著者
八井田 收
出版者
国際ビジネス研究学会
雑誌
国際ビジネス研究学会年報 (ISSN:13480464)
巻号頁・発行日
no.14, pp.157-170, 2008-09-30

本研究は、半導体産業が「垂直統合型」から「水平分業型」の生産形態に移行し、さらにPC(パソコン)や携帯電話等の短い製品サイクルに対応するための「SCM型グローバル・ソーシング」に着目した半導体企業の調達戦略について考察を試みるものである。半導体はPCや携帯電話等のデジタル機器の中核デバイスとして位置付けされるが、これらの機器の急激な価格下落と短いプロダクト・ライフ・サイクル(PLC)に対応して、コストダウンとジャスト・イン・タイムを兼ねたSCM型グローバル・ソーシングによる供給が必要不可欠になっている。この市場環境に対して、半導体企業のSCM型グローバル・ソーシングの実態について検証を行った。顧客(=デジタル機器メーカー)確定注文納期が数週間であるのに対して、半導体企業の供給リード・タイムは2.5〜3ヶ月を要し、在庫リスクを抱えた見込み生産を余儀なくされるため、SCM型グローバル・ソーシングの機能は十分に達していないと考えられる。水平分業型の生産システムにおいて、不完全なSCM型グローバル・ソーシングの理由は、近年のように需要変動が大きく、PLCの短い用途で、専用のカスタムICを使うケースでは、不動在庫を抱えやすく、情報の一貫性がすべての生産機能が同一企業内である垂直統合型の企業に比べて、水平分業型では変量や優先順位の入れ替え情報が発生した場合には、対応(=生産の柔軟性とスピード)の脆弱性がさらに起こりうる。一方で、顧客と半導体企業とのパワー・バランスの不均衡も大きな要因である。顧客企業は最終製品の在庫の付加価値金額が圧倒的に高いため在庫を持ちたくない。よって、部品サプライヤーに対してジャスト・イン・タイムと価格低減を要求し、その対応能力を測りながら、サプライヤーを選別する自由度を持っている。半導体企業は、コスト低減のために大量受注する必要があり、また顧客からの継続採用が得られることを望む理由から、半導体企業は在庫リスクを抱えながらも顧客からの変量要求や優先順位の入れ替え要求を甘受せざるを得ない。今後、半導体のSCM型グローバル・ソーシングは、顧客と半導体企業とのパワー・バランスの不均衡を是正するため、顧客⇔半導体企業⇔ビジネス・パートナーの3者間でデマンド・プル型SCMを構築することが重要になる。そして、半導体の水平分業型モデルにおける調達活動は、SCM型グローバル・ソーシングを遂行目標とした戦略に基づき、ビジネス・パートナーに対して競争と協業の取引環境を形成することが必要である。

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