- 著者
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佐藤 恭道
戸出 一郎
雨宮 義弘
- 出版者
- 日本歯科医史学会
- 雑誌
- 日本歯科医史学会会誌 (ISSN:02872919)
- 巻号頁・発行日
- vol.27, no.3, pp.143-145, 2008-04-10
口臭についての記述は古来『医心方』『病草紙』『今昔物語集』などの文献にも記載が見られる.特に江戸時代には様々な歯磨剤が売られ,歯口清掃が庶民の嗜みになっていた.今回我々は,大田南畝の随筆『半日閑話』に見られる,口中から芳香を出し続けた男の記述について検索した.大田南畝は,寛政から文化,文政年間にかけて戯作や随筆などを著し当時の文壇に大きな勢力を持っていた文人である.『半日閑話』は,明和五年から文政五年の市井の雑事を記録した大田南畝の見聞録である.口中から芳香を出し続けた男の話は『天女降て男に戯るゝ事』として「松平陸奥守忠宗の家来の番味孫右衛門が,天女に口を吸われた後,一生涯口中から芳香を発し続けた.」と記されている.この記述は,口中から芳香を発することへの憧れによって創作されたものではないかと考えられた.またこの記述は,当時の口臭に対する世相を反映した興味ある資料と考えられた.