著者
嶋津 信彦
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.99-110, 2011-05-30

2010年6月22日から10月18日に沖縄島300水系において、延べ流程340kmを踏査し、外来水生生物31分類群と在来魚41分類群の分布を記録した。生物の確認は、主に川を歩いて遡りながらの目視観察で行われた。結果、外来水生生物の分布は、島の南部に多く、北東部で少なかった。カワスズメ属、グッピーおよびコイは順に141、120および54水系で確認された。セルフィンプレコ属やジルティラピア、アカミミガメなどは、人口密度の高い南部に分布が集中していた。一方、ダニオ属やプラティ、コウタイなどは、観賞魚であるが人口密度の低い北部でのみ記録された。絶滅危惧種をはじめ在来魚の分布は、北部と中西部に多かった。ソードテールは、北部での分布拡大が著しい外来魚であり、絶滅危惧種への影響も危惧される。
著者
西廣 淳 赤坂 宗光 山ノ内 崇志 高村 典子
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.147-154, 2016 (Released:2017-07-17)
参考文献数
33
被引用文献数
1 or 0

要旨 種子や胞子などの散布体を含む湖沼の底質は、地上植生から消失した水生植物を再生させる材料として有用である。ただし、底質中の散布体の死亡などの理由により、地上植生から植物が消失してからの時間経過に伴い再生の可能性が低下する可能性が予測される。しかし、再生可能性と消失からの経過時間との関係については不明な点が多い。そこで、水生植物相の変化と底質中の散布体に関する知見が比較的充実している霞ヶ浦(西浦)と印旛沼を対象に、水生植物の再生の確認の有無と、地上植生での消失からの経過時間との関係を分析した。その結果、地上植生から記録されなくなった植物の再生の可能性は時間経過に伴って急激に低下し、消失から40~50年が経過した種では再生が困難になることが示唆された。散布体バンクの保全は、湖沼の生態系修復において優先すべき課題であると考えられる。
著者
阿部 由里 猪瀬 礼璃菜 藤原 聖史 兼子 伸吾 平塚 明
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.95-102, 2014-05-30

野生状態での存続が危ぶまれる水準にまで個体数が減少してしまった絶滅危惧植物において、栽培によって個体や系統を維持することは、その種の絶滅を回避する上で一定の意義がある。その一方で、近縁の外来種の混入による遺伝子汚染や種内の遺伝構造の攪乱等を生じる危険性があり、絶滅危惧植物の栽培集団の創出や維持管理については十分な注意が必要である。本研究では、岩手県内の各地に栽培されているアツモリソウの遺伝的多様性を把握するために、葉緑体DNAのtrnL-F遺伝子間領域および核DNAのITS領域の塩基配列について解析を行った。今回の解析により、遠野市においてアツモリソウとして栽培されていた集団内の1個体においては、葉緑体DNAおよび核DNAの双方において他個体のアツモリソウとは明確に異なる塩基配列が検出された。この塩基配列は、中国固有のC. yunnanenseかC. franchetiiもしくはC. calcicolaと同一もしくは類似しており、中国原産の外来種が混入していると推定された。当該集団における他の個体についても、網羅的に今回の研究と同様の解析を行い、他地域からの混入が疑われる個体を明らかにしたうえで、管理方針を検討、実施する必要がある。
著者
宮崎 佑介 松崎 慎一郎 角谷 拓 関崎 悠一郎 鷲谷 いづみ
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.291-295, 2010-11-30
参考文献数
27
被引用文献数
1 or 0

岩手県一関市にある74の農業用ため池において、2007年9月〜2009年9月にかけて、コイの在・不在が浮葉植物・沈水植物・抽水植物の被度に与えている影響を明らかにするための調査を行った。その結果、絶滅危惧種を含む浮葉植物と沈水植物の被度が、コイの存在により負の影響を受けている可能性が示された。一方、抽水植物の被度への有意な効果は認められなかった。コイの導入は、農業用ため池の生態系を大きく改変する可能性を示唆している。
著者
藤井 伸二
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.3-15, 2010-05-30
被引用文献数
3 or 0

京都府に位置する芦生研究林の枕谷において、シカ摂食圧の顕在化にともなう開花植物相と開花株数の変化を調査した。その結果、開花植物の種数は84種から56種に減少していた。開花株数の増減評価を行った77種の内訳は、顕著に増加したものが8種、顕著に減少したものが47種であった。22種は地域絶滅した可能性がある。大形の植物種において減少種数の割合が高く、小形の植物種については増減変化の顕著でない種数の割合が高かった。開花時期を検討した結果、春咲き種群に比べて初夏・夏咲き種群と秋咲き種群での減少種数の割合が高かった。したがってシカ摂食の影響評価のためには植物体サイズと開花時期の両方の形質が重要と考えられる。推定開花株数とシンプソンの多様度指数の季節変化パターンは大きく変化したことが明らかになり、開花植物を利用する訪花昆虫や植食昆虫に対する植物の季節的群集機能の変化が示唆された。
著者
奥田 圭 關 義和 小金澤 正昭
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.121-129, 2013-11-30

シカの高密度化に伴う鳥類群集への影響を明らかにするため、栃木県奥日光地域における1977年から2009年にかけての繁殖期の鳥類群集のデータを過去の資料から抽出し、当地域においてシカが増加し始めた1980年代前半以前からシカが高密度化した現在までの鳥類群集の変遷を検討した。そして、その変遷要因についてシカの高密度化と絡めて考察を行なった。鳥類群集の変遷過程の概略をつかむため、1977年、1978年、1979年、1991年、1992年、1993年、1998年、2003年、2008年、2009年の計10時期のデータを用い、各時期において確認されたすべての鳥種を生活型(営巣型および採食型)により分類し、その組成の経年変化を検討した。また、TWINSPANにより種組成の似通った時期および出現傾向が類似する鳥種の分類を行なった。その結果、生活型の組成は1993年と1998年を境に大きく変化していた。また、TWINSPANの結果からも同様に、1993年と1998年を境に種組成が大きく変化していたことが示された。キツツキ類などの樹洞営巣型および樹幹採食型に属する鳥種や、サメビタキ属などの樹上営巣型、フライキャッチ(飛翔採食)型の鳥種は1998年以降に高い相対優占度を有していた。一方、ウグイス類やムシクイ類などの森林の下層を営巣や採食に利用する鳥種や、托卵習性を有するカッコウ類の鳥種は、1993年以前には高い相対優占度を有していたものの、1998年以降にはほとんど欠落していた。奥日光地域では1990年代後半からシカによる下層植生の衰退や樹皮剥ぎの増加などの森林植生への影響が顕在化したことが報告されている。これらのことから、シカの高密度化に伴う下層植生の衰退は、ウグイス類やムシクイ類などの営巣および採食環境の劣化をもたらし、負の影響を及ぼしたことが考えられた。さらに、それに付随して、これらの鳥種を主な托卵相手とするカッコウ類の鳥種にも二次的な負の影響を及ぼした可能性が示唆された。また、シカの高密度化に伴う樹皮剥ぎの増加は枯死木を増加させ、枯死木を営巣や採食に利用する樹洞営巣型や樹幹採食型の鳥種に正の影響を及ぼしたことが考えられた。また、枯死木の増加は樹上営巣型やフライキャッチ型の鳥種にも正の影響を及ぼした可能性が示唆された。以上から、奥日光地域において1993年と1998年を境に鳥類群集が大きく変化した主要因は、シカの高密度化に伴う植生改変であると結論した。
著者
田村 淳
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.255-264, 2010-11-30
参考文献数
47
被引用文献数
5 or 0

ニホンジカの採食圧を受けてきた時間の長さによる植生保護柵(以下、柵)設置後の多年生草本の回復しやすさを検討するために、同一斜面上の設置年の異なる柵で、12種の出現頻度と個体数、成熟個体数を比較した。柵はニホンジカの強い採食圧を10年程度受けた後に設置された柵3基(1997年柵)と16年程度受けた後に設置された柵4基(2003年柵)である。両方の柵で出現頻度が同程度であった種が6種、1997年柵で高い傾向のある種が6種であった。出現頻度が1997年柵で高い傾向のある6種のうちの3種は、シカの採食圧の低かった時代において調査地にまんべんなく分布していた可能性があった。そのため12種のうち9種は両方の柵で潜在的な分布は同じだったと考えられた。これら9種において個体数を比較したところ、4種は1997年柵で個体数が有意に多かった。これらの種は、シカの採食圧を長く受けた後に柵を設置しても回復しにくいことを示している。一方で、9種のうちの5種は、両方の柵で個体数に有意差はなかった。このことは、これら5種が林床植生退行後の柵の設置までに要した10年ないし16年程度のシカの採食圧では出現に影響しないことを示唆している。ただし、このうちの1種は成熟個体数の比率が2003年柵で低かった。以上のことから、柵の設置が遅れると回復しにくい種があることが明らかになった。したがって、それらの生育地では退行後、遅くとも10年以内に柵を設置することが望ましいと結論した。
著者
志賀 隆 横川 昌史 兼子 伸吾 井鷺 裕司
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.33-44, 2013-05

シモツケコウホネNuphar submersa Shiga & KadonoとナガレコウホネN.×fluminalis Shiga & Kadonoは残存集団がそれぞれ4集団のみであり、絶滅が危惧されている水生植物である。それぞれの生育面積はわずかであるにもかかわらず、近年、群落の一部を根こそぎ持ち去るような、園芸目的の盗掘と思われる被害が確認されるようになった。本研究では、形態形質の調査とマイクロサテライトマーカー15遺伝子座の遺伝子型解析を行うことにより、市場に流通しているシモツケコウホネ、ナガレコウホネ、これに加え「ナガバベニコウホネ」の流通名で販売されている植物についてC社とT社から購入し、産地の特定を試みた。ナガレコウホネについては現存個体の多座位遺伝子型を明らかにするために、全ての現存集団から合計59サンプルを得て遺伝子型解析を行った結果、19種類の多座位遺伝子型が確認された。流通株の形態形質を調査した結果、T社の「シモツケコウホネ」(T1)はシモツケコウホネであったのに対し、C社の流通株(C1〜C9)は全てナガレコウホネであった。また、流通株の遺伝子型を決定した結果、2種類の多座位遺伝子型が確認された。流通株から得られた多座位遺伝子型に対応するものが野生集団で確認されるか検討したところ、T1は日光市(NIK)のシモツケコウホネ(NIK-25)と、C1〜C9は同一クローンであり、佐野市(SAN)のナガレコウホネ(SAN-10)と多座位遺伝子型が完全に一致した。日光市と佐野市の各集団において、NIK-25とSAN-10と全く同じ多座位遺伝子型を持つ別個体が集団内の任意交配により生じる確率(PG)はそれぞれ0.00034と0.00030であることから、日光市および佐野市において採集された2種類の株が流通していたことが示唆された。全個体遺伝子型解析に基づく遺伝子型データの整備は流通や盗掘に対して抑制的な効果をもたらすことが期待できる。
著者
岩田 明久
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.133-141, 2006-12-05
被引用文献数
4 or 0

現在、アユモドキLeptobotia curtaの天然個体群は岡山県の二カ所と京都府の亀岡のみにしかなく、日本の淡水魚で最も絶滅の危険性が高い種の一つとされる。本種は、水田に取水するために灌漑用ゴム布引製起伏堰が稼働した後に、水位の急激な上昇で水没する陸生植物の繁茂した堰上流部のうち、緩傾斜が続く泥底止水城浅所のごく狭い範囲に産卵する。しかも、産卵日は水位の上昇が止まった直後の一日から二日間のみという集中的な産卵習性を持つ。仔魚には3-4週間浮遊しながらミジンコ類を専食するための安定した一時的水域が必要である。一方、稚魚から成魚の環境要求性は狭くない。従って、本種の存続はひとえに産卵場と仔魚の育成場所の存在にかかっている。このような場所はモンスーン地域の雨季に、河川水位の急激な上昇で水没する氾濫原や河跡湖の岸辺といった、水田生態系が作出される以前の始源的状態を保持しているといえる。現在、この条件を満たす箇所は用排兼用型灌漑のもとに在来水田農業が営まれる、用水路に続く遊水地や灌漑堰のある河川支流にごく僅かに残されているにすぎない。そして、このような場所は水田農地・河川改修で最初に消失する部分である。アユモドキのような在来水田農業に依存した生物を存続させるには、水田周辺の用排水路・小溝・河川支流等といった場所に残存するモンスーン気候遣存環境の維持と再創出を強く目指さなければならない。
著者
奥田 圭 田村 宜格 關 義和 山尾 僚 小金澤 正昭
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.109-118, 2014-11-30

栃木県奥日光地域では、1984年以降シカの個体数が増加し、1990年代後半から植物種数が減少するなど、植生にさまざまな影響が生じた。そこで当地域では、1997年に大規模な防鹿柵を設置し、植生の回復を図った。その結果、防鹿柵設置4年後には、柵内の植物種数がシカの個体数が増加する以前と同等にまで回復した。本研究では、防鹿柵の設置がマルハナバチ群集の回復に寄与する効果を検討するため、当地域において防鹿柵が設置されてから14年が経過した2011年に、柵内外に生息するマルハナバチ類とそれが訪花した植物を調査した。また、当地域においてシカが増加する以前の1982年と防鹿柵が設置される直前の1997年に形成されていたマルハナバチ群集を過去の資料から抽出し、2011年の柵内外の群集とクラスター分析を用いて比較した。その結果、マルハナバチ群集は2分(グループIおよびII)され、グループIにはシカが増加する以前の1982年における群集が属し、シカの嗜好性植物への訪花割合が高いヒメマルハナバチが多く出現していた。一方、グループIIには防鹿柵設置直前の1997年と2011年の柵内外における群集が属し、シカの不嗜好性植物への訪花割合が高いミヤママルハナバチが多く出現していた。これらのことから、当地域におけるマルハナバチ群集は、防鹿柵が設置されてから14年が経過した現在も回復をしていないことが示唆された。当地域では、シカが増加し始めてから防鹿柵が設置されるまでの間、長期間にわたり持続的にシカの採食圧がかかっていた。そのため、柵設置時には既にシカの嗜好性植物の埋土種子および地下器官が減少していた可能性がある。また、シカの高密度化に伴うシカの嗜好性植物の減少により、これらの植物を利用するマルハナバチ類(ポリネーター)が減少したため、防鹿柵設置後もシカの嗜好性植物の繁殖力が向上しなかった可能性がある。これらのことから、当地域における防鹿柵内では、シカの嗜好性植物の回復が困難になっており、それに付随して、これらの植物を花資源とするマルハナバチ類も回復していない可能性が示唆された。
著者
村中 孝司 石井 潤 宮脇 成生 鷲谷 いづみ
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.19-33, 2005-06-30
参考文献数
88
被引用文献数
21 or 0

外来生物の侵入は生物多様性を脅かす主要な要因の1つとして認識されている.日本においても, 2004年に「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」が公布され, 生態系等に係わる被害を及ぼすあるいは及ぼす可能性がある外来生物を特定外来生物として指定し, 防除などの措置を講ずることが定められている.本研究では, 同法にもとづいて指定すべき特定外来生物の検討に先立ち, 同法基本方針における「特定外来生物の選定に関する基本的事項」を維管束植物に適用して, 生物多様性を脅かす特定外来植物の候補種を選定した.これまで得られた生態学, 保全生態学およびその他の科学的知見を整理し, (1)国内外における侵略性の高さ, (2)国内における侵入面積, (3)生態系・在来種に及ぼす影響, および(4)対策事例の有無の4項目に関して, できる限り数量的に評価することにより, 108種を対策の必要性の緊急度からA-Cの3ランクに分けてリストアップした.対策緊急度の最も高いAランクには, オオブタクサAmbrosia trifida, シナダレスズメガヤEragrostis curvula, ハリエンジュRobinia pseudoacacia, アレチウリSicyos angulatus, セイタカアワダチソウSolidago altissima, オオカナダモEgeria densa, オニウシノケグサFestuca arundinacea, オオフサモMyriophyllum aquatica, コカナダモElodea nuttallii, ホテイアオイEichhornia crassipes, カモガヤDactylis glomerata, アカギBischofia javanica, 外来タンポポ種群Taraxacum spp., オオカワヂシャVeronica anagallis-aquatica, ヒメジョオンStenactis annuus, ボタンウキクサPistia stratiotesの計16種が選定された.いずれの種も生態系・在来種に及ぼす影響が顕著であり, すでに行政や地域住民が主体となり駆除対策が実施されているものである.また, オオカワヂシャを除いた15種は日本生態学会(2002)がリストアップした「日本の侵略的外来種ワースト100」に選定されており, 国内の河川における優占群落面積が大きい種が多く含まれる.それに次ぐBランクには, ハルザキヤマガラシBarbarea vulgaris, イタチハギAmorpha fruticosa, ミズヒマワリGymnocoronis spilanthoides, キショウブIris pseudacorusなど計35種が, Cランクには計57種が選定された.ここに掲載された種の中には, 現在もなお緑化用牧草, 観賞用水草などとして盛んに利用されている種が含まれている.特にAランクに選定された種については速やかに特定外来生物に指定し, 侵入・蔓延を防止するための有効な対策を強化することが必要である.
著者
高槻 成紀
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.293-296, 2009-11-30
参考文献数
15
被引用文献数
2 or 0

Bears are popular, and are often regarded as umbrella species by conservationists and wildlife societies. This is the case for the Asiatic black bear and the brown bear in Japan. The idea is that bears' home ranges are large and, consequently, that the conservation of bears would result in the conservation of other sympatric plants and animals. Buskirk (1999), however, stated that since large carnivores are habitat generalists, they cannot serve as umbrellas. In fact, in the Sierra Nevada, most martens, fishers and wolverines, which are habitat specialists, are extinct or nearly so, while American black bears are common or abundant (Buskirk pers, comm. 2009). Buskirk's opinion is important for the following reasons. 1) Although the concept of an umbrella species has merit, unless a species' habitat and resource requirements are known, the conservation of other species is not assured. 2) If a conservation initiative is enacted under this slogan and some animals disappear, while bears are abundant, as happened in the Sierra Nevada, then the logic underpinning the initiative is flawed. 3) The proposition of "the more, the better" can be unpopular, even with people who have an understanding of conservation efforts, because such a proposition may be difficult to accept, particularly in a small country like Japan. 4) The concept that bears are umbrella species stems from the idea that not only bears but also other organisms should be conserved; however, the term can be misconstrued to imply that, "Bears live here and thus other animals must also be OK." Thus, the slogan can function in a manner contrary to its intent. We should be cautious not to use this concept without confirming the true meaning of umbrella species.
著者
金指 あや子 菊地 賢 杉山 正幸 石田 清 永光 輝義 鈴木 和次郎
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.139-149, 2014-11-30

環境省レッドリストで絶滅危惧II 類に指定されている日本固有種ハナノキAcer pycnanthum(ムクロジ科)の最大の自生地である岐阜県中津川市千旦林において、ハナノキ個体群の分布と構造を明らかにし、その成立について考察した。調査は、2カ所の自生地(A区:7.5ha、B区:0.9ha)で行った。自生地はいずれも造林地や広葉樹二次林に覆われているが、A区には、ため池沿いの湿地や水田跡地などの開放的な環境も含まれる。A区では胸高周囲15cm以上の幹を持つハナノキ個体が785個体、B区では44個体が確認され、A区は個体数規模においてハナノキの我が国最大の自生地であると認められた。A区では、逆J字型のサイズ構造を示し、若い未成熟個体を多く含んでいたが、B区は幅の広い一山型分布を示した。現存個体の死亡にともなう地域個体群の絶滅が危惧されるB区に対し、A区では更新木の存在により個体群の存続が見込まれる。こうした個体群構造の違いは、開放的環境の有無や森林の取り扱い履歴に起因する。特に過去、複数回行われたスギ、ヒノキなど針葉樹植林時の森林伐採が、ハナノキの順次更新をもたらした結果、A区における最大規模の個体数の維持に寄与していると考えられた。多くのハナノキ自生地では実生の更新がほとんど見られず個体群の衰退が危惧される中、ハナノキの保全管理のモデルケースとして、本区域のハナノキ個体群の動態を注意深く見守り、個体群の持続機構を解明するとともに、更新サイトを確保するための上層間伐(受光伐)などの管理を行う必要がある。
著者
村上 裕 大澤 啓志
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.187-198, 2008-11-30
被引用文献数
2 or 0

愛媛県中予地域において、水稲栽培型とトノサマガエル・ヌマガエルとの関係を調査した。現地調査は、2005年に130地点のカエル類分布調査を、2000〜2005年に水稲栽培型調査を実施した。過去の栽培型(1958年)については資料調査とし、地域別の栽培型ごとの面積と品種数を明らかにし、2000〜2005年は水稲栽培型で区分した地図を作成した。1958年と比較して2000〜2005年の平野部における水稲栽培型の多くが短期栽培に変化し、普通期栽培品種においても栽培期間の短期化が進行していた。これに対して山間部の水稲栽培型は品種の変遷はあるものの、栽培型や栽培期間に大きな変化は認められなかった。標高と栽培型との関係では、早期栽培は標高50m以上にほぼ均一に分布していたが、短期栽培は標高20m以下に集中傾向がみられた。トノサマガエルは22地点(生息確認率16.9%)、ヌマガエルは40地点(同30.8%)で生息確認が得られた。標高と両種の関係は、トノサマガエルが標高による明瞭な傾向を示さないのに対して、ヌマガエルは低地依存性があることが明らかになった。栽培型と両種の関係では、トノサマガエルは水稲栽培期間の短期化によって生息地域が減少することが明らかになった。一方、ヌマガエルの生息確率は水稲栽培期間の短期化には影響を受けていなかった。以上のことから、トノサマガエルは標高よりも栽培型に影響を受けるが、ヌマガエルは栽培型よりも標高に影響を受けることが明らかになった。短期栽培は、栽培期間が短いため、兼業農家においても取り組みやすい栽培型である一方、水田を二次的自然環境として利用しているカエル類、特にトノサマガエルの生息に負の影響を及ぼしていると考えられた。
著者
高橋 純一 福井 順治 椿 宜高
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.73-79, 2009-05-30

絶滅危惧種であるベッコウトンボの羽化殻を用いたRAPD解析によって、ベッコウトンボの集団に直接影響を与えることなく、遺伝的多様性を明らかにした。静岡県磐田市桶ヶ谷沼地域の3つの発生地で採集した60個体に対して80種類のプライマーを使用しRAPD解析を行った。17種のプライマーから20個の遺伝子座で多型が検出され、12種のDNA型が見つかった。そのうち集団特異的なDNA型が合計4つ検出された。遺伝子多様度は平均0.317、遺伝子分化係数は平均0.07となり、集団間の多様性は小さかった。AMOVA分析によっても集団間の分化は検出できなかった。また3集団から見出された変異は98.7%が集団内の個体間変異に、集団間では1.3%となった。クラスター分析からも集団間は非常に類縁関係が高いことが明らかになった。
著者
長池 卓男
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.103-109, 2016 (Released:2016-10-03)
参考文献数
15

要旨 高山帯・亜高山帯での文化的な生態系サービスの主な享受者である登山者に注目し、ニホンジカの植生への影響の認識を明らかにするために、のべ299人を対象としたアンケート調査を行った。「南アルプスでニホンジカの影響があることについて、ご存じでしたか?」という設問に対しては、「知っていた」が37%、「知らなかった」が62%であった。また、登山歴が長いほど「知っていた」割合が高くなり、各設問での「わからない」という回答が少ない傾向があった。ニホンジカの影響を「知っていた」人の方が、今回登山した際に「見た」割合が高かった。今後、柵の設置などニホンジカ対策を進めるためには、登山者によるニホンジカ問題への理解が重要である。したがって、理解を進めるための普及・広報を広く実施するとともに、登山経験の浅い人をターゲットにすることが有効であることが示唆された。
著者
山口 正樹 杉阪 次郎 工藤 洋
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.111-119, 2010-05-30

アブラナ科の越年生草本タチスズシロソウArabidopsis kamchatica subsp.kawasakianaは環境省のレッドリストに絶滅危惧IB類として記載されている。生育地が減少しており、その多くが数百株以下の小さな個体群である。著者らは、2006年春に、琵琶湖東岸において3万株以上からなるタチスズシロソウの大群落が成立していることを発見した。この場所では2004年から毎年夏期にビーチバレーボール大会が行われており、砂浜が耕起されるようになった。この場所の群落は埋土種子から出現したものと考えられ、耕起により種子が地表に移動したことと、競合する多年草が排除されたごとが群落の出現を促した可能性があった。2006年には、この群落を保全するため、ビーチバレーボール大会関係者の協力のもと、位置と時期を調整して耕起を行った。その結果、3年連続で耕起した場所、2年連続で耕起後に1年間耕起しなかった場所、全く耕起しなかった場所、初めて耕起し左場所を設けることができた。この耕起履歴の差を利用し、翌2007年に個体密度と面積あたりの果実生産数を調査することで、タチスズシロソウ群落の成立と維持に重要な要因を推定した。2006年に初めて耕起した場所では、耕起しなかった場所に比べて、翌年の個体密度、面積当たりの果実生産ともに高くなった。2年連続耕起後に1年間耕起を休んだ場所では、3年連続で耕起した場所に比べて、翌年の個体数は増えたが果実生産数は増加しなかった。また、結実期間中(6月)に耕起した場所では、結実終了後に耕起した場所に比べて、翌年の個体密度と果実生産数が低下した。これらのことから、秋から春にかけてのタチスズシロソウの生育期間中には耕起を行わないことと、結実後に耕起を行うことがタチスズシロソウ個体群の保全に有効であると結論した。このことは、ビーチバレーボール大会のための耕起を適切な時期に行うことにより、砂浜の利用と絶滅危惧植物の保全とが両立可能であることを示している。
著者
横畑 泰志
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.87-96, 2003-08-30

尖閣諸島魚釣島では,1978年に日本人の手によって意図的に放逐された1つがいのヤギCapra hircusが爆発的に増加し,300頭以上に達している.その結果,この島では現在数ケ所にパッチ状の裸地が形成されるなど,ヤギによる植生への影響が観察されている.魚釣島には固有種や生物地理学的に重要な種が多数生息するが,現状を放置すれば島の生態系全体への重大な影響によって,それらの多くは絶滅することが懸念される.この問題の解決は,尖閣諸島の領有権に関する日本,中国,台湾間の対立によって困難になっている.日本生態学会はこの問題に対し.2003年3月の第50回大会において「尖閣諸島魚釣島の野生化ヤギの排除を求める要望書」を決議し,環境省,外務省などに提出した.同様の要望書は2002年に日本哺乳類学会において.2003年に沖縄生物学会においても決議されている.現在は国内の研究者による上陸調査の実施の可否について,日本政府の判断が注目されている.
著者
比嘉 基紀 師井 茂倫 酒井 暁子 大野 啓一
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.207-217, 2008-11-30
被引用文献数
1 or 0

木曽川感潮域の自然堤防帯からデルタ帯への移行帯において、絶滅危惧植物タコノアシPenthorum chinense Pursh(ユキノシタ科)の生育適地を解明することを目的に調査を行った。本調査地は、河床勾配が緩やかなことに加え、様々な人為的インパクトの影響で河床が全体的に安定傾向にある。これまで本種は、河川では自然攪乱にさらされやすい澪筋沿いの明るく開けた立地に出現すると報告されている。しかし草本植物全体の分布特性について検討した結果、タコノアシは比高が高く地表攪乱の痕跡のないアカメヤナギ群落の林縁や林床で多く確認された。このことから本調査地では、タコノアシは地表攪乱以外の要因によって個体群を維持していると考えられた。タコノアシの成長と開花に影響を及ぼす環境要因を、最尤推定法の変数選択で検討した結果、表層堆積物硬度がすべての統計モデルで選択され、標準化推定値も大きかった。個体の地上部乾燥重量と枝数、開花個体数、花梗数は、表層堆積物が軟らかく、上層の開けた明るい泥湿地的環境で増加する傾向を示した。本調査地でタコノアシの成長と開花が良好な環境は、堆積物硬度が0.16〜0.82kg/cm^2、7月のRPPFDが20〜60%、1日の冠水時間が3.97〜5.84h、表層の細粒堆積物厚が32〜40cm、表層堆積物の中央粒径が0.048〜0.053mm、淘汰度が1.24〜1.79であった。比高の低い立地にも表層堆積物が軟らかく上層の明るい環境は存在したが、そこではヨシやマコモ、ミズガヤツリの優占群落が成立しており、タコノアシの出現個体数は少なかった。冠水・塩水ストレスが本種の分布制限要因とは考えにくく、比高の低い立地でも生育は可能と推察されることから、タコノアシの分布特性を解明するためには、種間関係を含めたさらに詳細な検討が必要である。
著者
森 章
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.45-59, 2007-05-31
被引用文献数
6 or 0

近年、生態系や景観レベルでの機能や動態を重視する管理り・保全方策に焦点が当てられている。特に森林生態系は多くの景観における主要要素であり、それゆえ生態系の健全性を包括的に維持する森林管理が、結果として、内包される遺伝子・種・個体群・群集、そしてさらには各森林生態系の存在する地域景観に至るまでの各レベルにおける多様性の維持に貢献できるといった、生態系を基準とした森林管理の概念が認知されるようになった。カナダ・ブリティッシュコロンビア州には、低頻度で起こる大規模な火事撹乱が規定する森林景観、高頻度・低強度の林床火事により維持されてきた内陸の乾燥林、小規模なギャップ形成が主要撹乱要因として卓越する太平洋岸温帯雨林など、様々な森林生態系が存在する。卓越する撹乱体制は州内でも地域ごとに大きく異なり、生態系の動的側面を重視しない管理方策により森林生態系を本来あるべき姿から変えてしまうことを避けるため、そしてすでに変化してしまった森林生態系の健全性の回復のためにも、近年自然撹乱体制に関わる研究が担う役割は大きくなっている。これは生態系を基準とした森林管理を実行する中で非常に重要と考えられている。そして現在、ブリティッシュコロンビア州では、森林を管理運営する立場の機関・団体が、現行の研究により得られる新たな知見を取り入れて、様々な撹乱により維持される森林の動的側面や森林景観の多様性を尊重しつつ、試行錯誤しながら管理方策を改善していく適応的管理が行われている。このように、最新の研究成果が実際の管理運営に反映されることは、これからの持続可能な森林管理において非常に重要であると考えられる。