著者
荒井 良雄
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.3-16, 2005-03-30
被引用文献数
1

本稿では,近年,日本で指摘されている社会階層の二極化と,それがもたらす消費および流通の二極化の関係を論じる.戦後日本の流通産業をリードしてきたスーパーチェーンは,高度経済成長期に進行した所得上昇と平準化を背景に急成長を遂げた.彼らは「大衆層」に絞り込んだマーケティング政策をとることによって高効率な営業をめざしたが,現実の所得格差を越えて「中流意識」が広がったために,大多数の消費者が彼らの顧客ターゲット層に取り込まれた.その結果,スーパー企業は急拡大し,日本全国に店舗網を展開する巨大チェーンが出現した.ところが,1990年代後半以降の不況の中で,所得格差が広がり,社会階層の二極化か進む兆候が見られる.特に,現実の所得格差以上に意識上の格差感が広がっており,これまで,きわめて均質な消費マーケットの基礎となっていた「中流意識」が崩壊しようとしている.そのため,消費者も高品質にこだわる層と低価格を求める層に分極化する傾向にある.そうした消費の二極化に対応して,高級スーパーに象徴されるような「高品質=付加価値追求」業態と,スーパーセンターに代表されるような「低価格=ボリューム追求」業態といった流通の二極化が進むと考えられる.こうした事態を受けて,これまで日本の流通チャネルの中で圧倒的な地位を占めてきた大手スーパーチェーンも,自らを変革する必要に迫られている.

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