著者
奥村 武久 河原 啓 高野 新二 岡田 三千代 林 光代 鈴木 英子 野田 恵子 木村 純子 長井 勇 植本 雅治
出版者
神戸大学
雑誌
神戸大学保健管理センター年報 (ISSN:09157417)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.47-55,

定期健康診断に対する一般学生の持つ不安をアンケートによって調査した。1983年度と1984年度の回答を比較することにより,次の結果を得た。(1)1983年の結果と1984年の結果が非常に近似した。(2)健康診断の必要性は,1984年の新入生の89.6%,大学院生の94.3%が肯定した。否定は新入生の女性の12.8%が一番高い数字であった。(3)健康診断前の不安は,新入生の場合,男性の25.4%,女性の31.1%で女性の不安率が高かった。(4)不安の理由として,新入生の男性は視力,色覚を第1位に,新入生の女性は体重を第1位に挙げていた。(5)終了後の心配については,再検査の必要なものすべてが心配になるのではなく,20〜67%程度であることが判明した。(6)再検査の項目によっても差異があり,検尿の再検査者の中に心配になった者の率が高いことが分った。(7)批判・不満・要望の意見を検討すると,次の事が明らかになった。(a)一番多い批判は「時間がかかる。混む」という意見であること(b)尿検査の表示についての不満を解消するための努力によって,次年度にその効果が認められたこと(8)得られた意見と現状とのつき合わせを繰返すという息の長い努力が健康診断を望ましい方向へ近づけるのに重要であることを指摘した。
著者
細澤 仁
出版者
神戸大学保健管理センター
雑誌
神戸大学保健管理センター年報 (ISSN:09157417)
巻号頁・発行日
no.23, pp.89-99, 2003-04

解離性同一性障害については幼小児期の性的外傷との関連が取り沙汰されているが,その精神病理と精神療法については未だ十分な議論がなされていない状況である。本論では重篤な性的虐待の既往がある解離性同一性障害患者の終結例を臨床素材として取り上げ,その精神病理の形成と精神療法過程を検討し,さらには外傷のワークスルーについて考察した。症例は解離性同一性障害をもつ20代の女性である。彼女は母親のネグレクト的養育態度を背景にして,父親による長期間に及ぶ重篤な性的虐待を経験した。そのような外傷および外傷を消化する自然治癒力が発揮できない状況が彼女の中核的葛藤を形成し,また性的外傷により圧倒される体験が精神病水準の不安を未消化のまま存続させることになった。当初は解離は精神病水準の不安への防衛として機能し,後には対人関係上に転移される中核的葛藤の回避手段として用いられるようになった。彼女との精神療法過程において,転移された中核的葛藤を今-ここでの治療関係の中で扱っていくことにより,解離により回避されていた生の情緒に触れていくことが可能になり,解離された対象関係の統合の基盤が形成されていった。中核的葛藤のワークスルーが進むにつれて,解離障壁が緩み,解離により防衛されていた精神病水準の不安が露呈し,投影同一化を介して治療関係および病棟に排出された。その精神病水準の不安を治療状況の中で抱えることを通して「新規蒔き直し」が起こり,彼女は回復した。彼女との精神療法過程において,外傷体験を感情を伴って語るということは生じなかった。慢性の重篤な外傷体験を持つ患者との精神療法における中心課題は,治療状況に転移された中核的葛藤を今-ここで扱いつつ,精神病水準の不安を治療関係の中で抱えていくことを通して患者が自然治癒力を発揮できるように援助することであり, 治療の中で外傷記憶を直接取り扱うことは必ずしも必要ないと主張した。
著者
木村 純子 野田 恵子 楠田 康子 林原 礼子 近藤 泰子 白川 孝子 桜井 宏子 横手 香代 細澤 仁 中田 裕久 馬場 久光
出版者
神戸大学保健管理センター
雑誌
神戸大学保健管理センター年報 (ISSN:09157417)
巻号頁・発行日
no.23, pp.83-88, 2003-04

神戸大学で,2年次学生を発端者とする結核集団感染が発生した。その後の調査により,この学生が神戸大学に入学する2ヶ月前に,高校3年次の同級生が'排菌'を伴う結核で入院していた事が判明した。また,他の大学に進学した当時の同級生2名と副担任1名も,神戸大学における発端者とほぼ同時期に結核を発病していた。結核菌のDNA分析により,神戸大学における結核集団感染の発儒者と同級生2名および副担任1名の起炎菌は同一株と判明し,これら4名の者は全て,高校3年次の患者から感染し,約1年~1年半を経て発病したものと考えられた。翌春,新入生全員 (3,871名)に「入学以前の結核感染の機会」など'結核'に関する質問項目を含む健康調査を実施した。調査用紙を提出した3,797名(回収率 98.1%)の中に,「結核治療中の者」はいなかったが,「過去に結核の治療を受けた者」が14名(0.4%)存在した。また,「結核で入院したり,入院している人が周囲にいる者」が118名(3.1%)〔(1)現在5名,(2)過去1年以内36名,(3)過去1~2年16名,(4)3年以上前61名〕存在した。神戸大学における事例や,結核菌感染から発病までの一般的な期間に鑑み,(1)~(3)の計57名は,新入生健康診断時の胸部X線撮影では異常がなくても,在学中に結核を発病する可能性の高い集団と考えられた。以上のことから,新入生に対して「入学以前の結核感染の機会」について調査することは, 発病の可能性の高い学生を予め把握し,結核集団感染を未然に防ぐ上で極めて有用であると考えられた。
著者
細澤 仁
出版者
神戸大学
雑誌
神戸大学保健管理センター年報
巻号頁・発行日
vol.23, pp.73-82, 2003-04

解離性同一性障害の終結3症例を提示し,精神療法という観点から考察を加えた。解離性同一性障害患者との精神療法過程においては,以下の二つの次元の転移に注意を払う必要がある。(1)幼小児期に患者が外傷を経験したとき,その外傷を消化する能力,つまり自然治癒能力を発揮できないような心的あるいは外的要因が中核的葛藤となり,治療関係に転移されるということ。(2)外傷により精神病水準の不安が維持され,投影同一化を介して治療関係の内外に立ち現れるということ。それぞれの転移に対する治療上の留意点として,(1)には転移解釈,直面化,明確化を用いて,患者が解離という機制で否認することなく,治療関係に転移された中核的葛藤をワークスルーすることを助けること,(2)には精神病水準の不安を治療者が治療関係のなかで「生き残る」ことを通して抱えること,以上二つの次元の作業が解離性同一性障害患者の精神療法に必要であると主張した。