著者
木村 和雄
出版者
独立行政法人 国立高等専門学校機構沖縄工業高等専門学校
雑誌
沖縄工業高等専門学校紀要 (ISSN:24352136)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.73-83, 2022-08-31 (Released:2022-10-03)

地震学的には不明な点が多い琉球弧中央部について、琉球国史『球陽』の読解からその地殻変動像の復元を試みた。その結果、対象地域では18世紀後半に巨大地震が続発していたことが示唆された。1768年の地震では、地盤の強固な首里で建造物や陵墓などが損壊し、時の尚穆王が王殿からの退避を余儀なくされたほか、慶良間諸島の座間味島では津波による家屋流失の後、旧阿佐村が移転を強いられるなど、大きな被害を生じた。いわゆる八重山津波として知られる1771年の震災では、沖縄島、慶良間諸島、久米島で先島より強い地震動が表現されており、那覇にも強度1程度の津波が到達していた。また西表島では余震または誘発された地震による液状化が起きている。1791年には津波地震と思われる、地震動の記述を欠いた大規模な潮位変化が沖縄島内各地で記録された。特に中城湾に面した与那原では津波の高さが10mを超えたとされる。これらの地震・津波は、その現象の強さと空間的広がりから、プレート境界を震源とするM8 級かそれ以上の巨大地震によって引き起こされた可能性が高い。また、それらの地異が集中した期間の前後約100年間には、匹敵する地震・近地津波の記述が無いことから、琉球海溝では巨大地震が続発する数十年の活動期と百年スケールの静穏期とが繰り返されていると考えられる。
著者
木村 和雄
出版者
The Tohoku Geographical Association
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.1-18, 1994-03-25 (Released:2010-04-30)
参考文献数
34
被引用文献数
2 2

阿武隈高地北部は侵食小起伏面の発達が良好であるが, その層序的, 編年的位置づけは確定していない。本稿は先第三紀の基盤岩類とは区別される表層堆積物の分布, 堆積構造を調査し, それらの層序と侵食小起伏面との編年上の関係を検討した。侵食小起伏面は高位から, 高位面群 (750-1,000m), 中位面群 (550-730m), 低位面群 (300-550m) に区分され, いずれも陸上削剥によって成立したと考えられる。侵食小起伏面の形成と関係する堆積物は下部中新統と鮮新~更新統に大別される。下部中新統は調査地域北部に発達し, 下位より, 河成の砂岩および円礫岩互層を主とする比曽坂層, 陸成の亜円礫岩や海成砂岩からなる塩手層, 火砕岩類からなる霊山層で構成される。これら中新統は高位面群を開析する化石谷に分布し, 中位面群によって切られる。鮮新~更新統は山地西縁に分布し, 河成砂礫層である三春砂礫層と火砕流堆積物の白河層からなる。これら鮮新~更新統は低位面群を開析する旧河谷を充填するように堆積している。これらの調査結果から, 阿武隈高地北部の侵食小起伏面は層序的に次のように規定できる。高位面群は新第三紀より前に形成され, 中新世の初めには開析を受けていた地形面である。中位面群は中新世前期以降に形成され, 中新~鮮新世には開析されていた可能性が高い。低位面群は中新世後半以降から形成され, 鮮新~更新世境界頃から開析され始めた地形面である。侵食小起伏面は年代的にみて, 比較的平穏な構造運動と相対的な高海水準とが一致する時期に形成された可能性がある。
著者
木村 和雄
出版者
沖縄工業高等専門学校
雑誌
独立行政法人国立高等専門学校機構沖縄工業高等専門学校紀要 (ISSN:1881722X)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.73-82, 2008-03

2006年梅雨期に沖縄島中部の中城村で発生した安里地辷りは、近年の斜面崩壊の中では最大かつ桁違いの規模であったが、その誘因となった降水は、他の地辷り発生時のそれと比べて量・強度とも特筆すべき点の無い平凡なもので、「豪雨」ではなかった。このため土砂災害警報など事前の防災情報が提供されないなかで、大きな災害が生じることになった。そこで、本稿ではこのような大規模地辷りが発生する条件を検討し、防災情報整備・改善へのアプローチを試みた。安里地辷りは、沖縄島中南部で一般的に生じる泥岩層すべりであり、地質条件において特異性は認められない。斜面崩壊の規模は先行する地形場に規定され、安里地区を含む中城湾沿いの急斜面帯は、他の地域と比べて大規模地辷りを発生させるポテンシャルが高い。さらにこの急斜面帯のなかでも、風隙直下でかつ地形プロセス変化の前線に面した箇所では大規模地辷り発生の可能性がより高いように見える。一方、2006年の梅雨期は降水日の連続性において特異であることがわかった。すなわち、沖縄島における梅雨期の降雨パターンは、例年、数日おきに降水日と晴天日が繰り返されるのに対して、2006年5月下旬から6月中旬にかけては、ほぼ毎日降水が続く異例の長雨が記録され、実効雨量で示される地下水分も高い水準のまま推移した。その結果、斜面地下に広大なすべり面が形成され、大規模な土砂移動が可能になったと考えられる。以上のことから、大規模地辷り災害に対する警戒情報提供のためには、従来から評価してきた情報に加えて、地盤条件や地辷り地形だけでなく斜面崩壊の前提となる「場」のポテンシャルも評価しておくこと、短時間の時間雨量解析だけでなく日・週・旬・月単位などの長時間の降水パターンとそれに呼応する水文状況も評価対象とすること、などが必要と考える。