著者
西廣 淳 赤坂 宗光 山ノ内 崇志 高村 典子
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.147-154, 2016 (Released:2017-07-17)
参考文献数
33
被引用文献数
1

種子や胞子などの散布体を含む湖沼の底質は、地上植生から消失した水生植物を再生させる材料として有用である。ただし、底質中の散布体の死亡などの理由により、地上植生から植物が消失してからの時間経過に伴い再生の可能性が低下する可能性が予測される。しかし、再生可能性と消失からの経過時間との関係については不明な点が多い。そこで、水生植物相の変化と底質中の散布体に関する知見が比較的充実している霞ヶ浦(西浦)と印旛沼を対象に、水生植物の再生の確認の有無と、地上植生での消失からの経過時間との関係を分析した。その結果、地上植生から記録されなくなった植物の再生の可能性は時間経過に伴って急激に低下し、消失から40~50年が経過した種では再生が困難になることが示唆された。散布体バンクの保全は、湖沼の生態系修復において優先すべき課題であると考えられる。
著者
嶋津 信彦
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.99-110, 2011-05-30

2010年6月22日から10月18日に沖縄島300水系において、延べ流程340kmを踏査し、外来水生生物31分類群と在来魚41分類群の分布を記録した。生物の確認は、主に川を歩いて遡りながらの目視観察で行われた。結果、外来水生生物の分布は、島の南部に多く、北東部で少なかった。カワスズメ属、グッピーおよびコイは順に141、120および54水系で確認された。セルフィンプレコ属やジルティラピア、アカミミガメなどは、人口密度の高い南部に分布が集中していた。一方、ダニオ属やプラティ、コウタイなどは、観賞魚であるが人口密度の低い北部でのみ記録された。絶滅危惧種をはじめ在来魚の分布は、北部と中西部に多かった。ソードテールは、北部での分布拡大が著しい外来魚であり、絶滅危惧種への影響も危惧される。
著者
五箇 公一
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.123-130, 2012-05-30 (Released:2018-01-01)
参考文献数
3
被引用文献数
1

Currently, the conservation of biodiversity ranks alongside the regulation of global warming as the most important global environmental problems. Biological invasions are considered one of the most important causative agents of declines in biodiversity. Therefore, in Article 8 (h), the Convention on Biological Diversity (CBD) specified that each contracting party must undertake efforts to control alien species that threaten ecosystems, habitats, or species. Furthermore, the "Aichi Target," based on the 2010 targets identified during CBD's 10^<th> Conference of Parties (COP10, held at Nagoya, Japan), proposed as Target 9 that, "By 2020, invasive alien species and pathways are identified and prioritized, priority species are controlled or eradicated, and measures are in place to manage pathways to prevent their introduction and establishment." Because the need to control alien species has increased worldwide, each country needs to possess or prepare regulation systems against biological invasions. On the other hand, economic globalization has recently undergone rapid advances, which increases the chances of introductions and transportation of alien species. Japan has a large economy and is simultaneously a resource-poor country that is largely dependent on the importation of foods and natural resources from abroad. Therefore, our country can be considered to have a constant high risk of invasion by alien species. Of course, Japan has some quarantine systems and regulations to counter alien species. However, the risk of invasion by alien species continues to rise irrespective of efforts to prevent their arrival and establishment. The World Trade Organization (WTO) is confronting the control of alien species by applying immense diplomatic pressure.
著者
阿部 由里 猪瀬 礼璃菜 藤原 聖史 兼子 伸吾 平塚 明
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.95-102, 2014-05-30

野生状態での存続が危ぶまれる水準にまで個体数が減少してしまった絶滅危惧植物において、栽培によって個体や系統を維持することは、その種の絶滅を回避する上で一定の意義がある。その一方で、近縁の外来種の混入による遺伝子汚染や種内の遺伝構造の攪乱等を生じる危険性があり、絶滅危惧植物の栽培集団の創出や維持管理については十分な注意が必要である。本研究では、岩手県内の各地に栽培されているアツモリソウの遺伝的多様性を把握するために、葉緑体DNAのtrnL-F遺伝子間領域および核DNAのITS領域の塩基配列について解析を行った。今回の解析により、遠野市においてアツモリソウとして栽培されていた集団内の1個体においては、葉緑体DNAおよび核DNAの双方において他個体のアツモリソウとは明確に異なる塩基配列が検出された。この塩基配列は、中国固有のC. yunnanenseかC. franchetiiもしくはC. calcicolaと同一もしくは類似しており、中国原産の外来種が混入していると推定された。当該集団における他の個体についても、網羅的に今回の研究と同様の解析を行い、他地域からの混入が疑われる個体を明らかにしたうえで、管理方針を検討、実施する必要がある。
著者
渡辺 黎也 日下石 碧 横井 智之
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.49-60, 2019 (Released:2019-07-01)
参考文献数
55

コウチュウ目やカメムシ目などの水生昆虫は、水田やため池を主な生息場所としているが、圃場整備や近代農法への転換によって生息環境が改変され、全国的に減少傾向にある。そのため近年では慣行農法の水田に対し、殺虫剤や除草剤の使用を抑えた環境保全型農業の水田を推進する動きが高まっている。水生昆虫群集の動態に影響を与える要因としては、農法以外にも水田内外における生息環境に関わる複数の要因が挙げられるが、それら要因についての知見は少なく総合的な解決が求められている。本研究では、水田内の環境要因および景観要素が水生昆虫群集(コウチュウ目、カメムシ目)に与える影響について調査した。 調査は2017年4月から9月に、茨城県つくば市近郊の5地域から環境保全型水田と慣行水田を1組以上、計16枚を対象に行なった。タモ網を用いた掬い取りを行ない、水生昆虫と餌生物(両生類幼生、ユスリカ科、カ科等)の個体数を種もしくは分類群ごとに記録した。水田内の環境要因として、調査地ごとに水質(水温、水深、電気伝導度、pH)と水田内に生育する植物の植被率、薬剤使用の有無、湛水日数を調査した。また地理情報システム(GIS)を用いて、調査水田を中心としてバッファー(半径500、1,000、2,000、3,000、4,000、5,000 m)を発生させ、各バッファーに占める景観要素(水田、その他の水域、森林、人工物、その他)の面積の割合を算出した。 調査の結果、水生昆虫の群集組成は農法によって異なっており、水田内の要因のうち湛水日数と餌個体数、水温が群集組成に影響を与えていた。さらに各要因の効果として、分類群数に対しては餌個体数と水温が正の効果を与えていた。また、慣行農法は水生昆虫の分類群数と個体数の双方に負の効果を与えていた。分類群数および個体数の決定に有効な空間スケールはそれぞれ水田周囲の半径3,000 mと2,000 mであり、その他の水域や森林が分類群数や個体数に正の効果を与えていた。以上より、水生昆虫の分類群数や個体数の維持には環境保全型農業の推進に加え、水田内への安定した餌生物の供給や、半径2,000または3,000 m内にその他の水域や森林など様々な環境が存在することが重要であることが示された。
著者
宮崎 佑介 松崎 慎一郎 角谷 拓 関崎 悠一郎 鷲谷 いづみ
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.291-295, 2010-11-30
参考文献数
27
被引用文献数
1

岩手県一関市にある74の農業用ため池において、2007年9月〜2009年9月にかけて、コイの在・不在が浮葉植物・沈水植物・抽水植物の被度に与えている影響を明らかにするための調査を行った。その結果、絶滅危惧種を含む浮葉植物と沈水植物の被度が、コイの存在により負の影響を受けている可能性が示された。一方、抽水植物の被度への有意な効果は認められなかった。コイの導入は、農業用ため池の生態系を大きく改変する可能性を示唆している。
著者
田村 淳
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.255-264, 2010-11-30 (Released:2018-02-01)
参考文献数
47
被引用文献数
8

ニホンジカの採食圧を受けてきた時間の長さによる植生保護柵(以下、柵)設置後の多年生草本の回復しやすさを検討するために、同一斜面上の設置年の異なる柵で、12種の出現頻度と個体数、成熟個体数を比較した。柵はニホンジカの強い採食圧を10年程度受けた後に設置された柵3基(1997年柵)と16年程度受けた後に設置された柵4基(2003年柵)である。両方の柵で出現頻度が同程度であった種が6種、1997年柵で高い傾向のある種が6種であった。出現頻度が1997年柵で高い傾向のある6種のうちの3種は、シカの採食圧の低かった時代において調査地にまんべんなく分布していた可能性があった。そのため12種のうち9種は両方の柵で潜在的な分布は同じだったと考えられた。これら9種において個体数を比較したところ、4種は1997年柵で個体数が有意に多かった。これらの種は、シカの採食圧を長く受けた後に柵を設置しても回復しにくいことを示している。一方で、9種のうちの5種は、両方の柵で個体数に有意差はなかった。このことは、これら5種が林床植生退行後の柵の設置までに要した10年ないし16年程度のシカの採食圧では出現に影響しないことを示唆している。ただし、このうちの1種は成熟個体数の比率が2003年柵で低かった。以上のことから、柵の設置が遅れると回復しにくい種があることが明らかになった。したがって、それらの生育地では退行後、遅くとも10年以内に柵を設置することが望ましいと結論した。
著者
西廣 淳
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.141-146, 2012-11-30 (Released:2017-10-01)
参考文献数
20
被引用文献数
2

霞ヶ浦(茨城県)では1996年以降、霞ヶ浦開発事業の計画にもとづく水位管理が実施され、従来よりも高い水位が年間を通して維持されるようになった。水位上昇に伴って進行すると予測される湖岸の抽水植物帯の衰退の程度と特徴を明らかにするため、行政や関連機関によって取得されたデータを活用して解析した。湖岸の34定点で測定された抽水植物帯の幅(人工護岸から汀線までの距離)の変化を分析した結果、1997年から2010年までの13年間に、9.54±7.71m(平均±標準偏差)の減少が認められた。また植生帯の幅の減少量と、各地点における波高の指標値との間には、有意な正の相関が認められた。優占種にもとづいて識別された抽水植物群落の面積変化を分析した結果、1992年から2002年までの間に顕著に減少していたのは、比高が低く静穏な場所に成立するマコモ群落とヒメガマ群落であった。現在の霞ヶ浦では、「水利用と湖の水辺環境との共存を模索する」ことを目的とした「水位運用試験」として、水位をさらに上昇させる管理が行われているが、これまでの植生帯衰退を考えれば、水位をむしろ低下させ、保全効果を検証する試験こそが必要といえる。
著者
西廣 淳
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.139-148, 2011-11-30 (Released:2017-08-01)
参考文献数
37
被引用文献数
5

治水や利水を目的とした湖沼水位の操作による季節的変動パターンの変化が、湖岸の植物の種子による繁殖に及ぼす影響について、霞ヶ浦(茨城県)を例に解説した。霞ヶ浦では水門による水位操作が行われるようになった1970年代以降、それまで生じていた春季における水位低下が失われた。このため、湖岸の抽水植物帯の地表面が冠水しやすくなり、植生帯面積の減少と相まって、そこに生育する植物の発芽セーフサイト(発芽と実生定着に必要な条件を備えた場所)の面積がそれ以前の約24%に減少したと推定された。さらに水位操作が強化された現在の霞ヶ浦湖岸では、湿生植物の実生更新がほとんど生じていないことが確認され、現状の方針による管理が継続されると湖岸の植物の多様性が損なわれることが示唆された。水位管理方針の変更が湖岸の植物の発芽セーフサイトの面積に及ぼす影響を単純なモデルを用いて予測した結果、現状から20cm以内で水位を低下させただけでも発芽セーフサイトの大幅な回復が見込めることが示唆された。治水・利水・環境を鼎立させた管理のためには、このような生態学的予測を活用するとともに、多様な視点からの検討を経た順応的管理が不可欠である。
著者
津田 優一 中濵 直之 加藤 英寿 井鷺 裕司
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.127-136, 2018 (Released:2018-07-23)
参考文献数
40

小笠原諸島の父島では現在、グリーンアノールやセイヨウミツバチをはじめとする外来種の侵入により、在来 の訪花昆虫が減少し外来の訪花昆虫が優占する、送粉系撹乱が生じている。この撹乱により父島に生育する植物の結 果率が変化していることが報告されているものの、植物の遺伝的多様性及び構造に与える影響については明らかにな っていない。本研究では、父島と送粉系撹乱のない聟島において、小笠原固有種のシマザクラを対象に、各島の訪花 昆虫相及び繁殖成功、また遺伝的多様性を解明し、それをもとに送粉系撹乱が繁殖成功及び遺伝的多様性に与える影 響について考察した。両島でシマザクラの花について2 分間隔のインターバル撮影を24 時間あるいは48 時間実施し た(合計撮影時間,聟島:216 時間,父島:120 時間)。また、聟島で23 花序、父島で25 花序の結果率の測定を行っ た。マイクロサテライトマーカー14 座を用いて聟島及び父島の成木の遺伝的多様性の算出を行うと共に、両島の成 木を用いて島間の遺伝的分化について推定した。さらに、親子解析で親を有意に同定できた種子について遺伝的多様 性の算出と種子親の自殖率の推定を行った。訪花昆虫観察の結果、撹乱が生じている父島では、聟島に比べて総訪花 頻度と在来昆虫の訪花頻度が少なく、外来種のセイヨウミツバチが総訪花の65%を占めており、結果率が有意に低 かったこと(p < 0.05)から、シマザクラの送粉系が父島で撹乱されている事が明らかになった。しかし、成木と種 子の遺伝的多様性、自殖率に島間で有意差はなく、各島内の成木には有意な距離による隔離が見られなかった。本研 究から、小笠原諸島における送粉系撹乱はシマザクラの繁殖成功に負の影響をもたらしているものの、遺伝的多様性 には影響をもたらしていないことが明らかとなった。
著者
奥田 圭 田村 宜格 關 義和 山尾 僚 小金澤 正昭
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.109-118, 2014-11-30 (Released:2017-08-01)

栃木県奥日光地域では、1984年以降シカの個体数が増加し、1990年代後半から植物種数が減少するなど、植生にさまざまな影響が生じた。そこで当地域では、1997年に大規模な防鹿柵を設置し、植生の回復を図った。その結果、防鹿柵設置4年後には、柵内の植物種数がシカの個体数が増加する以前と同等にまで回復した。本研究では、防鹿柵の設置がマルハナバチ群集の回復に寄与する効果を検討するため、当地域において防鹿柵が設置されてから14年が経過した2011年に、柵内外に生息するマルハナバチ類とそれが訪花した植物を調査した。また、当地域においてシカが増加する以前の1982年と防鹿柵が設置される直前の1997年に形成されていたマルハナバチ群集を過去の資料から抽出し、2011年の柵内外の群集とクラスター分析を用いて比較した。その結果、マルハナバチ群集は2分(グループIおよびII)され、グループIにはシカが増加する以前の1982年における群集が属し、シカの嗜好性植物への訪花割合が高いヒメマルハナバチが多く出現していた。一方、グループIIには防鹿柵設置直前の1997年と2011年の柵内外における群集が属し、シカの不嗜好性植物への訪花割合が高いミヤママルハナバチが多く出現していた。これらのことから、当地域におけるマルハナバチ群集は、防鹿柵が設置されてから14年が経過した現在も回復をしていないことが示唆された。当地域では、シカが増加し始めてから防鹿柵が設置されるまでの間、長期間にわたり持続的にシカの採食圧がかかっていた。そのため、柵設置時には既にシカの嗜好性植物の埋土種子および地下器官が減少していた可能性がある。また、シカの高密度化に伴うシカの嗜好性植物の減少により、これらの植物を利用するマルハナバチ類(ポリネーター)が減少したため、防鹿柵設置後もシカの嗜好性植物の繁殖力が向上しなかった可能性がある。これらのことから、当地域における防鹿柵内では、シカの嗜好性植物の回復が困難になっており、それに付随して、これらの植物を花資源とするマルハナバチ類も回復していない可能性が示唆された。
著者
渡部 晃平
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.227-235, 2016 (Released:2017-07-17)
参考文献数
31

水田に生息する水生昆虫の保全のための基礎知見を得ることを目的として、愛媛県の南予地域において野外実験を行い、水田の水利構造上の違い(明渠の有無)とコウチュウ目およびカメムシ目の水生昆虫の群集組成の関係を調査した。田植直後から稲刈り前までの期間に採集された水生昆虫の平均個体数の比較により、明渠では水田の中の本田部分に比べて水生昆虫の個体数が多く、明渠の有無により水田における水生昆虫の群集組成は異なることが示唆された。本田部分で多い種は、ヒメゲンゴロウ、コシマゲンゴロウ、キイロヒラタガムシ、ヒメガムシ、ゴマフガムシであった。これらは、水田で繁殖を行う種が大半を占めており、繁殖環境として明渠よりも本田が適しているものと考えられた。明渠で多い種は、コガシラミズムシ、マダラコガシラミズムシ、コツブゲンゴロウであった。コガシラミズムシとマダラコガシラミズムシは、藻類を食べることが知られていることから、植生が豊富な明渠に集まったものと考えられた。コツブゲンゴロウは、乾期の少ない水域を繁殖環境としており、ため池や湿地の代替的な環境として明渠が選択されたものと考えられた。
著者
宮崎 佑介
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.167-176, 2018 (Released:2018-07-23)
参考文献数
44

今後の市民科学の在り方を議論する上での意見として、科学、研究、市民の概念を整理し、論考した。日本語の「研究」は新規性を重視しない定義づけがなされている一方で、英語の「research」には新規性の有ることがその定義となっている点についての差異が認められた。また、東アジア(日本を含む)では成人のみを市民と捉えることが一般的である可能性がある一方で、西洋では乳幼児から市民として捉え始める場合が多いことを指摘した。次に、佐々木ほか(2016)によって定義された市民科学の概念を、魚類に関する事例にあてはめ、科学への貢献の可能性と課題の抽出を試みた。以上の検討を踏まえ、今後の日本の市民科学が欧米のcitizen science に近いものを目指す必要があることと、同時に日本の独自性を追及していくことの価値を述べた。
著者
照井 滋晴 太田 宏 石川 博規 郷田 智章
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.67-73, 2018 (Released:2018-07-23)
参考文献数
17

冬期にまとまった積雪のある北海道・東北地方において、道路への融雪剤の散布は交通の安全性の確保の面からは不可欠であるが、一方で、動植物に悪影響を及ぼすことが懸念されている。そこで本研究では、融雪剤として利用されるCaCl2 が、どの程度の濃度でサンショウウオの卵や幼生の生存に影響を与えるのかを把握することを目的とし、エゾサンショウウオとトウホクサンショウウオの卵嚢と幼生を用いてCaCl2 曝露実験を行った。卵嚢を用いた実験の結果、エゾサンショウウオの半数致死濃度(以下、LC50 と表記)の推定値(CaCl2 換算)は316.6 mg/L、トウホクサンショウウオでは234.4 mg/L であった。幼生を用いた実験では、エゾサンショウウオのLC50 の推定値(CaCl2換算)は271.1 mg/L、トウホクサンショウウオでは519.0 mg/L であった。加えて、エゾサンショウウオの卵嚢を用いた実験では、400 mg/L 以上の濃度の水溶液中で孵化した幼生の17.9%は外鰓が委縮しており、たとえ孵化することができたとしてもCaCl2 の影響により形態的な異常が生じる可能性が示唆された。これらの結果は、残留するCaCl2 の濃度次第では自然条件下の繁殖水域においても、融雪剤の散布がエゾサンショウウオ及びトウホクサンショウウオの卵や幼生に対して孵化率や生存率の低下をもたらしうることを示唆している。
著者
藤井 伸二
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.3-15, 2010-05-30
被引用文献数
3

京都府に位置する芦生研究林の枕谷において、シカ摂食圧の顕在化にともなう開花植物相と開花株数の変化を調査した。その結果、開花植物の種数は84種から56種に減少していた。開花株数の増減評価を行った77種の内訳は、顕著に増加したものが8種、顕著に減少したものが47種であった。22種は地域絶滅した可能性がある。大形の植物種において減少種数の割合が高く、小形の植物種については増減変化の顕著でない種数の割合が高かった。開花時期を検討した結果、春咲き種群に比べて初夏・夏咲き種群と秋咲き種群での減少種数の割合が高かった。したがってシカ摂食の影響評価のためには植物体サイズと開花時期の両方の形質が重要と考えられる。推定開花株数とシンプソンの多様度指数の季節変化パターンは大きく変化したことが明らかになり、開花植物を利用する訪花昆虫や植食昆虫に対する植物の季節的群集機能の変化が示唆された。
著者
志賀 隆 横川 昌史 兼子 伸吾 井鷺 裕司
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.33-44, 2013-05-30 (Released:2017-08-01)
被引用文献数
1

シモツケコウホネNuphar submersa Shiga & KadonoとナガレコウホネN.×fluminalis Shiga & Kadonoは残存集団がそれぞれ4集団のみであり、絶滅が危惧されている水生植物である。それぞれの生育面積はわずかであるにもかかわらず、近年、群落の一部を根こそぎ持ち去るような、園芸目的の盗掘と思われる被害が確認されるようになった。本研究では、形態形質の調査とマイクロサテライトマーカー15遺伝子座の遺伝子型解析を行うことにより、市場に流通しているシモツケコウホネ、ナガレコウホネ、これに加え「ナガバベニコウホネ」の流通名で販売されている植物についてC社とT社から購入し、産地の特定を試みた。ナガレコウホネについては現存個体の多座位遺伝子型を明らかにするために、全ての現存集団から合計59サンプルを得て遺伝子型解析を行った結果、19種類の多座位遺伝子型が確認された。流通株の形態形質を調査した結果、T社の「シモツケコウホネ」(T1)はシモツケコウホネであったのに対し、C社の流通株(C1〜C9)は全てナガレコウホネであった。また、流通株の遺伝子型を決定した結果、2種類の多座位遺伝子型が確認された。流通株から得られた多座位遺伝子型に対応するものが野生集団で確認されるか検討したところ、T1は日光市(NIK)のシモツケコウホネ(NIK-25)と、C1〜C9は同一クローンであり、佐野市(SAN)のナガレコウホネ(SAN-10)と多座位遺伝子型が完全に一致した。日光市と佐野市の各集団において、NIK-25とSAN-10と全く同じ多座位遺伝子型を持つ別個体が集団内の任意交配により生じる確率(PG)はそれぞれ0.00034と0.00030であることから、日光市および佐野市において採集された2種類の株が流通していたことが示唆された。全個体遺伝子型解析に基づく遺伝子型データの整備は流通や盗掘に対して抑制的な効果をもたらすことが期待できる。
著者
奥田 圭 藤間 理央 根岸 優希 ヒントン トーマス G. スマイサー ティモシー J. 玉手 英利 兼子 伸吾
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.137-144, 2018 (Released:2018-07-23)
参考文献数
27

2011 年の東北地方太平洋沖地震は、福島県の一部地域における人間活動を大きく変えた。福島第一原子力発電所の津波被害やその後に生じた放射能汚染は、結果的に放棄耕作地や住民の避難に伴う空き家を増加させ、避難区域内における家畜の逸出を招き、野生の哺乳動物の個体群も拡大させた。本研究では、福島県におけるニホンイノシシと逸出したブタとの交雑の可能性を検証した。2014 年から2016 年の間に福島県内の個体群から集められた75 頭のニホンイノシシのミトコンドリアDNA 配列を分析した結果、71 個体からはニホンイノシシ固有の既知の配列が得られたが、それらから著しく分化したブタに該当する配列が4 個体から得られた。この結果は、野生化したブタからニホンイノシシ個体群への遺伝子汚染を示唆している。また、今回の知見は、当該地域における核DNA マーカーを用いた詳細な遺伝解析とモニタリングに基づく個体群管理の必要性を示唆している。
著者
奥田 圭 關 義和 小金澤 正昭
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.121-129, 2013-11-30

シカの高密度化に伴う鳥類群集への影響を明らかにするため、栃木県奥日光地域における1977年から2009年にかけての繁殖期の鳥類群集のデータを過去の資料から抽出し、当地域においてシカが増加し始めた1980年代前半以前からシカが高密度化した現在までの鳥類群集の変遷を検討した。そして、その変遷要因についてシカの高密度化と絡めて考察を行なった。鳥類群集の変遷過程の概略をつかむため、1977年、1978年、1979年、1991年、1992年、1993年、1998年、2003年、2008年、2009年の計10時期のデータを用い、各時期において確認されたすべての鳥種を生活型(営巣型および採食型)により分類し、その組成の経年変化を検討した。また、TWINSPANにより種組成の似通った時期および出現傾向が類似する鳥種の分類を行なった。その結果、生活型の組成は1993年と1998年を境に大きく変化していた。また、TWINSPANの結果からも同様に、1993年と1998年を境に種組成が大きく変化していたことが示された。キツツキ類などの樹洞営巣型および樹幹採食型に属する鳥種や、サメビタキ属などの樹上営巣型、フライキャッチ(飛翔採食)型の鳥種は1998年以降に高い相対優占度を有していた。一方、ウグイス類やムシクイ類などの森林の下層を営巣や採食に利用する鳥種や、托卵習性を有するカッコウ類の鳥種は、1993年以前には高い相対優占度を有していたものの、1998年以降にはほとんど欠落していた。奥日光地域では1990年代後半からシカによる下層植生の衰退や樹皮剥ぎの増加などの森林植生への影響が顕在化したことが報告されている。これらのことから、シカの高密度化に伴う下層植生の衰退は、ウグイス類やムシクイ類などの営巣および採食環境の劣化をもたらし、負の影響を及ぼしたことが考えられた。さらに、それに付随して、これらの鳥種を主な托卵相手とするカッコウ類の鳥種にも二次的な負の影響を及ぼした可能性が示唆された。また、シカの高密度化に伴う樹皮剥ぎの増加は枯死木を増加させ、枯死木を営巣や採食に利用する樹洞営巣型や樹幹採食型の鳥種に正の影響を及ぼしたことが考えられた。また、枯死木の増加は樹上営巣型やフライキャッチ型の鳥種にも正の影響を及ぼした可能性が示唆された。以上から、奥日光地域において1993年と1998年を境に鳥類群集が大きく変化した主要因は、シカの高密度化に伴う植生改変であると結論した。
著者
日置 佳之 須田 真一 百瀬 浩 田中 隆 松林 健一 裏戸 秀幸 中野 隆雄 宮畑 貴之 大澤 浩一
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.43-89, 2000-08-10 (Released:2018-02-09)
参考文献数
97
被引用文献数
3

東京都練馬区にある東京都立石神井公園周辺の1930〜40年代と1980〜90年代における生物相を50余点の文献から明らかにした.また,同地のランドスケープを地図と空中写真を用いて縮尺1/2,500で図化した.2つの年代間で生物相の比較を行ったところ,すべての分類群で種の多様性が顕著に低下していることが明らかになった.また,ランドスケープの変化を地理情報システムによって分析した結果,樹林地は比較的高い率で残存していたものの,草地,湿地は大きく減少し,水路などの流水域と湧水はほぼ完全に消失していた.開放水面の面積は微増し,市街地は大幅に増加していた.同地域における種多様性の変化要因を明らかにするためにギルド別の種数変化と生育(息)地の規模変化の関係を求めた結果,種数の変化は生育(息)地の規模変化に対応していることが認められた.また,ギルドによって,生育(息)地の分断化に対する抵抗性に差異が認められた.研究の結果,地域において種多様性を保全するためには,生育(息)地として機能するランドスケープ要素(生態系)の多様性を確保することが不可欠であることが示唆された.
著者
田村 淳
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.255-264, 2010-11-30
参考文献数
47
被引用文献数
5

ニホンジカの採食圧を受けてきた時間の長さによる植生保護柵(以下、柵)設置後の多年生草本の回復しやすさを検討するために、同一斜面上の設置年の異なる柵で、12種の出現頻度と個体数、成熟個体数を比較した。柵はニホンジカの強い採食圧を10年程度受けた後に設置された柵3基(1997年柵)と16年程度受けた後に設置された柵4基(2003年柵)である。両方の柵で出現頻度が同程度であった種が6種、1997年柵で高い傾向のある種が6種であった。出現頻度が1997年柵で高い傾向のある6種のうちの3種は、シカの採食圧の低かった時代において調査地にまんべんなく分布していた可能性があった。そのため12種のうち9種は両方の柵で潜在的な分布は同じだったと考えられた。これら9種において個体数を比較したところ、4種は1997年柵で個体数が有意に多かった。これらの種は、シカの採食圧を長く受けた後に柵を設置しても回復しにくいことを示している。一方で、9種のうちの5種は、両方の柵で個体数に有意差はなかった。このことは、これら5種が林床植生退行後の柵の設置までに要した10年ないし16年程度のシカの採食圧では出現に影響しないことを示唆している。ただし、このうちの1種は成熟個体数の比率が2003年柵で低かった。以上のことから、柵の設置が遅れると回復しにくい種があることが明らかになった。したがって、それらの生育地では退行後、遅くとも10年以内に柵を設置することが望ましいと結論した。