- 著者
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江藤 学
- 出版者
- 国際ビジネス研究学会
- 雑誌
- 国際ビジネス研究学会年報 (ISSN:13480464)
- 巻号頁・発行日
- no.14, pp.29-41, 2008-09-30
製品技術が複雑化し、技術革新スピードが向上する中で、知的財産が規格中に特許等の形で組み込まれる事例が増加している。しかし同時に、一社単独で市場を獲得しデファクト規格を成立されるのは困難となり、標準化は関係者の話し合いによって決まるコンセンサス規格の形を取ることが増えている。特にIT分野では、JPEG事件やクアルコムのビジネスが有名になり、規格に特許を組み込むことで大きな利益をあげることができるとの認識が広がった。そして、デファクト狙いだけでなく、コンセンサス規格においても、規格中に特許を組み込み、これで利益を上げようとする企業は多い。しかし、その結果、市場におけるコンセンサス規格の重要な役割である、市場拡大とコストダウン機能を失ってしまう例も見られる。本論文では、規格中に埋め込んだ特許によって利益を得ようとする活動は、コンセンサスによる標準化本来の効果を失わせる可能性が高いことを、このような事例が多く見られるIT分野の10の事例で考察した。その結果、規格に特許を組み込むことで市場拡大を効果的に行った事例、ライセンス料確保により市場競争で負けた事例、規格中に特許を組み込もうとしてライセンスの無償化や規格技術からの排除を強制された例など、多くの事業成功例、失敗例が見られた。しかし、コンセンサス規格中に利益確保を目的として特許を組み込み、事業として成功している例は無かった。そして、規格と特許を組み合わせて事業活動を成功させている例は全て、特許を規格中に組み込まず、規格外に維持することでライセンス料率や排他実施権の行使権利を維持していることが分かった。つまり、製品標準化の基本機能である市場拡大とコストダウンを強化する特許は規格中に組み込み、利益を確保するための特許は規格外にすることで、複数の特許を目的別に使い分けていたのである。