著者
真崎 翔
出版者
首都大学東京小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究 (ISSN:03868176)
巻号頁・発行日
no.40, pp.11-46, 2013

小笠原諸島は、太平洋戦争末期の硫黄島の戦いの末に陥落して以降、1968 年まで米国による軍事占領下におかれた。戦後日米関係史において、国務省と軍部の対日政策は、その対立点よりも、むしろ一致点に焦点が当てられてきた。しかしながら、国務省と軍部は、対小笠原政策においては、対立していたかのようであった。国務省は、良好で安定した日米関係を構築する必要性から、小笠原の信託統治化に反対し、その早期返還を求めた。一方で、軍部は、不安定化しつつある極東情勢を懸念し、米国の安全保障戦略上の要請から、小笠原を恒久的に軍事占領する必要性を訴えた。最終的に、国務省が主張する小笠原返還が、1967 年11 月の日米首脳会談において合意された。それは、自国の軍事的利益よりも、日米の友好関係から得られる利益を優先した決断のようであった。 小笠原諸島には、米国の安全保障戦略上、重要な基地がおかれていた。加えて、硫黄島の戦いにおける激戦から、多くの米国民にとって象徴的意味をもつ。国務省は、軍部や米国民に小笠原返還を納得させるために、返還によって安全保障上の既得権を保持する必要があった。また、米国民の小笠原に対する特別な感情にも配慮しなくてはいけなかった。さらに、ベトナム戦争や沖縄占領に起因する日米の緊張関係を緩和することも急務であった。本論は、これらの難しい課題に対する国務省の解決策が、核「密約」であったということを論証する。そして、国務省と軍部の小笠原の占領と返還をめぐる対立が表面的なものであり、むしろ根本的には双方の意図が一致していたということを証明する。Following the historic U.S. victory of the Battle of Iwo Jima, during the last phase of the Pacific War, the Bonin (Ogasawara) Islands came under U.S. military control and remained occupation until 1968. In the history of U.S.-Japan relations, the primary focus regarding Japanese policy has been cooperation—rather than confrontation—between the Department of State and the military. However, these two parties seemed to be in conflict over the Bonin policy. For the sake of maintaining a satisfactory and stable relationship with Japan, the former opposed putting the islands under U.S. trust territory and advocated early reversion. The latter, concerned with the unstable situation developing in the Far East, perceived the necessity for permanent occupation of the islands from a security standpoint. During the U.S.-Japan summit meeting in November 1967, return of the islands was agreed upon, supported by the State Department. This decision indicated that the U.S. considered interests obtained from a desirable relationship with Japan more important than military interests.The Bonin Islands had important military bases in the U.S. security strategy. In addition, Iwo Jima held a symbolic meaning for many American citizens since the fierce battle fought over it. In order to convince the military to return the islands, the State Department needed to maintain America's vested rights even after the reversion. Moreover, it had to take Americans' special feelings for the islands into consideration, and attempt to ease the tension of U.S.-Japan relations, which originated in the Vietnam War and occupation of Okinawa. Was there any magical tool that could solve these difficult problems altogether? The answer this paper gives is a nuclear "secret agreement." This paper will demonstrate that the confrontation between the State Department and the military over the occupation and reversion of the Bonins was superficial, and that the intention of the two parties was fundamentally correlated.
著者
川上 和人 鈴木 創 千葉 勇人 堀越 和夫
出版者
首都大学東京
雑誌
小笠原研究 (ISSN:03868176)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.111-127, 2008-03

南硫黄島の鳥類相の現状を明らかにするため、2007年6月17日〜27日の期間に現地で調査を行った。海鳥としては、海岸部でオナガミズナギドリ、アナドリ、アカオネッタイチョウ、カツオドリが、標高400m以上の山上ではシロハラミズナギドリ、クロウミツバメの繁殖が確認された。この他、巣は確認されなかったが、標高800m以上でセグロミズナギドリが繁殖しているものと考えられた。シロハラミズナギドリは、1982年の調査では山頂周辺では確認されていなかったが、今回は多数が確認されたことから、島内分布が変化している可能性がある。陸鳥としては、カラスバト、ヒヨドリ、イソヒヨドリ、ウグイス、メジロ、カワラヒワの生息が確認された。シロハラミズナギドリ、セグロミズナギドリ、クロウミツバメ、カワラヒワの分布は小笠原諸島内でも限定的であり、人為的攪乱が最小限に抑えられた南硫黄島の繁殖地の存続は、これらの種の保全上極めて重要である。しかし、南硫黄島の環境は安定的でなく、自然災害や病気の流行などにより、南硫黄島の繁殖集団が縮小する可能性は否定できない。このことから、今後これらの鳥類の個体群推移についてモニタリングを続ける必要がある。
著者
藤田 卓 高山 浩司 朱宮 丈晴 加藤 英寿
出版者
首都大学東京
雑誌
小笠原研究 (ISSN:03868176)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.49-62, 2008-03
被引用文献数
1

2007年6月の南硫黄島調査において採集された約700点の維管束植物標本を固定した結果、現時点までに96種(未同定種も含む)が確認された。南硫黄島において初めて確認された植物は、ミズスギ、オオハナワラビ属の1種、コケシノブ科の1種、ホングウシダ、ナチシケシダ、シンクリノイガ、イネ科の1種、テンツキ属の1種、コクランの9種であった。過去に発表された植物リスト(大場、1983)と、今回の調査によって確認された種を合わせると、本島には、シダ植物44種、双子葉植物59種、単子葉植物26種、合計129種が記録された。これらの中には18種の絶滅危惧種(準絶滅危惧も含む)とともに数種の外来植物も含まれ、特に25年前には全く確認されなかったシンクリノイガが島内に広く生育していることが確認された。これらの外来植物は鳥や風・海流などを介して運ばれた可能性が高いことから、今後も周辺の島から新たな植物が侵入することが懸念される。
著者
YUMOTO Takakazu
出版者
首都大学東京小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究 (ISSN:03868176)
巻号頁・発行日
no.37, pp.97-102, 2011

Islands have been blessed by their unique biota, culture, and language, depending on affluent ecosystem services and subsistence economy. Island life was one of the good examples of a sustainable way of life. But globalization destroyed its subsistence economy and made their lives unsustainable. Trans-disciplinary research is needed to restore and reconstruct island lives as well as ecosystems, in order to utilize the rich biodiversity and cultural diversity of islands for green development as ecotourism, sustainable forestry and fishery, and handicrafts. Local knowledge of islands is a treasure box for future sustainable lives with "low environmental loads and high quality of live".
著者
佐々木 哲朗 堀越 和夫
出版者
首都大学東京
雑誌
小笠原研究 (ISSN:03868176)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.155-171, 2008-03

南硫黄島周辺海域において、貝類、甲殻類および魚類の動物相調査を行った。同定作業は継続中であるが、現在までに27科53種の貝類、4科9種の甲殻類、22科63種の魚類を確認した。確認種は南硫黄島からの新記録種を多数含むが、多くは小笠原群島にも分布する種で占められていた。
著者
加藤 英寿 堀越 和夫 朱宮 丈晴 天野 和明 宗像 充 加藤 朗子 苅部 治紀 中野 秀人 可知 直毅
出版者
首都大学東京
雑誌
小笠原研究 (ISSN:03868176)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.1-29, 2008-03
被引用文献数
1

2007年6月、東京都環境局と首都大学東京は南硫黄島自然環境調査を実施した。南硫黄島で山頂部を含む上陸調査が行われたのは1982年以来25年ぶり、史上3回目である。その厳しく危険な自然環境故に、調査時の安全確保が最大の課題となったが、現地情報がほとんど無い中での計画立案はほとんど手探りの状態で、準備も困難を極めた。また貴重な手つかずの自然を守るため、調査隊が南硫黄島に外来生物を持ち込まない、そして南硫黄島の生物を持ち出して父島などに放さないための対策にも細心の注意を払った。幸いにして今回の調査では事故もなく、数多くの学術成果を得て帰ってくることができたが、調査隊が経験した困難・危険は、通常の調査では考えられないことばかりであった。よって今後の調査の参考となるように、今回の調査を改めて振り返り、準備段階から調査実施までの過程について、反省点も含めてできる限り詳細に記録した。
著者
高橋 秀男 清水 晃
出版者
首都大学東京
雑誌
小笠原研究 (ISSN:03868176)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.9-20, 2007-03

小笠原諸島は東京の南約1000kmの太平洋上に南北に連なる聟島,父島,母島,火山(硫黄)の各列島などからなり全域が亜熱帯気候下にある.小笠原諸島は海洋島であり,一般に生物の種類数は少なく,固有種が多い.しかし近年父島,母島においては移入種であるグリーンアノールにより花蜂類を含む在来昆虫が激減しているという報告(苅部・須田,2004)がある.首都大学東京(東京都立大学)では返還直後から生物相の調査が行われている.このうち昆虫類膜翅目については,清水(1976)及び山崎ら(1991)の報告があり,主に父島,母島の貴重な標本が保存されている.本報では首都大学東京理工学研究科・生命科学専攻動物系統分類学研究室昆虫標本室に所蔵されている小笠原諸島産の膜翅目標本12科41種580個体のリストを作成した.このうちEnicospilus melanocarpus,E. signativentris(ヒメバチ科)は母島初記録,Bembecinus anthracinus ogasawaraensis(ギングチバチ科)は姉島初記録である.
著者
堀越 和夫
出版者
首都大学東京
雑誌
小笠原研究 (ISSN:03868176)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.129-134, 2008-03

1982年調査で記録されたミナミトリシマヤモリPerochiryu ateles及びオガサワラトカゲCryptoblepharus boutonii nigropunctatusの生息を確認した。ミナミトリシマヤモリの生息場所が海岸部樹林であることが発見された。他種の爬虫類および両棲類は確認されなかった。
著者
朱宮 丈晴 高山 浩二 藤田 卓 加藤 英寿
出版者
首都大学東京
雑誌
小笠原研究 (ISSN:03868176)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.63-87, 2008-03

南硫黄島における垂直分布に沿った温度・湿度と上壌環境といった環境要因、群落組成と構造の変化および相互の対応関係を解析した。調査期間中(2007年6月19日〜25日)の気温の平均値から逓減率を求めたところ標高500m以上の3つの地点で湿潤断熱減率(0.47℃/100m)を示した。また、5%ごとの湿度の測定値頻度を求め、標高別にみてみると、標高500m以上の3つの地点で95%〜100%の頻度が最も高かった。ただし、山頂部は強風の影響で雲霧の発生が不安定であると考えられ747mと比較して湿度の変動係数が大きかった。12cm (45.8%)、20cm (40.8%)における表層土壌の土壌水分は山頂部で最も高かった。こうした環境に対応して木本層(胸高1.3m以上)、草本層(胸高1.3m未満)、着生層の群落組成と構造を解析した。クラスター分析によって木本層の群落はP1(911m)〜P3(521m)、P4(375m)、P5(59m)という3つのグループに区分され、雲霧林が一つのグループとして区分できた。ただし、P1、P2ではコブガシ、エダウチヘゴが共優占していたが、P3はコブガシだけが優占していた。これは雲霧林内では常緑広葉樹の成長が抑制されためシダ植物が林冠構成種として共存しているのかもしれない。また、着生層の種数は標高が減少するとともに急激に減少した。群落構造は山頂部で最大直径が大きく、最大樹高は減少しており、強風などの影響が考えられた。着生層種数/総種数(0.56〜0.40)、着生層種数/草本層種数(0.88〜0.55)から500m以上の雲霧林では、各着生層種数比が高かった。したがって、林床が暗く、空中湿度高い雲霧林では草本層より着生層の発達が著しいと考えられた。
著者
中野 俊
出版者
首都大学東京小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究 (ISSN:03868176)
巻号頁・発行日
no.33, pp.31-48, 2008-03

南硫黄島は第四紀後半に形成された火山島であるが、噴火記録や噴気活動はない。追跡できる火砕物層準を基準とし、成層火山体である南硫黄島火山を下位から古期火山噴出物-1、古期火山噴出物-2、南部中期火山噴出物、北部中期火山噴出物および新期火山噴出物に区分した。いずれも陸上噴出した溶岩および火砕岩からなり、広域的に認められる有意な浸食間隙は存在しない。海食崖を貫く岩脈は254本を数えた。その大部分は放射状岩脈である。岩質は溶岩・岩脈ともにすべて玄武岩である。斑晶として斜長石、単斜輝石、かんらん石を含む。最大径1cmに達する大型の斑晶が多く、特徴的に単斜輝石を40-50%程度含む玄武岩も見つかった。
著者
LONG Daniel
出版者
首都大学東京小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究 (ISSN:03868176)
巻号頁・発行日
no.38, pp.17-29, 2011

In this paper, I argue for the conceptualization of a South Sea Island variety (dialect) of Japanese. This dialect group includes the Japanese dialects of the Bonin (Ogasawara) Islands, Palau and the Mariana Islands. The linguistic commonalities among these varieties are the results of similar social, historical and geographical circumstances. In this paper, I am particularly interested in the "linguistic exchange" of lexical items among these three dialects which have contributed to their lexical similarities.小笠原諸島およびマリアナ諸島やパラオの日本語方言に見られる言語的共通点を指摘した上で、日本語の方言区画に「南洋諸島方言」を立てることを提案する。その共通点は様々な社会的、歴史的、地理的な要因によるものである。例えば、語彙面において、長期にわたる3つの地域との間に起きた「言語交流」がこの共通性の背景にあることがわかった。また、「コロニアル・ラグ」(植民地遅延)と呼ばれる社会言語学的現象も見られる。すなわち、「本国」から地理的にまたは社会的切り離された(旧)植民地には、「本国」で使われなくなった言語的特徴が取
著者
小枝 圭太 栗岩 薫 千葉 悟
出版者
首都大学東京小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究 (ISSN:03868176)
巻号頁・発行日
no.42, pp.1-8, 2015

小笠原諸島兄島周辺海域において、ヒレナガハギ属魚類の2個体が採集された。これらの標本は、体側後半部に繊毛域があること、背鰭が5棘24軟条であること、体側後半部の体色が暗色とならないこと、光彩が黄色いことなどキイロハギZebrasoma flavescens (Bennett 1828)の識別的特徴を多くもっていた。しかし、両標本は、体色が一様に黄色であるというキイロハギにおける通常の特徴と著しく異なり、左右の体側および鰭に広い白色域が、背鰭起部付近に黒色域が、それぞれみられた。ただし、2個体の白色域のパターンが同一でないこと、2個体とも左側と右側の体色パターンに変異がみられること、およびその他の識別的特徴が先行研究で示された本種の特徴と一致したことから、両標本はキイロハギの色彩変異個体であると判断した。
著者
佐藤 豊三 埋橋 志穂美 細矢 剛
出版者
首都大学東京
雑誌
小笠原研究 (ISSN:03868176)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.59-160, 2010-03

Approximately 1,000 taxa of fungi found and/or collected in the Bonin Islands were listed based on previous reports, collection data of dried specimens and background dataset of living cultures. Five hundred 6 (50.8%), 203 (20.4%) and 180 (18.1%) of them belong to Basidiomycota, Deuteromycota (Mitosporic Fungi) and Ascomycota, respectively. The others (total 10.7%) are mixomycetous (56 taxa), zygomycetous (24 taxa), chytridiomycetous (14 taxa), oomycetous (12 taxa) and blastocladiomycetous (1 taxon) fungi. About 100 taxa containing texts, "bonin", "munin", "ogasawara," "chichi", "haha", in their scientific and/or common names were found in the list. It indicates that at least 10% of taxa reported from the islands have type localities there and/or endemic. More taxa new to the islands will obviously turn up if various mycologists repeatedly place the full weight of their effort on collecting and identifying materials there, because those found are merely ca. 8.3% of known species of fungi in Japan.小笠原諸島で採集・発見・同定された菌類のうち文献として公表され、あるいは標本や分離菌株が公的機関に保存されている約1,000 学名(分類群)を網羅した。その主な内訳は担子菌類506 種(50.8%)、不完全菌類203 種(20.4%)、子のう菌類180 種(18.1%)で、残りの10.7%は変形菌類56 種、接合菌類24 種、ツボカビ類14 種、卵菌類12 種、コウマクノウキン類1 種である。学名や和名のローマ字表記の中に"bonin"、"munin"、 "ogasawara"、 "chichi"、 "haha"の語を含む種等が100 以上あることから、少なくとも10%の分類群が同諸島をタイプロカリティーとしており、また、その中には特産種も含まれているものと思われる。リストアップされた菌類は国内既知種の8.3%に過ぎず、今後、様々な菌学者が繰り返し同諸島の菌類を採集・同定することにより、さらに多くの種が明らかになると予想される。
著者
佐々木 哲朗 立川 浩之 向 哲嗣 栗原 達郎
出版者
首都大学東京小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究 (ISSN:03868176)
巻号頁・発行日
no.41, pp.41-73, 2014

小笠原諸島海域の保全管理に資するため、兄島と父島の浅海域、海岸域および河川下流域において軟体動物相の現況調査を実施した。調査では5綱22目78科153属247種の軟体動物が記録された。記録種のうち40種は小笠原諸島からの初記録であった。To contribute to the conservation management, we investigated molluscan fauna of marine and freshwater habitats in Anijima and Chichijima Island. A total of 247 species of molluscs (153 genera of 78 families of 22 orders) were recorded on the basis of photographs. 40 species were considered to be new records from Ogasawara Islands.
著者
川上 和人 阿部 真 青山 夕貴子
出版者
首都大学東京
雑誌
小笠原研究 (ISSN:03868176)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.1-19, 2011-03

小笠原諸島では、外来木本植物であるトクサバモクマオウ Casuarina equisetifoliaが野生化し、優占種となることで、様々な影響を与えている。本研究では、父島列島の西島において、本種が優占する森林の環境特性を明らかにするため、開空度、リター厚、土壌水分量、土壌硬度、リター下の温湿度の測定をおこなった。その結果、モクマオウ林では、在来樹林に比べ、開空度が高く、リターが厚く堆積し、土壌が乾いていることが示され、また比較的温度が高い傾向があった。このような環境の違いは、動植物相の成立に影響を与える可能性がある。西島では、トクサバモクマオウの試験的な駆除がおこなわれており、環境特性の変化をモニタリングする必要がある。The invasive alien woody species Casuarina equisetifolia has expanded its range and become dominant in various areas in the Bonin Islands, situated in the northwestern Pacific. In order to clarify the environmental characteristics of Casuarina forests, we examined the canopy openness, litter depth, soil moisture, soil hardness, air temperature, and air humidity on Nishijima, which is widely occupied by the alien plants. We found that the canopy was opener, the litter was thicker, and the soil was drier in Casuarina forests than in native forests. These physical differences are likely to affect the faunal and floral assemblages. As experimental eradication is being conducted on the island, and the trend in the physical conditions should be monitored.
著者
千葉 聡
出版者
首都大学東京
雑誌
小笠原研究 (ISSN:03868176)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.145-154, 2008-03
被引用文献数
1

筆者は2007年6月に東京都と首都大学東京の南硫黄島の学術調査隊に参加する機会を得て、南硫黄島の陸産貝類の調査を行なった。南硫黄島の本格的な陸産貝類相の調査は今回が初めてであり、これまでその詳細は謎に包まれていた。調査の結果、新たに9種の分布が確認され、南硫黄島には13種の陸産貝類が分布することが明らかになった。そのうち4種が未記載の南硫黄島固有種と考えられる。特に山頂部の雲霧林において最も高い種多様性が認められ、一方、海岸部には陸産貝類は全く生息していなかった。また小笠原群島では戦前に絶滅したタマゴナリエリマキガイが南硫黄島に現生していることを確認した。今回新たに見出された種の中には、同種ないし近縁の種が伊豆諸島には分布するが、小笠原群島には分布しない種が含まれていた。以上の知見から、南硫黄島の陸産貝類は、小笠原群島にはない特異な要素を含み、生物地理学的に独自性の高い極めて貴重なファウナであることが示された。
著者
鈴木 創 川上 和人 藤田 卓
出版者
首都大学東京
雑誌
小笠原研究 (ISSN:03868176)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.89-104, 2008-03
被引用文献数
1

南硫黄島において2007年6月17日〜27日にオガサワラオオコウモリPteropus pselaphonの調査を行った。捕獲調査により得られた個体はすべてが成獣の雄であった。外部形態の測定値は、1982年調査及び近年の父島における測定値の範囲内であった。1982年調査において、他地域より明るいとされた本種の色彩は、本調査でも観察された。また、前調査において「昼行性」とされた日周行動については、昼間および夜間にも活発に活動することが観察された。食性では、新たにシマオオタニワタリの葉、ナンバンカラムシの葉への採食が確認された。南硫黄島の本種の生息地は、2007年5月に接近した台風により植生が大きな攪乱を受け、食物不足状況下にあることがうかがわれた。本種の目撃は海岸部より山頂部まで島全体の利用が見られた。生息個体数は推定100〜300頭とされ、25年前の生息状況から大きな変化はないものと考えられた。本種はかつて小笠原諸島に広く分布していたと考えられるが、現在の生息分布は、父島及び火山列島に限られている。父島では人間活動との軋轢により危機にさらされており、その保全策が課題となっている。人為的攪乱が最小限に抑えられた南硫黄島の繁殖地の存続は、本種の保全上極めて重要である。このことから、今後これらの本種の個体群推移についてモニタリングを続ける必要がある。
著者
苅部 治紀 松本 浩一
出版者
首都大学東京
雑誌
小笠原研究 (ISSN:03868176)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.135-143, 2008-03

南硫黄島において、25年ぶりの昆虫相調査を実施した。今回は調査日程も5日間と短かったこともあり、各種トラップを併用し、効率的な調査を心がけた。その結果、現在までに同定されたものだけで67種の昆虫が確認され、このうちの22種は島新記録であった。また、島固有とされるミナミイオウヒメカタゾウムシ(固有属種)、ミナミイオウトラカミキリ(固有亜種)は、健在であったが、前者は前回調査で報告されたものと比較して、きわめて少数の確認にとどまった。島の昆虫相については、まだまだ解明度は低く、長期的な環境モニタリングのためにも、今後の調査の充実が望まれるとともに、生態面の調査も進めていくべきであろう。
著者
川上 和人 鈴木 創
出版者
首都大学東京
雑誌
小笠原研究 (ISSN:03868176)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.105-109, 2008-03

小笠原諸島では、移入種であるクマネズミが無人島も含めて広く分布している。本種は、動植物の捕食者として生態系に大きな影響を与えることが知られており、保全上の懸案事項の一つとなっている。南硫黄島では、これまでネズミ類の侵入は確認されていないが、前回調査が行われた1982年以後に侵入している可能性は否定できない。そこで、南硫黄島においてネズミ類の侵入の有無を明らかにするため、誘引餌の設置、自動撮影調査、食痕の確認等を行った。この結果、ネズミ類が生息しているという証拠は得られず、現在のところ南硫黄島にはネズミ類が生息していないと考えられた。ネズミ類が生態系へ与える影響は極めて大きいため、今後もネズミ類の侵入に関してはモニタリングを続ける必要がある。