- 著者
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川野 靖子
- 出版者
- 日本語学会
- 雑誌
- 日本語の研究 (ISSN:13495119)
- 巻号頁・発行日
- vol.5, no.4, pp.47-61, 2009-10
「塗る」等の動詞は壁塗り代換と呼ばれる格体制の交替を起こすが,「付ける」「汚す」等は交替を起こさない。壁にペンキを{塗る/付ける/*汚す}壁をペンキで{塗る/*付ける/汚す}この現象に関して次のことを論じた。(1)「交替を起こすのは位置変化と状態変化を表す動詞」という従来の記述は,現象の言い換えであり説明にならない。交替を起こさない動詞が表す位置変化・状態変化との違いを明らかにする必要がある。(2)分析の結果,交替を起こす動詞が表す位置変化・状態変化は,それぞれ依存的転位・総体変化として特徴づけられるものであり,両者のシフトによって交替が起こることが分かった。「付ける」「汚す」等はこのようなタイプの位置変化・状態変化を表さないため交替が起こらないのである。(3)本稿のアプローチは,動詞の範疇的語義の階層性に着目したものである。これは,複数の交替の体系的記述を可能にする点でも有意義なアプローチである。