著者
矢内 純太 松原 倫子 李 忠根 森塚 直樹 真常 仁志 小崎 隆
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.79, no.1, pp.61-67, 2008-02-05
被引用文献数
3

土壌特性値の評価は,農耕地における土壌の適切な管理のために不可欠である.そのためには通常土壌サンプリングが行われるが,圃場の土壌全体を常に調べることは不可能であり,時空間的に一部のみを調べて全体を予測することが必要となる.そこで本研究では,日本の主要な農地形態の一つである水田について,各種土壌特性値の空間的・時間的変動を評価するとともに,土壌診断のための合理的土壌サンプリング法の検討を行うことを目的とした.広さ50m×100mの水田圃場(灰色沖積土)において,春先の基肥前に5m×10mの区画ごとに深さ0〜15cmの表層土を1999年から2002年に毎年100点,合計400点採取した.採取した土壌は風乾および2mm篩別後,pH,EC,全炭素,全窒素,C/N比,可給態窒素,可溶性窒素,交換性塩基,可給態リン酸を測定した.得られたデータについて,空間的および時間的変動に関する評価を行った.その結果,以下のような知見が得られた.1)全400点の土壌特性値の変動係数は,pH,C/N比で10%以下,全炭素,全窒素,可給態リン酸,交換性Ca,Mg,Kで10〜20%,EC,可給態窒素,交換性Na,可溶性窒素で20%以上となり,土壌特性値によりその変動は様々であった.特に窒素関連特性値では,C/N比6%,全窒素13%,可給態窒素24%,可溶性窒素31%の順となり,可給度あるいは可動性が高いほど大きな変動を示した.2)同時期に採取した土壌の空間変動を評価すると,各特性値の変動係数は全変動の結果とほぼ同様の傾向を示した.データの推定誤差とサンプリング数の関係を解析すると,その関係は土壌特性値により大きく異なった.すなわち,推定誤差を5%以内に抑えるためには,pHで3点,交換性Caで20点,全窒素で29点,交換性Kで32点,可給態リン酸で34点,可給態窒素で78点,可溶性窒素で134点必要であり,逆に5点サンプリングの場合,推定誤差はpHで2.3%,交換性Caで14%,全窒素で16%,交換性Kで17%,可給態リン酸で18%,可給態窒素で27%,可溶性窒素で36%となることなどが明らかとなった(危険率5%).したがって,現実性を考えると,5点程度のサンプリングを行った上で,得られた平均値に10%以上の推定誤差を伴う可能性のあることを十分認識しておくのが望ましいと考えられた.3)同地点から採取した土壌の時間変動を評価したところ,全変動や空間変動と同様の傾向が見られた.また,年次間でデータの相関分析を行ったところ,ほとんどの特性値で有意な正の相関が見られるが,年数がひらくほど相関係数は低くなった.4)空間的および時間的なばらつきに由来する変動係数を比較した結果,pH,EC,C/N比,交換性Ca,Mg,Naは時空間変動がほぼ等しいのに対し,可給態窒素,可溶性窒素は空間変動の方がやや大きく,全炭素,全窒素,有効態リン酸,交換性Kは空間変動の方が顕著に大きかった.したがって,今回の時空間スケールでは,土壌サンプリングにおいて時間変動よりも空間変動を重視すべきであることが示された.以上の結果,対象とする土壌特性により,許容する誤差範囲,危険率に応じて,空間的および時間的なサンプリング頻度を決定することが重要であると結論された.

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