報告は少ない。本研究の目的は、スクワット動作中の大腿骨回旋角度、脛骨回旋角度を調査し、荷重位でのSHMの特性を明らかにすることである。【方法】 対象は、下肢に整形外科的、神経学的疾患のない健常成人15名(男性:10名、女性:5名)、平均年齢22.5±3.3歳とした。計測課題は、両下肢の間隔を肩幅とした立位姿勢から膝関節を約90°屈曲し、再び立位まで戻るスクワット運動とした。課題動作の計測には、三次元動作解析装置VICON612(VICON-PEAK社製)を使用した。赤外線反射標点の貼付位置は、体表面上の所定の位置に計21個の標点を設置し、課題動作中のマーカーの位置を計測した。計測によって得られた標点の三次元座標データを用いて、課題動作中の膝関節屈曲伸展角度、大腿骨回旋角度、脛骨回旋角度、および大腿骨・脛骨回旋角度から膝関節回旋角度を算出した。課題動作は5回測定し、その平均値を算出した。なお、関節角度の算出には、歩行データ演出用ソフトVICON Body Builder(VICON-PEAK社製)を使用しオイラー角を算出した。データの解析区間は、各被験者の膝関節屈曲60°から最終伸展位とした。膝関節屈曲60°での全ての回旋角度を0°と規定し、外旋方向をプラス、内旋方向をマイナスとした。データの解析は、膝関節が伸展していく間に膝関節が外旋する外旋群と内旋する内旋群とに分類した。二群間の大腿骨回旋角度及び脛骨回旋角度の平均値の差の検定にはt検定を用いた。膝関節の回旋運動と大腿骨及び脛骨の回旋角度との関連性を調査するために、Pearsonの相関係数を用いた。なお、統計学的有意水準は危険率p<0.05とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に基づき実施された。また全被験者に研究の趣旨および内容について十分に説明を行い、研究参加の同意を得てから研究を実施した。また、個人情報は本研究以外で使用しない旨を説明し、情報管理に配慮した。【結果】 SHMに関して、膝関節伸展時に膝関節外旋が生じる外旋群は9名(男性6名、女性3名、平均回旋角度3.5°±1.4)、膝関節内旋が生じる内旋群は6名(男性4名、女性2名、平均回旋角度-2.9°±1.2)であった。SHM中の大腿骨回旋角度の平均値は内旋群が4.9°±1.2、外旋群が-1.2°±2.4である。内旋群では大腿骨が外旋し、外旋群では大腿骨が内旋していた。群間の大腿回旋角度の相違は、統計学的に有意であった(p<0.01)。一方で、SHM中の脛骨回旋角度は内旋群が2.0°±1.0、外旋群が2.3°±1.5と全例外旋を示し、群間に有意差を認めなかった。また、大腿骨回旋角度と膝関節回旋角度において有意な負の相関関係が認められた(r=-0.94 p<0.001)、つまり大腿骨が内旋する被験者ほど、膝関節が外旋する傾向が統計学的に有意であったが、脛骨回旋角度と膝関節回旋角度との相関関係に有意差は認めなかった。【考察】 本研究において、SHMは膝関節伸展に伴い、膝関節が外旋する外旋群、内旋する内旋群の2パターンに分かれた。膝関節伸展運動中の脛骨回旋角度は両群ともに外旋を示したが、大腿骨回旋角度では群間に有意差を認めた。さらに膝関節回旋角度と大腿骨回旋角度は有意に高い相関関係を示しており、荷重位でのSHMは脛骨より大腿骨の回旋運動に影響を受けることが明らかになった。膝関節の運動は、大腿骨上の脛骨の運動(tibial-on-femoral)と脛骨上の大腿骨の運動(femoral-on-tibial)の2種類があるとされ、スクワットのような荷重位の運動は脛骨上の大腿骨の運動である。このため、荷重位でのSHMは大腿骨の運動量が大きく、大腿骨回旋角度に左右される可能性がある。大腿骨回旋角度の差異に関しては、骨盤からの運動連鎖、上半身重心の影響が考えられる。骨盤後傾は大腿骨外旋、骨盤前傾は大腿骨内旋のように、骨盤角度は大腿骨回旋に運動連鎖を引き起こす。したがって、スクワット動作中の骨盤前後傾の差異や股関節周囲筋の活動の差異が、今回の大腿骨回旋角度に影響を与えている可能性が推察される。今後、骨盤の運動解析および筋電図計測を含めて分析を行う必要であると考えられた。【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果より、臨床において荷重位でのスクリューホームムーブメントを誘導する際には、大腿骨の動きを誘導することの重要性が示唆された。
著者
石井 慎一郎 山本 澄子
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.11-16, 2008 (Released:2008-04-05)
参考文献数
15
被引用文献数
2 3

スクリューホームムーブメントの特性を明らかにするため,非荷重位での膝関節伸展運動をPoint Cluster法を用いた三次元動作解析により計測した。対象は20~65歳までの健常成人30名とした。その結果,19人の被験者は膝関節の伸展運動中に脛骨が外旋し,5人の被験者は終末伸展付近から脛骨が内旋し,6人の被験者は伸展運動中に脛骨が内旋していた。終末伸展付近から脛骨が内旋する被験者は女性が多く,全ての被験者がLaxity Test陽性という身体的特徴を有していた。また,膝関節伸展運動中の脛骨前方変位量も大きいという特徴も認められた。伸展運動中に脛骨が内旋する被験者は,40~60歳代の年齢の高い被験者であった。スクリューホームムーブメントは,靭帯の緊張や加齢変化によって影響を受けることが明らかとなった。
著者
長谷部 清貴 石井 慎一郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ab0704, 2012

【はじめに、目的】 膝関節は屈曲位から伸展する際に、スクリューホームムーブメント(以下SHM)と呼ばれる外旋運動が受動的に起こる。荷重位におけるSHMでは、大腿骨と脛骨の相対運動の差分として回旋角度が決定されるため、SHMの評価は大腿骨と脛骨の回旋運動のどちらに大きく影響を受けているのか明確にする必要性がある。しかし、SHMに関する研究は非荷重位のものが多く、荷重位におけるSHMに関する報告は少ない。本研究の目的は、スクワット動作中の大腿骨回旋角度、脛骨回旋角度を調査し、荷重位でのSHMの特性を明らかにすることである。【方法】 対象は、下肢に整形外科的、神経学的疾患のない健常成人15名(男性:10名、女性:5名)、平均年齢22.5±3.3歳とした。計測課題は、両下肢の間隔を肩幅とした立位姿勢から膝関節を約90°屈曲し、再び立位まで戻るスクワット運動とした。課題動作の計測には、三次元動作解析装置VICON612(VICON-PEAK社製)を使用した。赤外線反射標点の貼付位置は、体表面上の所定の位置に計21個の標点を設置し、課題動作中のマーカーの位置を計測した。計測によって得られた標点の三次元座標データを用いて、課題動作中の膝関節屈曲伸展角度、大腿骨回旋角度、脛骨回旋角度、および大腿骨・脛骨回旋角度から膝関節回旋角度を算出した。課題動作は5回測定し、その平均値を算出した。なお、関節角度の算出には、歩行データ演出用ソフトVICON Body Builder(VICON-PEAK社製)を使用しオイラー角を算出した。データの解析区間は、各被験者の膝関節屈曲60°から最終伸展位とした。膝関節屈曲60°での全ての回旋角度を0°と規定し、外旋方向をプラス、内旋方向をマイナスとした。データの解析は、膝関節が伸展していく間に膝関節が外旋する外旋群と内旋する内旋群とに分類した。二群間の大腿骨回旋角度及び脛骨回旋角度の平均値の差の検定にはt検定を用いた。膝関節の回旋運動と大腿骨及び脛骨の回旋角度との関連性を調査するために、Pearsonの相関係数を用いた。なお、統計学的有意水準は危険率p<0.05とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に基づき実施された。また全被験者に研究の趣旨および内容について十分に説明を行い、研究参加の同意を得てから研究を実施した。また、個人情報は本研究以外で使用しない旨を説明し、情報管理に配慮した。【結果】 SHMに関して、膝関節伸展時に膝関節外旋が生じる外旋群は9名(男性6名、女性3名、平均回旋角度3.5°±1.4)、膝関節内旋が生じる内旋群は6名(男性4名、女性2名、平均回旋角度-2.9°±1.2)であった。SHM中の大腿骨回旋角度の平均値は内旋群が4.9°±1.2、外旋群が-1.2°±2.4である。内旋群では大腿骨が外旋し、外旋群では大腿骨が内旋していた。群間の大腿回旋角度の相違は、統計学的に有意であった(p<0.01)。一方で、SHM中の脛骨回旋角度は内旋群が2.0°±1.0、外旋群が2.3°±1.5と全例外旋を示し、群間に有意差を認めなかった。また、大腿骨回旋角度と膝関節回旋角度において有意な負の相関関係が認められた(r=-0.94 p<0.001)、つまり大腿骨が内旋する被験者ほど、膝関節が外旋する傾向が統計学的に有意であったが、脛骨回旋角度と膝関節回旋角度との相関関係に有意差は認めなかった。【考察】 本研究において、SHMは膝関節伸展に伴い、膝関節が外旋する外旋群、内旋する内旋群の2パターンに分かれた。膝関節伸展運動中の脛骨回旋角度は両群ともに外旋を示したが、大腿骨回旋角度では群間に有意差を認めた。さらに膝関節回旋角度と大腿骨回旋角度は有意に高い相関関係を示しており、荷重位でのSHMは脛骨より大腿骨の回旋運動に影響を受けることが明らかになった。膝関節の運動は、大腿骨上の脛骨の運動(tibial-on-femoral)と脛骨上の大腿骨の運動(femoral-on-tibial)の2種類があるとされ、スクワットのような荷重位の運動は脛骨上の大腿骨の運動である。このため、荷重位でのSHMは大腿骨の運動量が大きく、大腿骨回旋角度に左右される可能性がある。大腿骨回旋角度の差異に関しては、骨盤からの運動連鎖、上半身重心の影響が考えられる。骨盤後傾は大腿骨外旋、骨盤前傾は大腿骨内旋のように、骨盤角度は大腿骨回旋に運動連鎖を引き起こす。したがって、スクワット動作中の骨盤前後傾の差異や股関節周囲筋の活動の差異が、今回の大腿骨回旋角度に影響を与えている可能性が推察される。今後、骨盤の運動解析および筋電図計測を含めて分析を行う必要であると考えられた。【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果より、臨床において荷重位でのスクリューホームムーブメントを誘導する際には、大腿骨の動きを誘導することの重要性が示唆された。
著者
安里 和也 大神 裕俊 比嘉 裕 石井 慎一郎
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.A0070-A0070, 2007

【はじめに】 臨床上、腰椎や骨盤の可動性を上げることで、歩行中の「歩きやすさ」や歩幅が増大することが確認される。しかし、腰椎・骨盤の運動前後で変化を明示した研究は見当たらない。そこで今回、実際に腰椎・骨盤運動前後での歩行の変化を調査し、得られた結果と若干の知見を交え報告する。<BR><BR>【対象と方法】 本研究の趣旨を充分に説明し、賛同を得た健常成人男性7名(平均年齢26.0±7.26歳)を対象とし、骨盤運動前後での歩行変化を比較した。骨盤運動とは、足関節・膝関節・股関節がそれぞれ90度になるようにセットした端坐位にて、体幹を伸ばす・丸めると連動して骨盤を前傾・後傾させる運動を選択した。また検者の手の感触にて腰椎前弯の分節的な動きが確認できるまで運動を繰り返した。歩行分析にはVicon-peak社製三次元動作解析装置を使用し、歩行は自然歩行(以下、歩行)とし、骨盤運動前後に4試行ずつ行った。マーカーは胸骨柄・胸骨剣状突起・第一胸椎棘突起・第10胸椎棘突起・両上前腸骨棘・両上後腸骨棘中間点・左股関節・左大腿骨内側上顆・左大腿骨外側上顆・左外果・左踵骨先端・左第五中足骨頭に貼付し、A:胸郭・B:骨盤の空間に対する角度及びC:骨盤に対する大腿骨(以下、股関節)の角度を求めた。データは前述の4試行の歩行の中からFoot flat時のA~Cを抽出、平均を求め、対応のあるT-検定にて比較した。また、各個人のデータ間の比較として対応のないT-検定を用い、比較した。なお、感想として運動前後の歩きやすさも記録した。<BR><BR>【結果】 骨盤運動前後における歩行に、統一した変化はみられなかった。しかし7例中6例が、骨盤・胸郭・股関節それぞれのXYZ成分9成分中のどれか2つ以上の有意差を認めた。また、全例で骨盤運動後は「歩きやすい」との答えが得られた。<BR><BR>【考察】 結果である、骨盤運動後の「歩きやすさ」という点から察するに、今回の対象者は腰椎・骨盤周辺に不合理な動きがあったと予測される。つまり、腰椎椎間関節・仙腸関節の可動域制限を有していて、骨盤運動により若干、腰椎個々、仙腸関節の可動性が見出され、立位身体質量中心点(以下、重心点)が前方へ移動しやすくなったと考えられる。今回は、そのことへの身体対応の多様さの結果と考えられるのではないだろうか。また統一見解が得られなかったことに関しては、個々の対象者の腰椎・骨盤周辺の不合理さが、研究前からの統一を得ていなかったからでないかとも考えている。<BR><BR>【まとめ】 「ヒトの動き」も物体の移動と同様、力学の本質である重心点移動という視点にたち、動作分析を行うことも一方法に成り得るのではないかと考えられた。
著者
湯田 健二 石井 慎一郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.CaOI2038, 2011

【目的】<BR>我々は第45回日本理学療法学術大会にて、大腿骨前捻角度(以下前捻角)の違いが歩行立脚期中の膝関節運動に及ぼす影響を明らかにすることを目的として、歩行立脚期における膝関節内外反、膝関節内外旋、大腿内外旋、下腿内外旋の角度を調査し、前捻角が大きくなるほど立脚初期の下腿内旋角度と立脚後期の膝関節外反角度が増加することを報告した。今回は歩行立脚期中の股関節内外旋角度及び骨盤回旋角度を調査項目に加えることで、前捻角の違いが歩行立脚期中の膝関節運動に及ぼす影響を更に明確にすることを目的とした。<BR>【方法】<BR>対象は、本研究の主旨に同意の得られた中枢神経疾患、整形外科疾患既往のない健常成人20名(男性11名、女性9名、26±6歳)とした。分析課題は定常歩行とし、三次元動作解析装置VICON(Vicon-peak社製)を用いて計測した。マーカー添付位置は両側上前腸骨棘・両側上後腸骨棘の中央・大転子・大腿骨内外側上顆・脛骨内側顆・腓骨頭・脛骨内果・腓骨外果とし、それぞれの座標系を用いオイラー角を算出した。三次元動作解析装置から得られたデータをBodyBuilder(Vicon-peak社製)を用いて計算式を導入した上で、1)膝関節内外反、2)膝関節内外旋、3)股関節内外旋、4)骨盤回旋、5)大腿内外旋、6)下腿内外旋の角度を算出した。立脚初期の膝関節内反角度ピーク値及び立脚後期の外反角度ピーク値を膝関節内外反角度の代表値とし、膝関節内外反角度ピーク値出現時の上記2)~6)の値をそれぞれの代表値とした。前捻角はCraigテストを用いて計測し、上記1)~6)の角度との関係を調べた。統計処理はそれぞれの平均値を解析値としてPeasonの積率相関係数を用いて検定をし、有意水準は5%未満とした。<BR>【説明と同意】<BR>研究参加者に対し本研究の目的・方法を十分に説明した上で、「ヘルシンキ宣言」に基づいたインフォームド・コンセントを行い、同意書を用いて本研究への参加協力の同意を得た。<BR>【結果】<BR>前捻角と股関節内外旋角度の関係では、前捻角と立脚初期の股関節内外旋角度に有意な相関が認められ(r=0.508、p<0.05)、前捻角が大きくなるほど立脚初期の股関節内旋角度が増加する傾向がみられた。前捻角と骨盤回旋角度及び大腿骨回旋角度には相関は認められなかった。前捻角と膝関節内外反角度の関係では、前捻角と立脚後期の膝関節外反角度に有意な相関が認められ(r=0.604、p<0.01)、前捻角が大きくなるほど立脚後期の膝関節外反角度が増加する傾向がみられた。また前捻角と立脚初期の下腿回旋角度に有意な相関が認められ(r=0.529、p<0.01)、前捻角が大きくなるほど下腿の内旋角度が増加する傾向がみられた。前捻角と膝関節回旋角度には相関は認められなかった。<BR>【考察】<BR>分析結果として、前捻角が大きくなるほど、立脚初期の股関節内旋角度と下腿内旋角度、さらに立脚後期の膝関節外反角度が大きくなるということが分かり、本研究により以下の内容が明らかになった。1.前捻角増加に伴い、歩行立脚初期の股関節内旋角度が増加し、大腿骨頭と寛骨臼の不適合を是正していることが考えられた。立脚初期に股関節の内旋角度を増加させるための、骨盤、大腿の回旋パターンは様々であり、その方略は多岐にわたっていた。2.前捻角の増加によって出現する、いわゆるknee-inアライメントは、立脚初期の下腿内旋運動及び立脚後期の膝関節外反運動によって作り出されるものであると考えられた。3.過剰な前捻角を有し、なおかつ立脚初期の股関節内旋方向への制動が欠如している場合においては、下腿内旋に対する制動が過剰に必要となり、脛骨-大腿骨の直立化による安定メカニズムが破綻し、膝関節には外反方向へのメカニカルストレスが発生する可能性が示唆された。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>変形性股関節症の一要因として過度な前捻角があげられる。本研究は前捻角の違いが歩行立脚期中の膝関節運動に及ぼす影響を明らかにすることを目的として、前捻角の違いが膝関節内外反角度、膝関節内外旋角度、股関節内外旋角度、骨盤・大腿・下腿の回旋角度に及ぼす影響を調査した。変形性股関節症に随伴して発症する変形性膝関節症(coxitis knee)は、有病率の高さが指摘されながらも、その発生機序や頻度に対する報告は散見し未だ明らかにされていない。Kinematicsやkineticsを元にそのメカニズムを明確にしていくことによりcoxitis kneeへの対策とその予防的アプローチを検討していくことが必要であり、本研究はその一助になると考える。
著者
栗田 健 市薗 真理子 山崎 哲也 明田 真樹 石井 慎一郎 木元 貴之 小野 元揮 日野原 晃 岩本 仁 松野 映梨子 久保 多喜子 田仲 紗樹 吉岡 毅
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.CbPI2254, 2011

【目的】<BR> 投球障害肘・肩の原因は投球フォームの不正や体幹・下肢の機能不全によるといった報告は多く、臨床上これらの問題を有する症例を多く経験する。しかしこれらは、肘・肩双方に関与している要素であり、両関節への病態プロセスは不明な点が多い。過去に手指、手部、前腕部の機能不全と投球障害肘や肩との関連が報告されており、また一般的に投球障害肘のおける手内筋機能の重要性が指摘されている。そこで今回、肘・肩関節より遠位部である手内筋の虫様筋および母指・小指対立筋の機能と投球障害肘および肩との関連を調査したので報告する。<BR>【方法】<BR> 対象は、投球障害肘もしくは肩の診断により当院リハビリテーション科に処方があった24症例とした。肘・肩障害単独例のみとし、他関節障害の合併や既往、神経障害および手術歴を有する症例は除外した。性別は全例男性で、投球障害肘群(以下肘群)13例の年齢は、平均15.1±2.8歳(11歳~21歳)、投球障害肩群(以下肩群)11例は、平均23.5±11.0歳(10歳~42歳)であった。評価項目は、虫様筋と母指・小指対立筋とし、共通肢位として座位にて肩関節屈曲90°位をとり、投球時の肢位を想定し肘伸展位・手関節背屈位を保持して行った。虫様筋は、徒手筋力検査(以下MMT)で3を参考とし、可能であれば可、指が屈曲するなど不十分な場合を機能不全とした。母指・小指対立筋も同様に、MMTで3を参考とし、指腹同士が接すれば可、IP関節屈曲するなど代償動作の出現や指の側面での接触は機能不全とした。また上記結果より肘・肩両群における機能不全の発生比率を算出し比較検討した。<BR>【説明と同意】<BR> 対象者に対し本研究の目的を説明し同意の得られた方のデータを対象とし、当院倫理規定に基づき個人が特定されないよう匿名化に配慮してデータを利用した。<BR>【結果】<BR> 虫様筋機能不全は、肘群で53.8%、肩群で18.2%、母指・小指対立筋機能不全は、肘群で61.5%、肩群で27.2%と両機能不全とも肘群における発生比率が有意に高かった。<BR>【考察】<BR>一般的なボールの把持は、ボール上部を支えるために第2・3指を使い、下部を支えるために第1・4・5指を使用している。手内筋である虫様筋は、第2・3指が指腹でボールを支えるために必要であり、また母指・小指対立筋は、ボールの下部より効率よく支持するために必要である。手内筋が、効率よく機能しボールを把持することが可能であれば、手外筋への負担が減少し、手・肘関節への影響も少なくなる。本研究では、肘群において有意に手内筋機能不全の発生率が高く、虫様筋、母指・小指対立筋の機能低下によるボール把持の影響は、隣接する肘関節が受けやすいことが示唆された。その為、投球障害肘の症例に対してリハビリテーションを行う場合には、従来から言われている投球フォームの改善のみではなく遠位からの影響を考慮して、虫様筋機能不全および母指・小指対立筋機能不全の確認と機能改善が重要と考えられた。しかし本研究だけでは手内筋機能不全が伴って投球動作を反復したために投球障害肘が発生するのか、肘にストレスがかかる投球動作を反復したために手内筋機能不全が発生したのかは断定できない。今後はこれらの要因との関係を分析し報告していきたい。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 投球障害肘・肩の身体機能の要因の中で投球障害肘は手内筋である虫様筋や母指・小指対立筋に機能不全を有する比率が多いことが分かった。本研究から投球障害肘を治療する際には、評価として手内筋機能に着目することが重要と考える。また今回設定した評価方法は簡便であり、障害予防の観点からも競技の指導者や本人により試みることで早期にリスクを発見できる可能性も示唆された。<BR>
著者
石井 慎一郎 山本 澄子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0515, 2008 (Released:2008-05-13)

【目的】膝関節は屈曲位から伸展する際にスクリューホームムーブメント(以下SHM)と呼ばれる外旋運動が受動的に起こる.SHMの詳細な運動動態については個人差や加齢による変化,靭帯の弛緩性による影響など,依然として不明な部分が多い.そこで本研究では生体膝の自動運動下におけるSHMの動態特性を明らかにするため,三次元運動計測により,SHMの加齢変化を調べた.【方法】対象は本研究に同意した下肢に既往の無い20~79歳までの成人男性26名,女性 33名の計59名とした.計測課題は,股関節と膝関節が90度屈曲位となる端座位からの膝屈伸自動運動とした.開始肢位より膝関節のみを自動的に完全伸展位まで伸展させ,再び開始肢位まで戻す動作を連続して10回行わせた.膝関節の三次元運動計測には,Andriacchiらが考案したPoint Cluster法(以下PC法)を用いた.被験者の体表面上のPC法で定められた所定の位置に,赤外線反射標点を貼り付け,課題動作中の標点位置を三次元動作解析装置VICON612(VICON-PEAK社製)により計測した.得られた各標点の座標データをPC法演算プログラムで演算処理を行い,膝関節の屈伸角度,回旋角度,ならびに大腿骨に対する脛骨の前後方向移動量を算出した.各被験者の10試行のデータから, Tokuyamaの報告した最小二乗法に基づいた位相あわせによる平均化手法を用い各被験者の平均波形を抽出した。得られたデータから,各被験者の膝最終伸展位における脛骨の回旋角度ならびに脛骨の前後移動距離を調べ,年齢との関係をSpeamanの相関係数を算出して調べた.統計学的有意水準は危険率p<0.05とした.【結果】膝最終伸展位における脛骨の外旋角度は,年齢が高くなるにつれ小さくなる傾向にあった(p>0.05).60歳以上の被験者では27名中14名の被験者が内旋位になっていた.また,脛骨の前後移動距離と年齢との間には統計学的有意差は認められなかったが,60歳以上の被験者を対象に,脛骨の回旋角度と前後移動距離との関係を調べたところ,脛骨が内旋する被験者では脛骨の前方移動距離が大きくなる傾向にあった(p>0.05).【考察】60歳以上の被験者で,SHMが逆転し脛骨の内旋運動が起きる被験者が多く観察されたのは,加齢変化に伴う靭帯の緊張状態の変化の影響によるものと考えた.ま,SHMが内旋する被験者では,脛骨の前方移動が大きいという結果からも,何らかの原因で脛骨が前方へ変位し,それが原因となって伸展に伴い脛骨が内旋すると考察した.SHMの逆回旋は,関節の伸展運動を制限し,関節の安定化にも重大な問題を引き起こす.変形性膝関節症の有病率が60歳以上で急激に多くなること,SHMの逆回旋が60歳以上で多く見られるようになることに因果関係が存在する可能性が考えられた.
著者
重枝 利佳 石井 慎一郎
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.A0514, 2008

【目的】近年,ハイヒールやミュールなどを使用する女性が増えてきているが,これらの女性の歩行を見ると,明らかな膝関節の動揺や膝関節痛を訴えることが多い.そこで,三次元動作分析装置を用いて,裸足とヒール形状の違うミュール2種類を使用した時で,平地歩行において膝関節にどのような影響を及ぼすかを明らかにすることを目的とした.<BR>【方法】対象者は,健常女性20名とした.計測条件は,1)裸足,2)ヒール幅1.1cmのミュール(以下,ピンヒール),3)ヒール幅3.3cmのミュール(以下,ヒール)とし,それぞれ平地歩行を3試行ずつ行った.歩行計測には三次元動作分析装置VICON612(VICON PEAK UK)を使用し,Andriacchiらにより考案されたPoint Cluster法を用いて,歩行中の膝関節の屈曲・回旋・内反角度を算出した.分析は,歩行周期中に最も膝関節に動揺が起こるといわれている立脚初期に着目し,各パラメータを裸足,ピンヒール,ヒールの3群間で比較した.<BR>【結果】屈伸角度は,裸足が-20.8±7.7°,ピンヒールが-26.8±6.7°,ヒールが-26.4±8.1°であった.3種間で有意差は認められなかった.回旋角度は,裸足が-4.9±3.1°,ピンヒールが-8.0±3.3°,ヒールが-7.1±3.4°であった.裸足とピンヒール間に有意差が認められた.(p>0.041)内外反角度は,裸足が3.1±2.2°,ピンヒールが6.4±2.8°,ヒールが6.4±2.6°であった.裸足とピンヒール,裸足とヒール間で有意差が認められた.(p>0.004,p>0.003)<BR>【考察】歩行における立脚初期の膝関節は,大殿筋や大内転筋の働きによる大腿骨の外旋と,足関節の内反から外反へ向かう運動が引き起こす運動連鎖による脛骨の内旋によって,内旋位に置かれ動的安定化を図っている.しかし,ミュールを履くことで常に底屈位となる足関節は,踵接地から全足底接地にかけて,足関節の内反から外反へと向かう運動を行う時間を稼ぐことができず,脛骨を直立化させる運動連鎖を起こすことができない.そのため,ピンヒール,ヒールともに内反が大きくなったと考える.これを代償するために,床反力作用点を移動させて脛骨を直立化させる運動連鎖を起こすだけの時間を稼ごうとするが,ピンヒールは一点で接地するため十分な時間を稼ぐことができないのに対し,ヒールはピンヒールよりも接地面積が大きいため,脛骨を直立化させる運動連鎖を起こすことができるだけの床反力作用点の移動が起き,ピンヒールの方が,外旋が大きくなったと考える.<BR>【まとめ】本研究で得られた結果より,ピンヒールを使用することは膝関節にかなりの負担を与えるため,使用しないことが最も望ましい.しかし,近年多くの女性が社会進出することが当然となり,ハイヒールを使用する機会は増えてきている.ハイヒールを履かなければいけない場合は,接地面積の多く取れる,幅の広いヒールを使用すると良いと考えられた.
著者
肥田 直人 石井 慎一郎 山本 澄子
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.31, no.6, pp.815-818, 2016 (Released:2016-12-22)
参考文献数
9

〔目的〕本研究では,ランニングにおける前足部接地と後足部接地の推進特性の違いを調べた.〔対象と方法〕対象は健常成人18名.三次元動作解析装置を用いて前足部から接地したランニングと,後足部から接地したランニングを計測した.〔結果〕後足部接地では立脚期に重心前方移動が大きく,前足部接地では遊脚期に大きかった.後足部接地では立脚前半における床反力鉛直成分が大きく,前足部接地では立脚後半における床反力鉛直・前方成分が大きかった.後足部接地では,立脚前半に大きな後方への回転力が生じた.〔結語〕後足部接地では衝撃を減らすことで前に進み,前足部接地では地面を強く蹴ることで前に進むという特性がみられた.
著者
木藤 伸宏 新小田 幸一 金村 尚彦 阿南 雅也 山崎 貴博 石井 慎一郎 加藤 浩
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.23, no.5, pp.633-640, 2008 (Released:2008-11-21)
参考文献数
28
被引用文献数
2 2

〔目的〕本研究は足踏み動作時の外部膝関節内反モーメントを内側型変形性膝関節症(膝OA)群と健常群で比較した。さらに膝OA群の外部膝関節内反モーメントと疼痛,身体機能との関係を明らかにすることを目的とした。〔対象〕被験者は内側型変形性膝関節症と診断された女性30名(膝OA群),健常女性18名(対照群)であった。〔方法〕動作課題とした足踏み動作を,3次元動作解析装置と床反力計を用いて計測した。疼痛と身体機能に関してはWOMACを用いて評価した。〔結果〕外部股関節内転モーメント,外部膝関節内反モーメントは膝OA群と対照群で有意な差はなかった。外部膝関節内反モーメント比率は,片脚起立期では膝OA群は対照群より有意に大きかった。片脚起立期の外部膝関節内反モーメントは,疼痛に影響を与える要因である可能性が示唆された。疼痛は身体機能に影響を与える要因であった。〔結論〕膝OAの理学療法では外部膝関節内反モーメントを減少させる治療戦略が重要であることが示唆された。