著者
進藤 貴子
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.29-44, 2010

高齢者心理学の発展,とりわけ1980年代以降のそれは,衰退し排除される対象としての高齢者観から,成長と自己実現の可能性をはらんだ高齢者観へのパラダイムシフトを後押しした.あわせて高齢者心理学は,対象者主体の高齢者福祉を営んでいく上で欠かせない知識である.高齢者心理学の基礎的研究は,(1)知能の加齢変化の様相,高齢者の知恵の特徴,加齢とともに適応性を増す人格変化の示唆など,加齢の発展・超越的側面,さらに,(2)感覚機能・身体機能・記憶機能の衰退と補償など,加齢に伴う喪失的側面,そして,(3)「エイジレス」な自己意識にみられる不変的側面と,加齢の3つの側面を浮き彫りにしている.こうした研究成果を現場に生かす高齢者臨床心理学の実践は,まだ十分に普及しているとは言いがたい.その背景には,臨床家の高齢者への偏見,専門的な心理ケアが制度上の位置づけをもたないこと,専門職の役割を分離しにくい高齢者領域の特異性などがある.それでも心理士の専門性には期待がもたれており,高齢者領域に特化した知識・技術,生老病死に向きあう姿勢,個を尊重しながらの集団へのかかわり,高齢者との世代を超えたつながりへの理解,認知症者への共感的な姿勢を備えての高齢者福祉領域への参入がのぞまれる.

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