著者
西村 伸子
出版者
東亜大学
雑誌
東亜大学紀要 (ISSN:13488414)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.17-34, 2009-01

キューブラ・ロスのOn Death and Dyingは1969年に発表され,アメリカの医療界だけでなく世界中に衝撃を与えた。アメリカでは,それ以後,死にゆく患者へのケアの取り組みが始まった。ロスの発表から30年以上を経て,この著書の中に示されている死までの5段階プロセスは,アメリカではどのように評価されているのだろうか。さらに,死にゆく患者への取り組みが直ぐに推し進められた背景にはどんなことがあるのか。一方,日本ではロスの5段階プロセスをどのように捉えてきているのか。日本が死にゆく患者への取り組みに遅れた理由は何か。これらを論証するために,ロスの5段階プロセスを基軸にしてアメリカと日本の文献から検討し,論じることにした。ロスの5段階プロセスについては,アメリカではこの30年間に各方面からの研究者によってその妥当性が論じられ研究が重ねられてきている。アメリカでは1960年代,活発な公民権運動が医療の分野にも波及した。さらに1970年代では,人格の尊重が医療倫理の指導原理となった。このような時代の流れの中でOn Death and Dyingは発表され,アメリカでは死に対する反省の契機となった。以後,死にゆく患者のケアは急速に進んだ。日本では1972年にOn Death and Dyingが翻訳されている。以後,ロスの死にゆく患者の5段階プロセスが医学書や看護の書籍で紹介され始めた。それは,2000年以後も記述にはあまり変化なく紹介されている。日本は,大戦後アメリカ医療への遅れを取り戻すための努力が継続され,先端医療の導入が最優先された。1990年代から少しずつ患者の人権尊重が意識され始め,2000年頃から,死にゆく患者へのケアが急速に論じられるようになった。死にゆく患者への取り組みとしては,アメリカに比較して約30年の遅れを生じることとなった。

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