著者
別部 智司 佐藤 恭道 森田 武 戸出 一郎 雨宮 義弘
出版者
日本歯科医史学会
雑誌
日本歯科医史学会会誌 (ISSN:02872919)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.241-245, 1995-07-25

今回,報告するBuschの風刺画は,19世紀中期における歯科医師の抜歯に関するものである.当時ドイツは歯科医療が大道香具師から歯科医師の手に移行しつつある時代であったDer hohle Zahnは1860年に漫画新聞Munchener BilderbogenのNr.330, 38版に掲載された連載こま割り漫画で,その後1900年に漫画単行本の一部としてBraun&Schneider社から出版された.この風刺画は,歯痛に苦しむ平凡な農夫と尊大な歯科医師の姿をさり気なく対比させることによって,見るものに滑稽さと一抹の哀愁を感じさせるものである.小市民的な自己満足や偽善をあばき,笑いものにすることによって何かを訴え続けたBuschの精神が,この風刺画にもよく表れている.本画は当時の歯科医療に関する世相を知る上で一つの資料になるものと考えられた.
著者
佐藤 恭道 戸出 一郎 雨宮 義弘
出版者
日本歯科医史学会
雑誌
日本歯科医史学会会誌 (ISSN:02872919)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.143-145, 2008-04-10

口臭についての記述は古来『医心方』『病草紙』『今昔物語集』などの文献にも記載が見られる.特に江戸時代には様々な歯磨剤が売られ,歯口清掃が庶民の嗜みになっていた.今回我々は,大田南畝の随筆『半日閑話』に見られる,口中から芳香を出し続けた男の記述について検索した.大田南畝は,寛政から文化,文政年間にかけて戯作や随筆などを著し当時の文壇に大きな勢力を持っていた文人である.『半日閑話』は,明和五年から文政五年の市井の雑事を記録した大田南畝の見聞録である.口中から芳香を出し続けた男の話は『天女降て男に戯るゝ事』として「松平陸奥守忠宗の家来の番味孫右衛門が,天女に口を吸われた後,一生涯口中から芳香を発し続けた.」と記されている.この記述は,口中から芳香を発することへの憧れによって創作されたものではないかと考えられた.またこの記述は,当時の口臭に対する世相を反映した興味ある資料と考えられた.
著者
佐藤 恭道 戸出 一郎 雨宮 義弘 Yasumichi SATO Ichiro TODE Yoshihiro AMEMIYA 鶴見大学歯学部 鶴見大学歯学部 鶴見大学歯学部 Tsurumi University School of Dental Medicine Tsurumi University School of Dental Medicine Tsurumi University School of Dental Medicine
雑誌
日本歯科医史学会会誌 (ISSN:02872919)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.139-142, 2008-04-10

江戸時代,庶民文芸が発達すると,民間の識字率は高くなり,読書欲も旺盛になってきた.一方医療については,医師の治療を受けることが出来なかった庶民は,様々な民間療法で対処してきた.今回我々は江戸時代中期,佐渡奉行や江戸町奉行などの要職を歴任した根岸鎮衛の著した随筆『耳嚢』にみられる口腔疾患治療について検索した.『耳嚢』には著者が見聞した当時の風俗や奇談などと共に民間療法が記されている.その記述は内科疾患から皮膚病,眼病,精神疾患など多岐にわたっている.口腔疾患の治療については,呪いの類も含めて7種類の治療法が記載されている,これらの記述は著者が,満足に医療を受けられない困窮した庶民を見て,多くの治療法を記したのではないかと考えられた.また,本書は江戸時代における庶民の歯科医療状況を知る上で貴重な一文献であると考えられた.
著者
佐藤 恭道 大熊 毅 別部 智司 戸出 一郎 雨宮 義弘
出版者
日本歯科医史学会
雑誌
日本歯科医史学会会誌 (ISSN:02872919)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.87-92, 1999-09-30

ボーイスカウト運動の創設者, R.S.S. Baden-Powell (以下,B-P)が著した"Scouting for Boys"の初版(1908年・改訂成本版)の「歯」に係わる項目について考察した.内容は,ユーモアを交えて書かれた,歯が悪いために採用されなかった志願兵の話,具体的な歯磨きの習慣について,詳細な図で説明された房楊枝に似た小枝を利用した歯ブラシ,ボーア戦争当時,歯が悪いために本国に送還された兵士の話,また歯ブラシに対するカウボーイやアフリカに住む白人の話などが認められた.これらの記述はB-Pのインド,アフリカにおける軍隊生活における経験のみならず,19世紀後半から20世紀にかけて,歯科医学の進歩に裏打ちされたものであると考えられた.また20世紀初頭における少年向け書籍の中で歯口清掃の啓蒙と野外で応用できる歯ブラシの作成法は特筆すべきものであり,当時の口腔衛生に関する世相を知る上で一つの資料になるものと考えられた.
著者
佐藤 恭道 大熊 毅 別部 智司 戸出 一郎 雨宮 義弘
出版者
日本歯科医史学会
雑誌
日本歯科医史学会会誌 (ISSN:02872919)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.61-64, 1998-04-20

7世紀中ごろ唐の孫思〓によって編纂された『備急千金要方』(以下「千金方」)における口臭治療について検索した.処方は33方と比較的多く記載されている.この中には口臭を消すだけでなく,芳香にする処方や,衣服の臭いや体臭を消す処方まで記載されている。構成生薬は香料や芳香性の強い健胃薬など多岐にわたっている.これらは概ね陶弘景の「集注本草」に基づいているが,後代の「新修本草」や「開宝本草」「証類本草」から記載されているものも認められた.口臭除去は古代から相変わらず香料に依存しているところが大きい.社会環境の変化とは無関係に古代から口臭が人々の大きな悩みであったにもかかわらず根本的な治療法がないまま,それぞれの時代で主に香料のマスキング効果に頼って来たように感じられた.しかし「千金方」における口臭症治療は,多くの処方を記載し,後代の「外台秘要方」「太平聖恵方」などにも影響を与えたものと考えられた.
著者
佐藤 恭道
出版者
鶴見大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

フェノールやユージノールなど歯科治療に用いる薬剤が、嗅覚から患者に不安や精神的苦痛を与える可能性が考えられる。そこで一般歯科医院を訪れる患者に、匂いに対するアンケート調査を行なったところ、80%以上の患者が歯科特有の匂いを感じると答えており、その匂いは、約50%が待合室で感じていた。またそれらの匂いによって嘔吐反射を誘発したり、歯痛を思い出させるなどの精神的苦痛を惹起する患者もいた。しかし矯正歯科ではこの様な匂いは感じないとする患者がほとんでであった。一般歯科と矯正歯科における句いの違いは主に根管治療をするか否かによるものと考えられた。そこで一般歯科医院における匂い強度を測定した。玄関の外を基準値として、玄関内、受付、待合室、治療室(入口、中央部、治療椅子)を測定場所にした。匂い強度は歯科医院によって様々であったが、全ての施設で治療椅子での匂い強度が最高値を示し、玄関内が低値を示していた。多くの患者が歯科特有の匂いを感じるとしていた待合室は比較的低値を示していた。全体的には治療椅子に近くなるほど匂い強度は増加傾向にあった。匂い強度が比較的低値を示した待合室で、約50%の患者が歯科特有の匂いを感じていたのは、これから受けようとする治療に対する恐怖や緊張が嗅覚を敏感にしたためではないかと考えられた。また、アンケートから患者は歯科治療をリラックスして行える匂いとして、無臭もしくはアロマテラピーの応用を期待していた。しかし匂いの好き嫌いは個人の経験や成育環境による影響が大きい。そのため誰もが快く感じる香りの摸索には更なる検索が必要であると考えられた。