著者
関 智英
出版者
一般社団法人中国研究所
雑誌
中国研究月報 (ISSN:09104348)
巻号頁・発行日
vol.69, no.7, pp.16-29, 2015-07-25

伍澄宇は1910年代から20年代にかけて,中国同盟会員・国民党員として孫中山とアメリカや東南アジアで革命に従事した人物である。孫中山の死後は蒋介石に対する不満から政界を離れたが,日中戦争勃発後に維新政府・汪政権で立法院委員や内政部県政訓練所教官に就いた。その主張は孫中山の地方自治構想に沿ったもので,汪政権の憲政実施に向けた動きでも主導的な役割を担った。伍澄宇は維新政府・汪政権に積極的に参加したわけでないが,言論面では自らの役職を背景に主体的にその理念を表明し続けた。このように維新政府・汪政権は傀儡政府ながらも,一方で重慶国民政府と相容れなかった人々の中国の将来を巡る活動・発言の場としての側面も持っていた。
著者
譚 娟
出版者
一般社団法人中国研究所
雑誌
中国研究月報 (ISSN:09104348)
巻号頁・発行日
vol.69, no.8, pp.1-21, 2015-08-25

「満洲国」成立前,中国東北の女子教育は省ごとに異なっていた。吉林省は男女同等の教育を実施していたが,奉天省は男女を区別する教育を実施しており,女子に対して家事教育を行っていた。「満洲国」成立後,「満洲国」政府による教育制度に対する改編につれて,省ごとに異なっていた女子教育が統一され,吉林省でも男女を区別する教育が行われ始めた。「満洲国」初期の中国人女子教育においては,家事教育の比重が大きかった。そこには,女子教育を家事教育化しつつ,女子の役割を専ら家庭内に位置づける「満洲国」政府の考え方が窺える。また,女子学校の教育には女学生の愛国意識の養成という愛国教育の側面もあった。
著者
武 小燕
出版者
一般社団法人中国研究所
雑誌
中国研究月報 (ISSN:09104348)
巻号頁・発行日
vol.65, no.12, pp.1-14, 2011-12-25

本稿では,中国の愛国主義教育について,学校教育が持つ国民形成機能の視点から価値観の形成に最も関連する政治・歴史・語文の3科目の教育内容を中学校と高校を中心に分析した。それにより,改革開放期にこれらの科目における価値志向が大きく変容し,総じて階級論とマルクス主義的教養の養成から近代的かつ民族的な意識形成へと転換していることを明らかにした。こうした変化は改革開放という近代化路線の下で政府の「上からの政策」だけではなく,民間の「下からの要請」も反映しながら,中国社会の変化に対応して進められてきたと考えられる。
著者
娜荷芽
出版者
一般社団法人中国研究所
雑誌
中国研究月報 (ISSN:09104348)
巻号頁・発行日
vol.67, no.11, pp.15-29, 2013-11-25

「満洲国」建国後,内モンゴルにおいてこれまでモンゴル人により行われてきた文化と教育活動は,「満州国」政府による対モンゴル人文化・教育政策の枠組みに統合されてゆくこととなった。本稿で扱う初等教育政策は同政府の対モンゴル人統合政策という側面をもちあわせているため,これまでモンゴル側の活動についてはあまり注意が払われて来なかった。そこで本稿は,内モンゴル東部における初等教育政策の成立とその展開を「満洲国」政府の国策という側面からのみ位置づけるのではなく,モンゴル側の活動を視野に入れながら,その実態を分析する。
著者
王 勝群
出版者
一般社団法人中国研究所
雑誌
中国研究月報 (ISSN:09104348)
巻号頁・発行日
vol.68, no.11, pp.1-14, 2014-11-25

本稿は,1944年に書かれた張愛玲の短編「赤薔薇・白薔薇」を空間の視点から論じる。先行研究は,赤/白という色彩のコードに象徴される二分化したジェンダー構造を問題視するものが多い。それ対して,本稿は男主人公・振保に焦点を当て,まずテクストにおける公寓(アパート)や一戸建てという主要な空間を詳細に考察し,それぞれ赤薔薇・嬌蕊,白薔薇・煙〓などの女性登場人物との関係を検討する。さらに,作中のもう一つの重要な空間-鏡の空間を考察することで,振保の自己分裂の問題を提示したい。
著者
石井 弓
出版者
一般社団法人中国研究所
雑誌
中国研究月報 (ISSN:09104348)
巻号頁・発行日
vol.63, no.5, pp.1-22, 2009-05-25

日中戦争の経験のない世代が多数を占めるにも拘らず,日中戦争の記憶は現在も両国社会に影を落とし続けている。本研究では,コミュニティーの環境によって保持されるとする,「集合的記憶」の観点から,中国における戦争記憶について論じる。戦後中国の映画制作において,日中戦争の記憶は輝かしい勝利として参照され続けてきた。このため人々の被害の記憶は,この主流言説に利用されつつ,共存し融合して生き延びるほかなかった。本研究では,山西省盂県の農村での聞き取りを元に,映画による共産党の政治宣伝としての戦争の視覚イメージと,戦争体験者の語りの相互作用が,戦後世代への記憶継承において果たした役割を明らかにした。