著者
大石 敏広
出版者
沖縄工業高等専門学校
雑誌
独立行政法人国立高等専門学校機構沖縄工業高等専門学校紀要 (ISSN:1881722X)
巻号頁・発行日
no.2, pp.61-72, 2008-03

心理的利己主義とは、人は本質的に利己的であるという主張である。この論文の目的は、次の三つの視点から心理的利己主義への批判を検討し、心理的利己主義はいまだ論駁されてはいないことを示すことである。第一に、心理的利己主義に対して、我々の行為は必ずしも私益に基づいてはおらず、また私益に基づいた行為がすべて利己的であるわけではないという批判がなされる。これに対して、心理的利己主義者は、心理的利己主義における「我々自身の利益」は〈我々自身の幸せ〉を意味していると規定する。それ故、心理的利己主義は、我々はそれぞれ常に、我々個人個人にとって望ましいこと(すなわち、自分の利益・幸福)を欲するという主張であるということになる。第二に、心理的利己主義に対して、我々はしたいわけではないことを時々するという批判がある。この批判によれば、人々はしたいことを除いて決して何も自発的にしないという間違った前提に心理的利己主義は基づいている。例えば、私はある行為をしたいわけではないけれど、ある目的を達成したい、あるいはその行為をすべきであると考えているので、私はその行為をする。しかし、この議論は心理的利己主義を論駁するものではない。そのような行為は、直接的に私がしたいと思うことではないが、その目的を達成したいという欲求がなければ、私はその行為をしないであろう。また、なぜ私は、その行為をすべきであると考えるのであろうか。例えばそれは、その行為をすることそれ自体を大事にしたいと私が思っているからである。第三に、人が望むことは常にその人の利益(幸福)であるという心理的利己主義の主張に関していくつか問題点がある。例えば、G.E.ムーアは、「欲求の対象」と「欲求の原因」を区別して、心理的利己主義を批判している。ムーアによれば、ワインを飲むという考えは私の心に快い感情を引き起こし、この快い感情はワインを飲みたいという欲求を生み出す。この感情が「欲求の原因」であり、「欲求の対象」はワインである。よって、ワインを飲むことによって私が得ることができる快は、「欲求の対象」ではない。 しかしながら、なぜ私は、ワインを飲むという考えを持つのであろうかと心理的利己主義者は問う。それは、ワインを飲むことによって快を得ることができることを私は知っているからである。この快こそ、ワインを飲むときに私が本質的に求めている対象である。
著者
青木 久美
出版者
沖縄工業高等専門学校
雑誌
独立行政法人国立高等専門学校機構沖縄工業高等専門学校紀要 (ISSN:1881722X)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.29-38, 2010-03

「逆対応」とは西田幾多郎の用語であり、絶対と相対(人間)という相対立するものが、自己否定的に対応しあう宗教的関係を表している。西田によれば、このような否定を媒介するものは絶対者の自己表現であるところの言葉であり、仏教の場合は名号がそれにあたる。では、言葉を否定し、一切が空であるとする空観においては、このような逆対応的関係は成立しないのであろうか。空の経験は、それだけでは、西田が「平常底」と呼ぶ自在的立場を意味するものではない。空の自覚による肯定的転換を経て、はじめて、人は、否定と肯定という二項対立をはなれ、執着をはなれた自在的立場に達することができる。空の哲学を築いたといわれる『中論』において、このような自在的立場に到る道は「中道」と呼ばれている。それは、空にほかならない仏陀が、慈悲による自己否定により示した道である。このような仏陀の慈悲に導かれて、人は、自らが空であるという仏陀の自覚を自覚する。そして自覚が深まるにつれて、世界はより慈悲に満ちたものとして経験されるのである。このような宗教経験は西田が「逆対応」と呼ぶものに相当する。空の経験において言葉は止滅するが、言葉がなければ仏教的真実は示されない。このような逆対応的経験において、ひとは、仏陀の慈悲を表現する世界の自己表現点となり、それを通して、仏教的真実が示されるのである。ただし、「中道」を歩む者に対して仏陀は、同時に空であるという自己矛盾的側面を露呈する。このような仏陀の自己矛盾的側面によって、「中道」を歩む者は、自己を際限なく否定し、その自覚はより深まるのである。
著者
翁長 志保子
出版者
沖縄工業高等専門学校
雑誌
独立行政法人国立高等専門学校機構沖縄工業高等専門学校紀要 (ISSN:1881722X)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.47-60, 2015-03

本稿は崎山多美の作品である「孤島夢ドゥチュイムニ」と「クジャ奇想曲変奏」の 2 作品に登場するカメラマンの男の変容を中心に,作品を分析している。作品中に登場する「ホッホッホッの踊り」が,カメラマンの男と,作中に登場するシンカヌチャーにとって,どのような意味を持っているのかを中心に分析し,それによって築かれる共同体の構築と「解体」がいかにして起こるのかについて分析している。
著者
名嘉山 リサ
出版者
沖縄工業高等専門学校
雑誌
独立行政法人国立高等専門学校機構沖縄工業高等専門学校紀要 (ISSN:1881722X)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.85-99, 2009-03

1970年代にハリウッドで作られたブラックスプロイテーション映画には女性蔑視を助長するような作品が少なくないが、『コフィ』(1973年)や『クレオパトラ・ジョーンズ』(1973年)などの女性主人公は、それまでとは違った、美しくて強いという新しい女性像を打ち出している。その特徴はヘアスタイルや衣装で際立っているが、それらは単に映画のために作られたものではなく、当時のファッションを反映するもので、黒人社会におけるブラックパワー運動、フェミニズムの台頭、美に対する意識変革などと密接に関わっている。つまり、ブラックスプロイテーション映画における強い女性像は当時の社会的および文化的背景を反映し、またそれらに影響を及ぼした。映画のストーリーだけでなく俳優のヘアスタイル、衣装、メイクなどが黒人女性表象の歴史を辿るうえで重要な映画的表現法の一つとなっており、一見すると現実離れしているような内容の映画も歴史を映す貴重な資料となり得る。
著者
田邊 俊朗 小川 和香奈
出版者
沖縄工業高等専門学校
雑誌
独立行政法人国立高等専門学校機構沖縄工業高等専門学校紀要 (ISSN:1881722X)
巻号頁・発行日
no.9, pp.13-20, 2015-03

沖縄県久米島で収穫した菌根性担子菌について、二次菌糸の分離、および rRNA 遺伝子内の ITS 領域の塩基配列解析を行った。二次菌糸が生育し菌株の単離ができる培地について検討したところ、ビール酵母を含む培地で生育・単離できることが明らかになった。また、得られた ITS 領域塩基配列データから BLAST による相同性解析を行ったところ、アンズタケ Cantharellus cibarius に 99.3%の相同性を示し、極めて近い類縁種であることが示唆された。
著者
西村 篤
出版者
沖縄工業高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究はサウンドスケープデザインにおける住民の参加と主体性の意義について示すことを目的とし、関連する3つの国内事例、すなわち「平野の音博物館」(大阪市)、「瀧廉太郎記念館庭園デザイン」(大分県竹田市)、「長崎サウンドデザイン塾」(長崎市)に対する現地調査が行われた。調査結果の分析から、これらの事例には、形式的な違いはあれども、住民による参加と主体性が不可欠であったことが明らかになった。
著者
青木 久美
出版者
沖縄工業高等専門学校
雑誌
独立行政法人国立高等専門学校機構沖縄工業高等専門学校紀要 (ISSN:1881722X)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.47-59, 2008-03

『中論』においてナーガールジュナは、言語が現実をそのまま言い表すことができるという人々の考え方を批判し、言語がそこで止滅するところの空を示そうとする。ただし、彼は空という見解を主張しようとしたわけではない。テトラレンマに基づいたナーガールジュナの帰謬法的論法は、自らの主張さえをも否定する。ナーガールジュナはむしろ、二項対立的言語が陥らざるを得ないアポリアを暴露し、それによって空を示そうとするのである。言語が陥らざるを得ないアポリアとは、言語世界の裂け目であり、非言語世界への開けである。このような開けとして経験される空は、伝統的解釈でいわれるような、自性の否定ではない。空が自性の否定と解されてきたのは、自性は縁起と相容れないものであるがゆえであるが、自性がなければそもそも事物の存在すら成り立たない。自性が非言語に開けているとき、事物は自立していると同時に他に依存している。つまり、自己同一的存在として縁起によって生じうるのである。
著者
下郡 剛 しもごうり たけし 総合科学科
出版者
沖縄工業高等専門学校
雑誌
沖縄工業高等専門学校紀要 = Bulletin of National Institute of Technology, Okinawa College (ISSN:24352136)
巻号頁・発行日
no.15, pp.58-68, 2021-03-16

縄といえば、中国の影響を強く受けた結果、独自の文化が花開いた、というのが一般的なイメージではなかろうか。そしてそれを象徴するのが首里城ということになろう。しかしこれは、薩摩侵攻後、中国との冊封関係を維持するため、琉球自らが中国化政策を推し進めた結果であり、それ以前の琉球文化は、圧倒的に強く日本からの影響を受けて歴史的な展開を見せてゆく。文献史学からの琉球の時代区分は、一六〇九年の薩摩侵入以前の古琉球期と、以後の近世期に区分されるが、日本からの影響は、古琉球期により強く見られ、近世期にそれが中国風へと変容してゆく。例えば、平成に復元された、我々が目にしていた首里城は、一七一五年、近世期のものを再現したものである。であるから、その姿は中国の紫禁城を思わせ、中国風ということになる。首里城以外に、沖縄の歴史と文化を象徴するとされるもう一つの文化財に、万国津梁の鐘があろう。王国時代、首里城の正殿に掲げられていたこの鐘には、銘文が刻まれており、「琉球国は南海の勝地にして、三韓の秀をあつめ、大明をもって輔車となし、日域をもって唇歯となす。この二つの中間にありて湧き出ずるの蓬莱島なり。舟楫をもって、万国の津梁となし、異産至宝十方刹に充満す」とする。銘文末尾には年次もあり、西暦で一四五八年、古琉球期のものである。銘文冒頭で「琉球国は南海の勝地にして」としているわけであるが、東西南北の方角は、あくまでも基点に対する相対的な位置関係である。琉球を「南海」と言っているその基点は、あくまで琉球の北方にあり、これは日本からの目線で書かれた銘文ということになる。つまり、古琉球期の文化財からは、日本との濃密な関係がうかがえ、近世期の文化財からは、中国との密接な関係がうかがえるということになる。古琉球期、このような文化交流の架け橋になったのが、仏教僧達であった。近世琉球仏教の基礎を確立したのは、古琉球期に日本から渡来した僧侶達であったが、古琉球期の僧侶達は同時に、琉球と日本の国家間交渉の役割をも果たしていた。特にその働きは、室町幕府で外交官として日中交渉に任じていた臨済宗僧侶に顕著に見られる。その僧侶達の手によって、仏教以外の様々な文化交流が進み、草書文字や茶などは近世琉球社会に深く浸透していくことになる。
著者
崎原 正志 親川 志奈子 さきはら まさし おやかわ しなこ 総合科学科(masashisakihara@gmail.com) 一般社団法人マッタラーハゲーラキッズクラブ(那覇市放課後児童クラブ)
出版者
沖縄工業高等専門学校
雑誌
沖縄工業高等専門学校紀要 = Bulletin of National Institute of Technology, Okinawa College (ISSN:24352136)
巻号頁・発行日
no.15, pp.9-21, 2021-03-16

本稿では、2012 年から2015 年に沖縄本島中南部を中心に活動していた「くとぅば・すりーじゃ☆にぬふぁぶし」の活動内容等について報告を行い、活動の総括を行う。第1章では、当該団体の概要および設立経緯について説明し、第2章で、実際の活動について詳細に記述する。第3章で会計報告を行い、最後の第4章では、本活動を通じての今後のしまくとぅば普及推進運動への展望および提言を行う。本稿が今後のしまくとぅば普及推進運動に有益な情報となれば幸甚である。
著者
木村 和雄
出版者
沖縄工業高等専門学校
雑誌
独立行政法人国立高等専門学校機構沖縄工業高等専門学校紀要 (ISSN:1881722X)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.73-82, 2008-03

2006年梅雨期に沖縄島中部の中城村で発生した安里地辷りは、近年の斜面崩壊の中では最大かつ桁違いの規模であったが、その誘因となった降水は、他の地辷り発生時のそれと比べて量・強度とも特筆すべき点の無い平凡なもので、「豪雨」ではなかった。このため土砂災害警報など事前の防災情報が提供されないなかで、大きな災害が生じることになった。そこで、本稿ではこのような大規模地辷りが発生する条件を検討し、防災情報整備・改善へのアプローチを試みた。安里地辷りは、沖縄島中南部で一般的に生じる泥岩層すべりであり、地質条件において特異性は認められない。斜面崩壊の規模は先行する地形場に規定され、安里地区を含む中城湾沿いの急斜面帯は、他の地域と比べて大規模地辷りを発生させるポテンシャルが高い。さらにこの急斜面帯のなかでも、風隙直下でかつ地形プロセス変化の前線に面した箇所では大規模地辷り発生の可能性がより高いように見える。一方、2006年の梅雨期は降水日の連続性において特異であることがわかった。すなわち、沖縄島における梅雨期の降雨パターンは、例年、数日おきに降水日と晴天日が繰り返されるのに対して、2006年5月下旬から6月中旬にかけては、ほぼ毎日降水が続く異例の長雨が記録され、実効雨量で示される地下水分も高い水準のまま推移した。その結果、斜面地下に広大なすべり面が形成され、大規模な土砂移動が可能になったと考えられる。以上のことから、大規模地辷り災害に対する警戒情報提供のためには、従来から評価してきた情報に加えて、地盤条件や地辷り地形だけでなく斜面崩壊の前提となる「場」のポテンシャルも評価しておくこと、短時間の時間雨量解析だけでなく日・週・旬・月単位などの長時間の降水パターンとそれに呼応する水文状況も評価対象とすること、などが必要と考える。
著者
磯村 尚子 殿岡 裕樹
出版者
沖縄工業高等専門学校
雑誌
独立行政法人国立高等専門学校機構沖縄工業高等専門学校紀要 (ISSN:1881722X)
巻号頁・発行日
no.8, pp.1-9, 2014-03

高等教育の現場において,バイオテクノロジーの有用性と社会的な影響を学ぶため,遺伝子組換え技術を活用した実験が広く行われている。その実施に当たってはカルタヘナ法に則った厳しいルールが定められるが,カルタヘナ法は,生物多様性条約(CBD)の一部であり,組換え生物の拡散防止は生物多様性の保護という大きな国際的合意に包含される考え方である。そこで本稿では,生物多様性条約の目指す3つのゴール,すなわち1.生物多様性の保護,2.生物多様性の要素の持続的な利用,3.公正で衡平な利益配分,についてこれまでの議論をふまえて全体を俯瞰し,研究や教育上重要と思われる視点と論点を述べる。生物多様性がわれわれ人類にとってかけがえのない財産であるという考え方(エコロジー),人間生活と生物多様性とを両立させるためのマネジメントの観点(ポリシー),更には生物多様性から生じる利益をどの様に共有するかといった論点(エコノミー)のそれぞれについて,近年の動向を紹介し,全体把握の一助としたい。また遺伝資源をめぐるいわゆる南北問題について,利用国と保有国の中間に位置する沖縄のポテンシャルについても簡単に述べる。
著者
名嘉山 リサ なかやま りさ Nakayama Risa 沖縄工業高等専門学校 総合科学科
出版者
沖縄工業高等専門学校
雑誌
沖縄工業高等専門学校紀要 = Bulletin of National Institute of Technology, Okinawa College (ISSN:1881722X)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.11-19, 2018-03

1960年に公開されたハリウッド映画『戦場よ永遠に』(アライド・アーチスト、フィル・カールソン監督)は、その大部分が沖縄で撮影された。「サイパンの笛吹き男」と呼ばれ、サイパン戦で1,000人もの日本兵・民間人を無血で投降させたガイ・ガバルドンの半生を映画化した作品だが、ガバルドンが海兵隊入隊後、サイパン戦で活躍するまでの場面が、当時米国の占領下にあった沖縄をサイパンやハワイなどに見たてて撮影された。沖縄ではじめて「日米合作」のハリウッド映画のロケが行われたということで話題になり、在沖海兵隊が製作に全面協力したほか、日本の映画会社(歌舞伎座プロ)、地元の建設会社(國場組)、沖縄住民が多数エキストラやスタッフとして撮影に協力した。その中の一人が、監督の付き人として撮影に参加した比嘉松盛氏である。本インタビューでは、比嘉氏がカールソン監督の付き人になったいきさつや、撮影現場でのエピソードや印象などを語っていただき、一般的な資料からは知ることのできない情報を得ることを目的とした。インタビューは2015年7月23日に沖縄県浦添市で行われた。Hell to Eternity(1960)is based on the real story of Guy Gabaldon,the Pied Piper of Saipan, who made about 1,000 Japanese soldiers and civilians surrender during the Battle of Saipan. The majority of the film―the scenes where Gabaldon decides to enlist in the Marines, goes to Hawaii for vacation, fights the Japanese Army, saves Japanese people in Saipan,etc.―were filmed in Okinawa which was under U.S. rule. It was the first Japan-U.S coproduction Hollywood movie to be filmed there, and the U.S.Marine Corps as well as a number of Okinawan people cooperated in the filming as extras and staff members. Mr. Matsumori Higa, who was the assistant to Director Phil Kerlson,is one of the local people who participated in the filming of Hell to Eternity.This interview, conducted on July 23, 2015, reveals what it was like to work as an assistant to Director Kerlson and Mr. Higa's impression on the staff,the actors, etc. in relation to his memories of childhood and war.
著者
名嘉山 リサ Nakayama Risa 総合科学科 Department of Integrated Arts and Sciences
出版者
沖縄工業高等専門学校
雑誌
独立行政法人国立高等専門学校機構沖縄工業高等専門学校紀要 (ISSN:1881722X)
巻号頁・発行日
no.10, pp.41-53, 2016-03

戦後27年に及んだ「アメリカ世(ユー)」と呼ばれるアメリカによる沖縄統治時代に行われた広報活動のなかに、映像メディアを使うという方法があった。それによって統治政策を沖縄住民に広く知らしめ、理解を求め、統治を円滑に行うことを目指した。統治前半の1940年代から1950年代はニュース映画やドキュメンタリー映画などを入手・制作し、映画館や文化会館等での上映、あるいは巡回上映を行ったが、1960年前後にテレビ放送が始まるとテレビ番組も制作するようになった。琉球列島米国民政府(USCAR)はテレビの影響力に期待し、電波を通して米民政府の政策や実績をお茶の間に届けることに投資したわけだが、1960年代後半に沖縄返還が決まったのちも、次の目標を見据えその活動が止む事は無かった。本稿では1960年代後半以降のUSCARのテレビ番組制作に焦点を当て、広報局視聴覚課の任務やUSCARの広報戦略などを整理し、当時地元の民放二局で放映された番組の中から3本をモデルケースとして分析することで、その時期のUSCAR制作テレビ番組の実態を探る。During the 27 year U.S. rule of Okinawa from 1945 to 1972, the U.S. military government used audiovisual media as part of its educational and public relations activities. The United States' aim was to govern Okinawa smoothly by garnering the local residents' understanding for their occupation policies through these activities. During the first half of the occupation, the military government obtained and produced newsreels and documentary films, andscreened them in movie theaters, public halls, and outdoor areas. When TV broadcasting began around 1960, they shifted to produce TV programs. The United States Civil Administration of the Ryukyu Islands (USCAR),established in 1950, which succeeded the United States Military Government, had high expectations in regards to the influence of TV media, and therefore invested in disseminating its policies and achievements via air waves.USCAR continued to produce TV programs after the reversion of Okinawa was agreed to by the U.S. and Japan,for it had as an objective to psychologically prepare Okinawans for the reversion through TV programming. This paper focuses on the TV programs produced by USCAR during the last phase of its rule and examines the missions of the audio-visual division of the Public Affairs Department of USCAR and the conditions behind theirTV productions. The paper specifically focuses on three TV programs that were recently restored for a screening held in Okinawa in 2015—TV Weekly: A New Handicraft Shop, TV Weekly: A Year End Charity Campaign by the Americans, and Man, Time, and Place: American Children Learning Japanese Culture, and aims to elucidate the actualities of these programs made circa 1970.
著者
磯村 尚子 殿岡 裕樹
出版者
沖縄工業高等専門学校
雑誌
独立行政法人国立高等専門学校機構沖縄工業高等専門学校紀要 (ISSN:1881722X)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.19-26, 2013-03

ネギ属植物のうちタマネギとネギはわが国の農業における主要な野菜品目であり、両者を合わせると年収133万トン、年商2,000億円の市場価値を有している。沖縄県でも伊平屋島や伊是名島でタマネギの産地化が試みられるなど、ネギ類に関する取り組みがなされているが、生産量は年間539トン、生産効率は全国平均比で半分程度とふるわず、この原因としては本州に適したタマネギやネギの栽培品種が沖縄の気候風土に合致していない可能性が考えられた。タマネギには従来栽培されているものの他に、主として熱帯〜亜熱帯域で栽培されているシャロットと呼ばれる分球性のグループが知られており、高温・多湿に強く土壌病害にも抵抗性を持つことから沖縄の気候風土に合致した新たな品目になりうると考えられた。本研究では、シャロット及びシャロットとネギの雑種を用いた栽培試験を行い、その特性を調査した。栽培の結果、シャロットは分球を形成し雑種はネギ様の成長を示すことなどを明らかにした。これらの結果は沖縄におけるシャロット栽培の可能性を示すものであった。
著者
松田 昇一 Ishiuchi Toru 親川 兼勇
出版者
沖縄工業高等専門学校
雑誌
独立行政法人国立高等専門学校機構沖縄工業高等専門学校紀要 (ISSN:1881722X)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.67-76, 2009-03

衝突噴流群は広範囲に大きな熱伝達率が得られることから,ガスタービン翼の冷却および燃焼室の冷却など工業的に広く利用されている.高温鋼板やシートの冷却では,大きな熱伝達率が必要と同時に一様に冷却することも重要となる.しかしながら衝突噴流群の流れ場は,隣接する噴流同士の干渉や,壁面に衝突後外部へ流出する流れとの干渉により複雑となっており,場所によっては,熱伝達率値に大きな差異がみられる.また最近の機器の小型化に伴い,衝突噴流群も狭い空間内で使用される.その場合,衝突噴流群の流れ場は隣接する壁面の影響により,さらに複雑な流れ場となり,温度場も複雑となる.本研究では,比較的狭い空間内において衝突噴流群を垂直に高温壁に衝突させた場合の流れ場と高温壁面上の温度分布を測定し,流れ場が温度場に及ぼす影響を明らかにすることを目的としている.流れ場は,噴口上流部より煙を流入させ,噴口と衝突平板間に側面よりシート光(レーザ)を入射し可視化を行った.煙の粒子径は約1μm であり,レーザーは出力が1000mW のグリーンレーザである.温度場は,衝突平板裏面より赤外線放射温度計を用いて測定を行った.赤外線放射温度計には256×236のインジウムアンチモンセンサーが搭載されており,伝熱面全面の温度分布を同時に測定することができる.空間分解能は本実験条件において0.3×0.3mm であり,フレーム速度は1/120fps である.これらの実験結果より,衝突噴流群を垂直に高温壁に衝突させた場合の流れ場が温度場に与える影響を明らかにし,幾つかの実験式を提案した.
著者
大石 敏広
出版者
沖縄工業高等専門学校
雑誌
独立行政法人国立高等専門学校機構沖縄工業高等専門学校紀要 (ISSN:1881722X)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.39-51, 2010-03

この論文の目的は、技術者には、人口問題・南北問題と関わっていく責任があるということを指摘することである。具体的には次のような手順で議論が進められている。第一に、現在の技術者倫理における「地球的視野」の概念の分析が行われる。第二に、地球的視野、持続可能な社会、人口問題、南北問題の間の関係が示される。第三に、発展途上国における人口の爆発的増加と、先進国における豊かさの増大の間には密接な関係があると主張される。最後に、人口問題と南北問題の解決と持続可能な社会に向けての展望が提示され、それとの技術者の関わりが論じられる。
著者
下嶋 賢 仲村渠 大地
出版者
沖縄工業高等専門学校
雑誌
独立行政法人国立高等専門学校機構沖縄工業高等専門学校紀要 (ISSN:1881722X)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.11-15, 2011-03

本研究の目的は,5軸制御マシニングセンタの幾何偏差推定法の開発である.幾何偏差とは,5軸制御マシニングセンタの構成要素間の組み立て精度である.開発する幾何偏差推定法は,定式化した加工誤差の式を用いて最小二乗法により幾何偏差を推定するというものである.本研究では,幾何偏差の加工誤差への影響を定式化した.そして,加工誤差をもとに最小二乗法により幾何偏差を推定するプログラムを作成した.そして,シミュレーションにより妥当性を検討した結果,提案した推定方法で推定した幾何偏差を用いて5軸制御マシニングセンタを補正すると高精度化できることがわかった.
著者
名嘉山 リサ 与那覇 晶子 渡久山 幸功
出版者
沖縄工業高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

The Teahouse of the August Moon(『八.月十五夜の茶屋』)の原作小説、戯曲、映画を相対的に研究、比較検証することで、アメリカ側がどのように戦後沖縄を描き、また各作品がアメリカ、日本、沖縄等でどのように受容されたかを探ることを目指した。各研究分担者がポストコロニアル論、ジェンダー論などを中心に複数の論文を執筆し、沖縄、日本、アメリカで研究発表を行った。また当時の演劇の音声や二次資料などを収集し、作品の受容についても光をあてることができた。
著者
武村 史朗
出版者
沖縄工業高等専門学校
雑誌
独立行政法人国立高等専門学校機構沖縄工業高等専門学校紀要 (ISSN:1881722X)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.1-11, 2008-03

大震災などの災害時には,ビルや家屋など建造物の倒壊により多くの人命が失われている.建造物の倒壊によって発生する瓦礫により,被災者が下敷きとなった場合,早急かつ安全に被災者を検索し,救出する必要がある.現実にはレスキュー隊員など人手に頼る部分が多く,二次災害による人的被害の可能性が指摘されている.近年,被災者の検索や救出作業を行うさまざまなレスキューロボットの研究開発が行われている.著者は災害時における情報収集のためのロボットとして,ケーブル駆動型ロボットを提案している.また,近年,携帯端末をもつ人が増えていることから,携帯端末の電波の発信源を特定することで家屋倒壊時の被災者の位置を特定する研究も行ってきた.本論文では,上空から情報を収集するための手段として,バルーンを利用したケーブル駆動型バルーンロボットを開発する.本ロボットには各種情報を収集するためのセンサ(センサーユニット,SU)が搭載されている.さらに携帯端末の電波の発信源を特定するための被災者位置検索方法の提案を行う.屋外実験における本ロボットの軌道制御,提案する被災者検索方法の実験結果について述べる.