- 著者
-
伊原木 大祐
- 出版者
- 日本宗教学会
- 雑誌
- 宗教研究 (ISSN:03873293)
- 巻号頁・発行日
- vol.83, no.2, pp.339-362, 2009-09-30
神義論をめぐる現代的論争は、J・L・マッキーによって提示された「悪の論理的問題」をいかに克服するかという課題から始まった。しかし、そこから出された対案の多くは、「悪の情動的問題」に対する有効な解決法とはなりえていない。本論文は、とくに感情面を重視した応答の一つとして、ジョン・K・ロスによる「抗議の神義論(反-神義論)」に注目する。ロスの(反)神義論は、ヴィーゼルやルーベンスタインと共にアウシュヴィッツ以降の時代状況を強く意識している点で、数あるキリスト教神義論の中でも独自なスタンスを保っている。また、その議論は、悪における「正当化しえないもの」の要素に注目している点で、エマニュエル・レヴィナスらの現代哲学的位相とも深い部分で接している。この点を確認した後、ドストエフスキーが『カラマーゾフの兄弟』で描いたイワン・カラマーゾフの「反逆」を分析することで、ロスの議論を宗教哲学的な観点から補完する。