著者
中尾 友紀
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.32-45, 2008-05-31

本論文の目的は,1941(昭和16)年に公布された労働者年金保険法に結実した老齢・廃疾・死亡に対する保険,すなわち「長期保険」に関する議論を,それが開始された1880年代にさかのぼって把握し,同法をその歴史的系譜に位置づけて再評価することから,同法に意図された社会保険としての本来的な意味を検討することにある.本論文では,同法以外に政府管掌の「長期保険」として同法立法以前に逓信省で立法された任意保険である簡易生命保険法および郵便年金法を取り上げ,特に適用範囲の制限方法および国庫負担に関する官僚らの議論に着目した.それらを分析した結果,戦前期日本の「長期保険」構想は階層別にあったこと,官僚らは社会保険としての「長期保険」について,あくまで「少額所得者」のみを適用範囲に検討したこと,そのうえで,労働者年金保険法に「少額所得者」である工場労働者を保護するための防貧政策としての性格を強く内包したことが明らかとなった.

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