著者
与小田 隆一
出版者
久留米大学
雑誌
久留米大学文学部紀要. 国際文化学科編 (ISSN:09188983)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.39-52, 1993-06

(1)創作の自由が保証され,政治による干渉が最大限に緩和された中で出現した長篇小説『無冕皇帝』は,初めて文学界自身を批判の対象とし,拝金主義,道徳観念,法観念の欠如など文学界内部に現実に存在する問題を指摘した文学作品として意義を持つ.(2)作者蕭立軍に対し,中国作家協会は,極めて短期間のうちに,停職検査処分という「文学作品について政治的責任を問わない」との原則に反した,極めて異例の厳しい政治的処分を下した.そこには,中国作家協会の組織としての意図が働いていた.(3)この作品の出現,及びそれによって引き起こされた紛争は,現在の中国の文学が抱えている次のような二つの問題の存在を明らかにした.a.創作の自由,政治による干渉の排除ということが,そのまま直ちに文学の繁栄にはつながっていないこと.b.現在の中国の作家は,作家という「個人」としての立場と,作家協会会員という「組織の一員」としての立場との矛盾という問題を抱えており,これが創作活動に制約を加える要因ともなり得ること.

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