- 著者
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阿江 茂
- 出版者
- 日本鱗翅学会
- 雑誌
- 蝶と蛾 (ISSN:00240974)
- 巻号頁・発行日
- vol.12, no.4, pp.65-89, 1962
- 被引用文献数
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(1)筆者は1957年から生物の種間の本質的な差を調査して,その分化の過程を研究するために,日本及び北米産のアゲハチョウ属を用いて,種間交配を行ってその受精率,ふ化率,羽化率,種間雑種の生殖能力等より種間の近縁度を調ペ,又種の差を形成している形質の遺伝様式を研究している.1957年度はロッキー山生物学研究所において,それ以後は南山大学において研究を続けているが,この研究の完成には長年月を要するので,中間報告としてこれまでの研究結果を要約した.(2)交配はhand pairing法により,採卵には螢光照明を用い,幼虫飼育には普通の飼育箱を利用した.(3)クロキアゲハ×ロッキーキアゲハ,キアゲハ×ロッキーキアゲハ,クロキアゲハ×キアゲハの3種の交配は種内交配と殆んど同程度の受精率,ふ化率等を有している.(4)1対のクロキアゲハ♀×ロッキーキアゲハ♂より78♂♂と1〓を得,2対のロッキーキアゲハ♀×クロキアゲハ♂から10♂♂と20♀♀を得た.成虫は殆んどクロキアゲハと同様で,♂♀共に生殖可能であった.(5)キアゲハ×ロッキーキアゲハの3対の交配から3♀♀2♂♂を得た.成虫は大体両親の中間となった.(6)クロキアゲハ×キアゲハの1対の交配から6♂♂3♀♀1〓を得たが,成虫は後翅眼状紋が両親の中間である以外は,ほぼクロキアゲハと同様であった.(7)アゲハ×キアゲハ,アゲハ×クロキアゲハ,アゲハ×ロッキーキアゲハの3種の交配では大部分の卵が受精し,過半数に近くふ化したが,得られた成虫はすべて小形で♂のみであった.(8)上記の3交配より得られた成虫数及び外見は夫々,11対より29頭(両親の中間)3対より10頭(クロキアゲハに似る),1対より5頭(両親の中間)であった.食草は主にセリを用い,第1第2の交配ではカラタチも用いた.幼虫,蛹は夫々大体両親の中間となった.(9)アゲハ×クロアゲハ,モンキアゲハ,オオガアゲハ,ナガサキアゲハの4種の交配は夫々数対又はそれ以上より卵を得た.受精率,ふ化率等は一般に非常に低く,最良の結果を得たアゲハ×オナガアゲハの交配でも,3令幼虫の終期に達したのみであった.(10)アゲハ×カラスアゲハ,ミヤマカラスアゲハの交配の受精率,ふ化率等も非常に低く夫々1令幼虫,2令幼虫で死亡した.(11)アゲハ×メスグロオオトラフアゲハの1対の交配の受精率は高かったが,ふ化したのは1頭のみで蛹期で死亡した.幼虫,蛹は小形である他はメスグロオオトラフアゲハと同様で,食草にはユリノキを用いた.(12)モソキアゲハ×クロアゲハ,シロオビアゲハ×クロアゲハ,シロオビアゲハ×モンキアゲハの3種の交配では,大部分の卵が受精し過半数がふ化したが,得られた成虫はやや小形ですペて♂であった.(13)上記の3交配より得られた成虫数及び外見は夫々,5対より1 頭(両親の中間),1対より4頭(両親の中間),1対より18頭(シロオビアゲハに似る)であった.幼虫,蛹も大体両親の中間であって,食草は主としてナツミカンを用いた.(14)ナガサキアゲハ×モンキアゲハ,ナガサキアゲハ×オナガアゲハ,オナガアゲハ×クロアゲハの夫々1対の交配は,夫々蛹期(2頭)蛹期(1頭)5令幼虫期(1頭)に達した.(15)カラスアゲハとミヤマカラスアゲハの1対の交配からほぼ両親の中間となった2♂♂を得た.幼虫の食草にはイヌザンショウを用いた.(16)カラスアゲハ×クスノキアゲハの交配で2個の受精卵を確認したがふ化しなかった.(17)カラスアゲハ×モンキアゲハの健全な5対の交配から得た189卵のいずれからも発生開始を認め得なかった.(18)キアゲハ,クロキアゲハ,ロッキーキアゲハは互に非常に近縁と考えられるが,ロッキーキアゲハの1化性が雑種において複雑な遺伝様式を示すものと思われ,顕著な逆交配の差を生じた.(19)アゲハは上記の3種に対して非常に近縁ではなく,種間交配の点からアゲハをキアゲハ群の典形的な一員とすることは出来ない.(20)アゲハと"ク口アゲハ群"は幼虫の色彩が類似しているが,その関係はアゲハとキアゲハ群の間の関係よりはるかにはなれている.