著者
高槻 成紀
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.45-54, 2001-07-20
被引用文献数
11

近年ニホンジカ(シカ)が増加し,農林業被害を発生させるだけでなく,自然植生への影響も出ている.一方,外来牧草が牧場だけでなく道路沿いの緑化に用いられ,それが逸出している.このような牧草がシカの個体数増加や分布拡大に及ぼす影響は今のところ不明だが,保全生態学的には重要な問題なので,既存のデータを再検討した.その結果,岩手県五葉山ではシカはミヤコザサをよく採食しているが,牧場周辺のシカは秋と晩冬に牧草をよく採食していることがわかった.シカはまた,牛の放牧が終わる秋以降牧場をよく利用していた.文献により牧草と野草の栄養価と消化率を比較したところ,牧草が栄養価の高い飼料であることがわかった.五葉山の牧場周辺には牧場に依存的なシカがおり,牧場を金網の柵で囲った年の翌春には多くのシカが餓死し,それ以降死亡数が少なくなった.また東京都の奥多摩のシカは冬に非常に栄養価の低い,枯葉や樹枝,樹皮などを多く採食していたが,若干例の胃内容物サンプルには多くの牧草が含まれていた.これらの事例や観察例をもとにシカにとっての牧草の意義を考察し,外来牧草は自然植生に悪影響を及ぼすだけでなく,シカの個体数増加や分布にプラスになっており,そのことを通じてさらに自然植生に悪影響を及ぼす可能性があることを指摘した.

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