- 著者
-
木村 和雄
- 出版者
- 沖縄工業高等専門学校
- 雑誌
- 独立行政法人国立高等専門学校機構沖縄工業高等専門学校紀要 (ISSN:1881722X)
- 巻号頁・発行日
- vol.2, pp.73-82, 2008-03
2006年梅雨期に沖縄島中部の中城村で発生した安里地辷りは、近年の斜面崩壊の中では最大かつ桁違いの規模であったが、その誘因となった降水は、他の地辷り発生時のそれと比べて量・強度とも特筆すべき点の無い平凡なもので、「豪雨」ではなかった。このため土砂災害警報など事前の防災情報が提供されないなかで、大きな災害が生じることになった。そこで、本稿ではこのような大規模地辷りが発生する条件を検討し、防災情報整備・改善へのアプローチを試みた。安里地辷りは、沖縄島中南部で一般的に生じる泥岩層すべりであり、地質条件において特異性は認められない。斜面崩壊の規模は先行する地形場に規定され、安里地区を含む中城湾沿いの急斜面帯は、他の地域と比べて大規模地辷りを発生させるポテンシャルが高い。さらにこの急斜面帯のなかでも、風隙直下でかつ地形プロセス変化の前線に面した箇所では大規模地辷り発生の可能性がより高いように見える。一方、2006年の梅雨期は降水日の連続性において特異であることがわかった。すなわち、沖縄島における梅雨期の降雨パターンは、例年、数日おきに降水日と晴天日が繰り返されるのに対して、2006年5月下旬から6月中旬にかけては、ほぼ毎日降水が続く異例の長雨が記録され、実効雨量で示される地下水分も高い水準のまま推移した。その結果、斜面地下に広大なすべり面が形成され、大規模な土砂移動が可能になったと考えられる。以上のことから、大規模地辷り災害に対する警戒情報提供のためには、従来から評価してきた情報に加えて、地盤条件や地辷り地形だけでなく斜面崩壊の前提となる「場」のポテンシャルも評価しておくこと、短時間の時間雨量解析だけでなく日・週・旬・月単位などの長時間の降水パターンとそれに呼応する水文状況も評価対象とすること、などが必要と考える。