- 著者
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細澤 仁
- 出版者
- 神戸大学
- 雑誌
- 神戸大学保健管理センター年報
- 巻号頁・発行日
- vol.23, pp.73-82, 2003-04
解離性同一性障害の終結3症例を提示し,精神療法という観点から考察を加えた。解離性同一性障害患者との精神療法過程においては,以下の二つの次元の転移に注意を払う必要がある。(1)幼小児期に患者が外傷を経験したとき,その外傷を消化する能力,つまり自然治癒能力を発揮できないような心的あるいは外的要因が中核的葛藤となり,治療関係に転移されるということ。(2)外傷により精神病水準の不安が維持され,投影同一化を介して治療関係の内外に立ち現れるということ。それぞれの転移に対する治療上の留意点として,(1)には転移解釈,直面化,明確化を用いて,患者が解離という機制で否認することなく,治療関係に転移された中核的葛藤をワークスルーすることを助けること,(2)には精神病水準の不安を治療者が治療関係のなかで「生き残る」ことを通して抱えること,以上二つの次元の作業が解離性同一性障害患者の精神療法に必要であると主張した。