著者
石井 弓
出版者
一般社団法人中国研究所
雑誌
中国研究月報 (ISSN:09104348)
巻号頁・発行日
vol.63, no.5, pp.1-22, 2009-05-25

日中戦争の経験のない世代が多数を占めるにも拘らず,日中戦争の記憶は現在も両国社会に影を落とし続けている。本研究では,コミュニティーの環境によって保持されるとする,「集合的記憶」の観点から,中国における戦争記憶について論じる。戦後中国の映画制作において,日中戦争の記憶は輝かしい勝利として参照され続けてきた。このため人々の被害の記憶は,この主流言説に利用されつつ,共存し融合して生き延びるほかなかった。本研究では,山西省盂県の農村での聞き取りを元に,映画による共産党の政治宣伝としての戦争の視覚イメージと,戦争体験者の語りの相互作用が,戦後世代への記憶継承において果たした役割を明らかにした。

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