著者
大塚 直
出版者
国立音楽大学
雑誌
国立音楽大学研究紀要 (ISSN:02885492)
巻号頁・発行日
vol.43, pp.1-12, 2008

演劇とは何か。この問題をめぐって様々なアプローチが考えられるだろう。だが本稿では、少なくとも伝統的な西洋の戯曲を参照するかぎり、演劇が常に王の退位など法的権力の失効する「例外状態」を扱いながら、そこに正義を洞察するメディアとして機能してきたことに着目する。演劇は、その意味では政治学者カール・シュミットの唱えた「例外状態」説における法の問題と通底する問題性を持っている。このような視座は、とくに旧東ドイツの劇作家ベルトルト・ブレヒトとその後継者ハイナー・ミュラーの〈教育劇〉において考察されてきた。では彼らは、極限状況における「正義」の問題をどのように演劇テクストに結実させたのか。さらに、彼らの仕事を嚆矢として出現した新しい現代劇の傾向を「ポストドラマ演劇」と定式化する演劇学者H.-Th. レーマンは、今日の演劇形態のいかなる点に正義/正当性(Gerechtigkeit)を見出しているのか。これらの問題を整理することで、現代における演劇の可能性を捉え直してみたい。

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