- 著者
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田崎 和江
- 出版者
- 地学団体研究会
- 雑誌
- 地球科學 (ISSN:03666611)
- 巻号頁・発行日
- vol.48, no.4, pp.395-412, 1994-07-25
- 被引用文献数
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地球上に広く分布する微細な炭素粒子は,環境の変化に最も敏感に対応する物質の一つである.その炭素の起源,微細形態,結晶成長の過程,化学結合,分布などを明かにし,炭素物質を評価するうえで,電子線を用いた手法が有効である.ここには,様々な炭素物質について,その目的に応じた有効な分析方法の実例を示した.走査型(SEM)および透過型電子顕微鏡(TEM)による観察は,炭素物質の微細形態,結晶成長過程,結晶度を知るのに適している.バクテリアなどを含む有機物が濃集した非晶質の炭素は,続成作用により,高結晶度のグラファイトヘと変化する.初期の炭素物質は,球粒,管,フレーク,薄膜,シート,リボン状などさまざまな形態をとり,最も成長した結晶であるグラファイトは,六角板状のバウムクーヘン状構造をとる.炭素の分布を知るには,エレクトロンマイクロプローブ(EPMA)やオージェ(Auger)による元素濃度分布図が有効である.オージェは,導電性物質の蒸着を必要としないので,岩石中のカーボンの存在を薄片の状態で検出することが可能である.高い導電性を持つことで知られているワイオミング産のSybille Monzosyeniteに,オージェ分析を適用し,鉱物境界に高濃度の炭素が存在することが,高導電性の要因の一つであることを明かにした.また,オージェは導電性物質の蒸着なしで,オングストロームのオーダの最表面分析が可能である.フーリエ赤外線分析(FT-IR)は,炭素の化学結合や水分子との結合状態を知ることができる.グラファイトは,その結晶度の違いによりOHやC-C結合の吸収の程度が異なる例として,片麻岩中の低結晶度の炭素から水分が抜け,次に酸素が抜けてグラファイトヘと変化するプロセスを示した.また,電子線走査化学分析器(ESCA)による炭素(1S)の高分解能分析は,様々な炭素結合の種類とその量比を知るのに有効である.この方法により,深海底堆積物中の海緑石に含まれる炭素が,COO,C-O,C-Cそしてグラファイトといった異なる炭素結合により構成されていることを明かにした.この結果は,海緑石が有機物起源であり,その後,無機化すること,有機炭素と無機炭素の境界は明瞭ではないことなどを示している.さらに,重イオン加速器(RILAC)は,炭素が表面吸着しているか,または結晶構造に組み込まれているかの判断に有効である.例えば都市ガスのすすの分析は,金属やSiO_2といった標準試料と比べ,炭素が結晶性の構造を待つことを示した.同時に,この方法は,酸素と水素の存在状態の差異も明瞭に表わすことができる.重イオン加速器は,大気からもたらされた汚染物質の炭素と物質本来の結晶構造中の炭素原子との区別に有効である.