著者
矢内 純太 岡田 達朗 山田 秀和
出版者
一般社団法人 日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料学雑誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.83, no.6, pp.673-680, 2012-12-05 (Released:2017-06-28)
参考文献数
19
被引用文献数
4

日本の農耕地土壌の元素組成を明らかにし,その土壌型・土地利用・地域との関係を調べるために,日本全国から採取した水田あるいは畑の表層土壌計180点について,20元素の全濃度を分析した.すなわち,微粉砕試料を硝酸・フッ化水素酸・過塩素酸で湿式分解後,溶液のAl, Fe, Ca, Mg, Ti, P, Mn, Ba, V, Sr, Zn, Cu, NiをICP-AESで,K, Naを原子吸光法でそれぞれ定量した.全Se濃度は,試料の硝酸・過塩素酸分解液を2,3-ジアミノナフタレンと反応させた後シクロヘキサンで抽出し,HPLCで定量することにより求めた.全C, N濃度は乾式燃焼法で測定し,Si, O濃度は計算により求めた.主要10元素は,中央値で504g-O kg^<-1>, 291g-Si kg^<-1>, 76.6g-Al kg^<-1>, 36.8g-Fe kg^<-1>, 24.8g-C kg^<-1>, 15.0g-K kg^<-1>, 14.3g-Na kg^<-1>, 11.9g-Ca kg^<-1>, 8.78g-Mg kg^<-1>, 3.82g-Ti kg^<-1>となり,全体の98.7%を占めた.他の10元素の中央値は,2.15g-N kg^<-1>, 1.43g-P kg^<-1>, 705mg-Mn kg^<-1>, 394mg-Ba kg^<-1>, 140mg-V kg^<-1>, 125mg-Sr kg^<-1>, 90.5mg-Zn kg^<-1>, 24.5mg-Cu kg^<-1>, 14.3mg-Ni kg^<-1>, 0.42mg-Se kg^<-1>であった.この値は,日本の農耕地土壌の元素組成の代表値とみなされた.土壌型別では,黒ボク土でAl, Fe, C, N濃度が比較的高く,沖積土でSi, K, Ba濃度が比較的高いこと,また赤黄色土でCa, Mg, Na濃度が極めて低いことが示された.土地利用別では,畑土壌の方が水田土壌よりもAl, Fe, C, Ca, Mg, Ti, N, P, Mn, V, Se度が有意に高くSi, K, Ba濃度が有意に低かった.ここで,ほぼ同一地点で採取された25組の水田・畑土壌についてはどの元素濃度も有意差はなかったため,上記の違いは管理よりも土壌型の違いによるものと判断された.地域別では,元素組成データに基づくクラスター分析により,1)沖縄2)北海道・東北・関東・中国・九州,3)北陸-中部・近畿・四国の3グループに分かれることが示された.以上の知見は,持続的な食料生産や環境保全の推進のための基礎情報として重要であると結論された.
著者
井上 弦 中尾 淳 矢内 純太 佐瀬 隆 小西 茂毅
出版者
一般社団法人 日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料学雑誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.90, no.6, pp.424-432, 2019-12-05 (Released:2019-12-17)
参考文献数
22

茶の覆下栽培(被覆栽培)の発祥時期を明らかにする目的で,京都府宇治市の伝統的茶園,宇治七茗園のうち現存する唯一の茶園(奥の山茶園)において,在来種で古いとされる茶樹直下に試坑を作製し,土壌断面調査とともに,炭素含量,植物珪酸体組成,年代値を調べた.その結果,Bw層(試料no. 8)–AB層(試料no. 7)境界で炭素含量が増加をはじめ,AB層(試料no. 6)–A層境界(試料no. 5)から,土色の黒味が増し,炭素含量も急増した.植物珪酸体組成では,AB層でイネ属起源の植物珪酸体が明瞭に認められるようになり,AB層–A層境界からさらに同植物珪酸体の検出密度が増し,また,自然植生由来の植物珪酸体はAB層からA層への減少が示唆された.加えて,14C年代値は,AB層最上部(no. 6)で較正暦年代(2σ)1341~1396 cal AD(probability=56.9%,中央値AD1369),A層最下部(no. 5)で較正暦年代(2σ)1396~1440 cal AD(probability=90.8%,中央値AD1418)を示した.以上のことから,宇治最古の茶園(奥の山茶園)における覆下栽培は,文献資料が示す16世紀後半からさらに150年は遡り,少なくとも15世紀前半には発生していたと推定された.
著者
新良 力也 西田 瑞彦 森泉 美穂子 赤羽 幾子 棚橋 寿彦 佐藤 孝 鳥山 和伸 木村 武 矢内 純太
出版者
日本土壌肥料學會
雑誌
日本土壌肥料学雑誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.81, no.1, pp.73-80, 2010
参考文献数
30
被引用文献数
1

我が国の水田ではコメの生産調整のために1969年から転作が開始され、1978年に水田利用再編対策が開始されてからは、連作の回避、地力回復、村落内の負担の公平性等の理由から田畑輪換が広く実施されている。1980年以降は水田面積約2,900,000haのうち調整面積は500,000haを超え、2009年度には作物の作付けされた水田面積2,330,000haの約3分の1(710,000ha)が畑地利用されているとみられる。このような状況の中でダイズ等の収量低下が顕在化し、土壌有機物含量等の肥沃度の低下が懸念されている。しかし、連作水田とは異なり、湛水・還元環境と落水・酸化環境の繰り返しが、有機物の蓄積や分解にどのような影響を及ぼし、土壌窒素給源等をどのように変化させているか、あるいは土壌リン酸の可給性が連作水田とどのように異なっているのか等についての知見は十分整理されていない。このため、田畑輪換条件での肥沃度変動の法則性やメカニズムの解明が必要である。一方、肥沃度維持対策では、家畜ふん堆肥や緑肥等の資材施用の有効性や適正施用量についての知見が必要であり、土壌からの養分供給や土壌への蓄積を踏まえた施用方法の確立が求められている。そこで、土壌肥沃度部門と肥料・資材部門が共同で、田畑輪換水田における肥沃度の現状と関連研究の到達点を共有し、今後の展望を明らかにするため、1.田畑輪換水田の現状と土壌管理についての問題提起、2.田畑輪換水田の土壌窒素と施用有機物の挙動、3.土壌有機態窒素の実体について、4.田畑輪換土壌におけるリン酸の挙動と各種資材による供給、5.家畜ふん堆肥を利用した肥培管理、6.緑肥を利用した肥培管理の6課題でシンポジウムを開催したので概要を報告する。
著者
矢内 純太 松原 倫子 李 忠根 森塚 直樹 真常 仁志 小崎 隆
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.79, no.1, pp.61-67, 2008-02-05
被引用文献数
3

土壌特性値の評価は,農耕地における土壌の適切な管理のために不可欠である.そのためには通常土壌サンプリングが行われるが,圃場の土壌全体を常に調べることは不可能であり,時空間的に一部のみを調べて全体を予測することが必要となる.そこで本研究では,日本の主要な農地形態の一つである水田について,各種土壌特性値の空間的・時間的変動を評価するとともに,土壌診断のための合理的土壌サンプリング法の検討を行うことを目的とした.広さ50m×100mの水田圃場(灰色沖積土)において,春先の基肥前に5m×10mの区画ごとに深さ0〜15cmの表層土を1999年から2002年に毎年100点,合計400点採取した.採取した土壌は風乾および2mm篩別後,pH,EC,全炭素,全窒素,C/N比,可給態窒素,可溶性窒素,交換性塩基,可給態リン酸を測定した.得られたデータについて,空間的および時間的変動に関する評価を行った.その結果,以下のような知見が得られた.1)全400点の土壌特性値の変動係数は,pH,C/N比で10%以下,全炭素,全窒素,可給態リン酸,交換性Ca,Mg,Kで10〜20%,EC,可給態窒素,交換性Na,可溶性窒素で20%以上となり,土壌特性値によりその変動は様々であった.特に窒素関連特性値では,C/N比6%,全窒素13%,可給態窒素24%,可溶性窒素31%の順となり,可給度あるいは可動性が高いほど大きな変動を示した.2)同時期に採取した土壌の空間変動を評価すると,各特性値の変動係数は全変動の結果とほぼ同様の傾向を示した.データの推定誤差とサンプリング数の関係を解析すると,その関係は土壌特性値により大きく異なった.すなわち,推定誤差を5%以内に抑えるためには,pHで3点,交換性Caで20点,全窒素で29点,交換性Kで32点,可給態リン酸で34点,可給態窒素で78点,可溶性窒素で134点必要であり,逆に5点サンプリングの場合,推定誤差はpHで2.3%,交換性Caで14%,全窒素で16%,交換性Kで17%,可給態リン酸で18%,可給態窒素で27%,可溶性窒素で36%となることなどが明らかとなった(危険率5%).したがって,現実性を考えると,5点程度のサンプリングを行った上で,得られた平均値に10%以上の推定誤差を伴う可能性のあることを十分認識しておくのが望ましいと考えられた.3)同地点から採取した土壌の時間変動を評価したところ,全変動や空間変動と同様の傾向が見られた.また,年次間でデータの相関分析を行ったところ,ほとんどの特性値で有意な正の相関が見られるが,年数がひらくほど相関係数は低くなった.4)空間的および時間的なばらつきに由来する変動係数を比較した結果,pH,EC,C/N比,交換性Ca,Mg,Naは時空間変動がほぼ等しいのに対し,可給態窒素,可溶性窒素は空間変動の方がやや大きく,全炭素,全窒素,有効態リン酸,交換性Kは空間変動の方が顕著に大きかった.したがって,今回の時空間スケールでは,土壌サンプリングにおいて時間変動よりも空間変動を重視すべきであることが示された.以上の結果,対象とする土壌特性により,許容する誤差範囲,危険率に応じて,空間的および時間的なサンプリング頻度を決定することが重要であると結論された.
著者
小崎 隆 縄田 栄治 舟川 晋也 矢内 純太 角野 貴信
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、湿潤地において定常的な有機物動態を攪乱・変容させるストレス要因を、土壌有機物動態モデルへ定量的に組み込む可能性を検討した。その結果、多糖基質分解プロセスにおいては可溶化/無機化二段階プロセスモデルの、また単糖無機化プロセスにおいては段階的基質利用コンセプトの適用が有用であり、反応論としてミカエリス-メンテン式の利用によって定量的に評価することが可能であった。いずれにおいても土壌酸性がストレス要因として重要なものであることが検証された。