- 著者
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鈴木 創
川上 和人
藤田 卓
- 出版者
- 首都大学東京
- 雑誌
- 小笠原研究 (ISSN:03868176)
- 巻号頁・発行日
- vol.33, pp.89-104, 2008-03
- 被引用文献数
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南硫黄島において2007年6月17日〜27日にオガサワラオオコウモリPteropus pselaphonの調査を行った。捕獲調査により得られた個体はすべてが成獣の雄であった。外部形態の測定値は、1982年調査及び近年の父島における測定値の範囲内であった。1982年調査において、他地域より明るいとされた本種の色彩は、本調査でも観察された。また、前調査において「昼行性」とされた日周行動については、昼間および夜間にも活発に活動することが観察された。食性では、新たにシマオオタニワタリの葉、ナンバンカラムシの葉への採食が確認された。南硫黄島の本種の生息地は、2007年5月に接近した台風により植生が大きな攪乱を受け、食物不足状況下にあることがうかがわれた。本種の目撃は海岸部より山頂部まで島全体の利用が見られた。生息個体数は推定100〜300頭とされ、25年前の生息状況から大きな変化はないものと考えられた。本種はかつて小笠原諸島に広く分布していたと考えられるが、現在の生息分布は、父島及び火山列島に限られている。父島では人間活動との軋轢により危機にさらされており、その保全策が課題となっている。人為的攪乱が最小限に抑えられた南硫黄島の繁殖地の存続は、本種の保全上極めて重要である。このことから、今後これらの本種の個体群推移についてモニタリングを続ける必要がある。