- 著者
-
酒井 アルベルト
- 出版者
- 日本オーラル・ヒストリー学会
- 雑誌
- 日本オーラル・ヒストリー研究 (ISSN:18823033)
- 巻号頁・発行日
- no.4, pp.85-105, 2008-10-11
非行に走る子供たち、つまり13か14歳の子は正にそれだよ。迷っていてどうすればいいのか分かっていない。日本の学校では授業を理解できないし、宿題を手伝ってくれる人もいない。ブラジルに送られたら、向こうに適応できないから余計駄目になる。また日本に帰っても仕事がないから外でブラブラしている。何をすればいいの?もちろん泥棒ね。他に何もすることが出来ない! Rさん1990年代に始まった南米諸国から日本への労働者の動きにおいて、近年の滞在の長期化・定住化に伴い、深刻な問題の一つとして認識されているのは第2世代の言語教育である。「デカセギ」と呼ばれているこのコミュニティの大半はポルトガル語を公用語とするブラジル出身者、次いでペルー人をはじめとするスペイン語圏のラテンアメリカ出身者から構成されている。本稿は、筆者が行った調査をもとに、デカセギの定住化の傾向を母語に関わる言説から議論するものである。「ポルトガル語」や「スペイン語」が語りの中でどのようなシンボルとして、またどのような位置にあるのかを分析し、「母語を話す」行為の枠組みを読み解くことを試みる。そこで、いくつかのストーリーを分析し、その結果「疎外要素としての母語」と「コミュニティの統合要素としての母語」という対照的な語りが浮かび上がった。