著者
柴田 哲雄
出版者
一般社団法人中国研究所
雑誌
中国研究月報 = Monthly journal of Chinese affairs (ISSN:09104348)
巻号頁・発行日
vol.69, no.7, pp.30-39, 2015-07

福建省在任時期に習近平が抱懐していた外交政策の原像は,毛沢東の「独立自主」の思想の影響を受け,「韜光養晦,有所作為」に対して異を唱え,安全保障や主権・領土の問題に比重を置くものであった。また同時期に習近平が推進しようとした福建省独自の対台湾政策は,同省の経済発展を第一の目的として,台湾との経済交流などの強化を図る一方で,台湾独立を掲げる民進党の陳水扁への批判を抑制するものであった。現在の習近平政権の対外政策は,概ねのところ彼の外交政策の原像が反映されたものだと言える。また同政権の対台湾政策は,福建省独自の対台湾政策の影響が見出されていたものの,2014年9月の習近平による「一国二制度」適用の発言以降は流動的になっており,さらなる注視が必要になっている。
著者
関 智英
出版者
一般社団法人中国研究所
雑誌
中国研究月報 (ISSN:09104348)
巻号頁・発行日
vol.69, no.7, pp.16-29, 2015-07-25

伍澄宇は1910年代から20年代にかけて,中国同盟会員・国民党員として孫中山とアメリカや東南アジアで革命に従事した人物である。孫中山の死後は蒋介石に対する不満から政界を離れたが,日中戦争勃発後に維新政府・汪政権で立法院委員や内政部県政訓練所教官に就いた。その主張は孫中山の地方自治構想に沿ったもので,汪政権の憲政実施に向けた動きでも主導的な役割を担った。伍澄宇は維新政府・汪政権に積極的に参加したわけでないが,言論面では自らの役職を背景に主体的にその理念を表明し続けた。このように維新政府・汪政権は傀儡政府ながらも,一方で重慶国民政府と相容れなかった人々の中国の将来を巡る活動・発言の場としての側面も持っていた。
著者
譚 娟
出版者
一般社団法人中国研究所
雑誌
中国研究月報 (ISSN:09104348)
巻号頁・発行日
vol.69, no.8, pp.1-21, 2015-08-25

「満洲国」成立前,中国東北の女子教育は省ごとに異なっていた。吉林省は男女同等の教育を実施していたが,奉天省は男女を区別する教育を実施しており,女子に対して家事教育を行っていた。「満洲国」成立後,「満洲国」政府による教育制度に対する改編につれて,省ごとに異なっていた女子教育が統一され,吉林省でも男女を区別する教育が行われ始めた。「満洲国」初期の中国人女子教育においては,家事教育の比重が大きかった。そこには,女子教育を家事教育化しつつ,女子の役割を専ら家庭内に位置づける「満洲国」政府の考え方が窺える。また,女子学校の教育には女学生の愛国意識の養成という愛国教育の側面もあった。
著者
武 小燕
出版者
一般社団法人中国研究所
雑誌
中国研究月報 (ISSN:09104348)
巻号頁・発行日
vol.65, no.12, pp.1-14, 2011-12-25

本稿では,中国の愛国主義教育について,学校教育が持つ国民形成機能の視点から価値観の形成に最も関連する政治・歴史・語文の3科目の教育内容を中学校と高校を中心に分析した。それにより,改革開放期にこれらの科目における価値志向が大きく変容し,総じて階級論とマルクス主義的教養の養成から近代的かつ民族的な意識形成へと転換していることを明らかにした。こうした変化は改革開放という近代化路線の下で政府の「上からの政策」だけではなく,民間の「下からの要請」も反映しながら,中国社会の変化に対応して進められてきたと考えられる。
著者
程 蘊
出版者
一般社団法人中国研究所
雑誌
中国研究月報 = Monthly journal of Chinese affairs (ISSN:09104348)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.1-23, 2014-04

戦後の中国の対日政策は,中国の国内事情と対日情勢認識のみによって形成されたものではなく,中国政府と政策対象(自民党,社会党,貿易団体など)との相互作用も深くかかわっていた。本稿は池田政権初期において,中国政府と自民党日中友好派との相互作用をめぐる,中国の対自民党政策の形成過程を究明する。「反米中立」の対日基本方針の下で,中国政府は対自民党工作を推進していたが,自民党日中友好派という政策対象からのフィードバックを受けて,その対自民党政策を修正し続けていた。結局,対自民党工作は挫折に終わったが,その工作によって,自民党日中友好派という日中政府間の連絡ルートが形成されることになった。