著者
黒川 伊織
出版者
同志社大学
雑誌
社会科学 (ISSN:04196759)
巻号頁・発行日
vol.89, pp.133-158, 2010-11

「第一次共産党」とは,1992年7月に創立され,1924年春に解党したとされる日本共産党を指す呼称として使用されている。しかしながら,この呼称の含意は,この呼称が成立する歴史的な経緯とあわせて,いまだ十分に検討されていないままである。 そこで本稿では,徳田球一の予審訊問(1930年)に端を発する「第一次共産党」という「記憶」が流布してゆく過程を,日本共産党公判闘争(1931年-1932年)に即して跡づけたうえで,敗戦後はじめて合法化された日本共産党が,「第一次共産党」以来の連続性を誇示するべく行った「党創立記念日」確定の過程と,これに連動した「党史」成立の過程を,「記憶」の再構築という視点から整理する。そして,日本共産党第6回全国協議会(1955年)を契機とした党内言論の開放空間の成立と,そこにおいてわきあがった「党史」再検討の動きが開放空間の閉塞化によって途絶する経緯を,「記憶」の神話化という視点から整理する。そのうえで,学問的な「第一次共産党」史という研究領域の成立過程を,党内における「記憶」の神話化が進められる過程との連動に注目しつつ跡づけ,この両者の関係がのちの「第一次共産党」史研究に決定的影響をおよぼしたことを明らかにする。

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