著者
上 真一
出版者
日本海洋学会
雑誌
沿岸海洋研究 (ISSN:13422758)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.137-142, 2006-02-28
被引用文献数
1

瀬戸内海の東側出入り口に相当する紀伊水道の生態系の経年変動を,徳島県水産試験場が1987-1999年の12年間に亘って行った海洋環境調査と動物プランクトン主要分類群の出現密度結果などに基づいて解析した.紀伊水道の水温や栄養塩濃度は数年周期で変動し,1995年以降,水温は上昇傾向,栄養塩濃度は低下傾向にあった.このような変動パターンを引き起こす要因として,紀伊水道への底層貫入の強弱が関与していることが明らかとなった.即ち,底層貫入が強力な年は,1)平均水温が低く,2)栄養塩濃度が高く,3)透明度が低く(即ち,植物プランクトン現存量が高く),4)植食性カラヌス目カイアシ類(特に大型カイアシ類のCalanus sinicus)の出現密度が高かった.底層貫入が強い年は,黒潮流軸は紀伊水道から離れた沖合に位置していた.一方,1995年以降,黒潮は接岸傾向にあり,底層貫入は弱体化し,紀伊水道は次第に貧栄養の外洋的な生態系に変化しつつあると考えられた.漁獲量も近年は顕著な低下傾向にあった.底層貫入水は大阪湾や播磨灘などの瀬戸内海内部海域にも及ぶので,外洋起源の栄養塩は瀬戸内海内部の生物生産過程にも影響すると考えられる.

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