著者
〓 良燮 駒井 古実
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.115-141, 1991

Lobesia属はハマキガ科Tortricidae,ヒメハマキガ亜科Olethreutinaeに属し,外見が非常に類似した小型の種からなるグループで,現在まで主として全北区,東洋区,オーストラリア区から100種以上が記載されている.日本からはこれまで5種-botrana([DENIS & SCHIFFERMULLER]),reliquana HUBENER, aeolopa MEYRICK, mieae KAWABE, coccophaga FALKOVITSH-が記録されている.今回,日本産Lobesia属約600個体について詳細な比較検討をおこなった結果,従来知られていた種(日本からの記録には疑問があるbotranaを除く4種)以外に,1新記録種(bicinctana DUPONCHEL),3新種(arguta sp. nov., virulenta sp. nov., yasudai sp. nov.)を認め,これら日本産8種を2亜属に分類した.本論文では属および日本産亜属を定義し,種について詳細に記載した.[属の特徴]Lobesia属は次の4つの固有新形質によって特徴づけられる. 1)前翅前縁部には縁紋(pterostigma)がある. 2)第2腹節腹板にある鱗片が密生した一対の袋状構造および後脚のtibia基部からでる毛束の組合せからなる発香器官がある. 3)雄交尾器のpedunculusは前縁部に先端が尖った突起物をもつ. 4)雌交尾器のsterigmaは第7腹節の腹板下の膜状嚢の中に存在する.[亜属の特徴]日本産亜属は次の固有新形質によって特徴づけられる.Lobesia亜属 1)雌の第7腹節腹板の後縁部は硬化した構造物(limen)をもつ.Neolobesia亜属(新亜属) 1)前翅はchordaを欠く. 2)Cucullusの剛毛は背縁部にのみ生じる. 3)Aedeagusの背面に一対の突起を生じる.[日本産Lobesia属]Lobesia亜属 1. L. reliquana (HUBNER)ホソバヒメハマキ 以下の4種とよく似ているので,正確な同定のためには雌雄交尾器を検鏡する必要がある.本種の雄は後翅が白色半透明(他種は淡灰褐色)であることで他種から区別できる.分布:日本(北海道,本州,四国);ユーラシア大陸に広く分布する,寄主植物:日本では不明.ヨーロッパではま広葉樹やキク科草本植物が記録されている. 2. L. arguta BAE et KOMAI(新種) トドマツチビヒメハマキ(改称) 前種および次の3種と類似するが,黄褐色の斑紋が明瞭に現れ,基斑が二分されることにより他種から区別できる.本種の雄は類似種中で後翅が半透明でない唯一の種である.分布:日本(北海道,本州).寄主植物:モミ属,トウヒ属,ツガ属. 3. L. virulenta BAE et KOMAI(新種) 次種と外部表徴では区別できない.雄交尾器のaedeagusおよび雌交尾器のsterigmaの形状がわずかに違う.分布:日本(北海道,本州,四国).寄主植物:カラマツ,ナシのほかエゴノネコアシアブラムシのゴールも食する. 4. L. yasudai BAE et KOMAI(新種) 前種と外部表徴では区別できない.分布:日本(北海道,本州).寄主植物:ノリウツギ,ハマナス,シュウリザクラ. 5. L. aeolopa MEYRICK ホソバチビヒメハマキ 前4種と類似するが,本種の前翅は他種に比べてやや暗い.ただし,この特徴は個体変異があり,より明るい個体も出現する.分布:日本(北海道,本州,九州,琉球);南アジアに広く分布する.寄主植物:アキニレ,ビワ,ソメイヨシノ,ブドウ,チャ,カキなど. 6. L. mieae KAWABE ミエヒメハマキ 黄榿色の中帯をもつことで他種から区別できる.分布:日本(本州).寄主植物:オモト. 7. L. bicinctana (DUPONCHEL)(日本新記録種) 外側に向かって角をなす暗褐色の基斑と内側で淡黄土色の帯(地色)と融合する黄土色の中帯が本種の特徴である.分布:日本(北海道,本州);ユーラシア大陸に広く分布する.寄主植物:ヨーロッパではネギ属が記録されている. Neolobesia亜属 8. L. coccophaga FALKOVITSH スイカズラホソバヒメハマキ L. reliquanaとその近縁種と斑紋がやや類似するが,本種の頭部は暗黄褐色である.分布:日本(本州,四国,九州)韓国,沿海州.寄主植物:スイカズラ.

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