著者
川野 靖子
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.32-47, 2006-01-01

次のような〜ニ〜ヲ形と〜ヲ〜デ形の交替は壁塗り代換(場所格交替)と呼ばれている。グラスに水を満たす 〜ニ〜ヲ動詞グラスを水で満たす 〜ヲ〜デ動詞本稿はこの現象を次の観点から論じた。(1)〜ニ〜ヲ形と〜ヲ〜デ形の交替は、常に壁塗り代換のような形(ニ格句とヲ格句、ヲ格句とデ格句が対応するという形)で起こるのか。(2)格成分の対応の仕方はどのようにして決定されるのか。結論は次の通りである(上記(1)と(2)に対応させて示す)。(1)'〜ニ〜ヲ形と〜ヲ〜デ形の交替には壁塗り代換に加えて次のような交替がある。桜の葉に餅をくるむ 〜ニ〜ヲ動詞餅を桜の葉でくるむ 〜ヲ〜デ動詞(2)'上記(1)'は、〜ニ〜ヲ形と〜ヲ〜デ形の交替の場合、意味役割に着目しても、格成分の対応の仕方を予測できないことを示している。このことから当該現象の場合、格成分の対応の仕方は、意味役割には反映されない意味(動詞の個別的語義)によって決定されると考えられる。
著者
川野 靖子
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.5, no.4, pp.47-61, 2009-10

「塗る」等の動詞は壁塗り代換と呼ばれる格体制の交替を起こすが,「付ける」「汚す」等は交替を起こさない。壁にペンキを{塗る/付ける/*汚す}壁をペンキで{塗る/*付ける/汚す}この現象に関して次のことを論じた。(1)「交替を起こすのは位置変化と状態変化を表す動詞」という従来の記述は,現象の言い換えであり説明にならない。交替を起こさない動詞が表す位置変化・状態変化との違いを明らかにする必要がある。(2)分析の結果,交替を起こす動詞が表す位置変化・状態変化は,それぞれ依存的転位・総体変化として特徴づけられるものであり,両者のシフトによって交替が起こることが分かった。「付ける」「汚す」等はこのようなタイプの位置変化・状態変化を表さないため交替が起こらないのである。(3)本稿のアプローチは,動詞の範疇的語義の階層性に着目したものである。これは,複数の交替の体系的記述を可能にする点でも有意義なアプローチである。
著者
川野 靖子
出版者
埼玉大学教養学部
雑誌
埼玉大学紀要. 教養学部 = Saitama University Review. Faculty of Liberal Arts (ISSN:1349824X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.37-50, 2020

「塗る」等の動詞は、「壁にペンキを塗る/壁をペンキで塗る」のように、格体制の交替を起こす。従来から指摘されているように、こうした交替動詞は位置変化と状態変化の 2 つの意味を持つと考えられる。しかし一方で、交替動詞が表す位置変化の意味(e.g., 壁にペンキを塗る)と状態変化の意味(e.g., 壁をペンキで塗る)は、「別義」と言うには似すぎていることから、通常の多義語における意味間の関係とは異なる関係にあると考えられる。本稿では、それが具体的にどう異なるのかを考察し、以下のことを指摘した。交替動詞:「~ニ~ヲ塗る」と「~ヲ~デ塗る」は現実世界の同一事態を指示している。両表現の意味の違いは、その同一事態を位置変化として捉えているのか、状態変化として捉えているのか、という点にある。多義語 :多義語の各意味が指示する事態は、関連はするが同一事態ではなく、別の事態である。上記のように多義語との違いを詳らかにすることにより、交替動詞の特徴を明確にした。
著者
矢澤 真人 橋本 修 和氣 愛仁 川野 靖子 福嶋 健伸 石田 尊
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

代表者、分担者、協力者の協力も得て、以下のことを行い明らかにした。国文法理論に関しては、形態論重視の文法理論と、それに対抗する意味論重視の文法理論とを検討し、包括性・初学者への分かりやすさでは前者に、認知論との関連・直感的な興味深さでは後者にメリットが多いことを明らかにした。これと相関して学習指導要領における文法教育・言語事項の位置づけや、教育現場での実際の取り扱い等を検討し、現況にあった有益な文法教育の目標としては、言語感覚の養成・母語への愛着の涵養等がより中心的になるべきであることを示した。他の文法理論については、それぞれ、存在動詞構文・ハイパレージ現象に対して構文文法的アプローチ、中世日本語述部(特にテンス.アスペクト)に対して形態・機能論的アプローチ、非分末の「ですね」に対して談話文法論・情報管理理論的アプローチ、自他の形態(の少なくとも一部)に対して認知・計算意味論的アプローチ、テイル文に対して(生成)統語論的アプローチが、有生性の心的実在性に対しては実験心理学(脳科学)的アプローチが有効であることが、それぞれの具体的分析・実験等により示された。また、教育文法に関しては、枠組みとして、身体活動も含めた言語行動ルールとしての文法の必要性、国語教材の選択・使用法について具体的手順(活用の既定の一部修正・教授順序の変更)を経たカスタマイズのありかた、生徒が作成する要約文の特徴と字数との関連等が示された。
著者
川野 靖子
出版者
筑波大学大学院博士課程文芸・言語研究科日本語学研究室
雑誌
筑波日本語研究 (ISSN:13424793)
巻号頁・発行日
no.8, pp.39-48, 2003

状態変化動詞がサマの変化を表すのに対し、位置変化動詞は対象の位置の変化を表し、サマの変化は含意しない。そのため位置変化動詞は、状態変化動詞とは異なり、結果の副詞句をとりにくいという特徴をもつ。しかし実際には、位置変化動詞であっても、「壁に写真を大きく飾った」「山に雪が白く積もった」のように、結果の修飾関係を構成している例がみられる。本稿では、位置変化動詞が結果の修飾関係を構成するのはどのような場合か(現象の成立条件)、そしてなぜそうした現象が成立し得るのか(現象の背景)という点を中心に分析を行った。その結果、上記の現象は副詞句が存在のあり方を表す場合(ex.壁に写真を大きく飾った)と内的属性を表す場合(ex.山に雪が白く積もった)の2つに分かれること。そして、前者の場合は存在のあり方と位置変化の意味との馴染みやすさが、後者の場合は当該の文にみられる発生構文との類似性が、結果の修飾関係を可能にしていることが明らかになった。本稿の分析は、位置変化と状態変化の峻別という基本的な立場を保持したまま当該の現象が説明できることを示したものであり、変化動詞の包括的記述に寄与するものである。