著者
中尾 友紀
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.12-22, 2005-03-31 (Released:2018-07-20)

本稿では,一般労働者を対象とした日本で最初の公的年金保険である労働者年金保険について,とくにその立案意図のひとつとされる労働移動防止の妥当性を検討し,それをとおしてこの年金の立案意図を改めて考察している.労働移動防止が立案意図に挙げられたのは,起草直前に行われた労務管理調査委員会答申にそうした内容が含まれていたと解釈されたからであり,実際にこの年金に労働移動防止の規定が設けられていたからでもあった.しかし,史料によれば,同委員会答申で提案された年金の目的は,将来に対する不安を除去し,労働者に当面の忍びがたい生活を受容させることであり,とくに鉱山労働者の精神作興を図ることであった.また,労働移動防止の規定は,それが規定された経緯から,この年金の重要性をますます高めようと,立案の最終段階になって急に付け加えられたことが明らかである.すなわち,この年金にとって労働移動防止は立案の本来的な意図ではなかったといえる.
著者
中尾 友紀
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.32-45, 2008-05-31

本論文の目的は,1941(昭和16)年に公布された労働者年金保険法に結実した老齢・廃疾・死亡に対する保険,すなわち「長期保険」に関する議論を,それが開始された1880年代にさかのぼって把握し,同法をその歴史的系譜に位置づけて再評価することから,同法に意図された社会保険としての本来的な意味を検討することにある.本論文では,同法以外に政府管掌の「長期保険」として同法立法以前に逓信省で立法された任意保険である簡易生命保険法および郵便年金法を取り上げ,特に適用範囲の制限方法および国庫負担に関する官僚らの議論に着目した.それらを分析した結果,戦前期日本の「長期保険」構想は階層別にあったこと,官僚らは社会保険としての「長期保険」について,あくまで「少額所得者」のみを適用範囲に検討したこと,そのうえで,労働者年金保険法に「少額所得者」である工場労働者を保護するための防貧政策としての性格を強く内包したことが明らかとなった.
著者
原田 勇希 中尾 友紀 鈴木 達也 草場 実
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.409-424, 2019-11-29 (Released:2019-12-20)
参考文献数
27
被引用文献数
5

本研究は,中学生の観察・実験に対する興味の構造を明らかにすることと,興味と学習方略との関連性について検討することを目的とした。確証的因子分析の結果,興味の構造として階層因子モデルが採択された。すなわち,観察・実験に対する興味は,“ポジティブな感情”の程度と,“観察・実験に対する価値の認知”の直交する2つの次元から捉えられることが示されたといえる。また,ポジティブな感情の程度と“思考活性志向”には観察・実験における深い学習方略(関連付け方略など)の使用を促進する効果が見出された。一方,“体験志向”は深い学習方略の使用を抑制する効果が見出された。さらに,本尺度の因子構造を反映した尺度得点の算出方法が検証され,分析用プログラムが作成された。
著者
中尾 友紀
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.141-152, 2016

本稿の目的は,労働者年金保険法案の第76回帝国議会への提出そのものを当時の社会情勢や,それを受けた議会や政府の動きのなかに位置づけて把握することで状況を描き出し,同法案提出の経緯を明らかにすることである。その際に用いたのは新聞記事,帝国議会議事録,国立公文書館所蔵の行政文書等の一次資料である。その結果,次の3つが明らかとなった。第1に議会を短縮するために,政府は同法案を一旦提出未定としていた。つまり,同法案の提出は,政府全体から戦時体制強化のために要請されたのではなかった。第2に,提出には大蔵省,財界,軍部,商工大臣等の閣僚が反対していた。しかし,保険料負担の過重に反対した財界を除き,軍部や閣僚の反対は速やかに議事運営できなくなるからであり,同法案そのものへの反対ではなかった。第3に,同法案の提出は,閣僚らの反対で閣議を通らなかったにもかかわらず,なお諦めない厚生省によって遂行されていた。
著者
中尾 友紀
出版者
椙山女学園大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

日本の社会保険は議論が開始された1880年代から、特に公的年金には巨額の国庫負担の必要が認識されていた。保険という形式だったが、公的年金はあくまで労働者あるいは「少額所得者」を救済する防貧政策だったからである。このような理念で1941年に創設された労働者年金保険は被保険者の適用範囲を「少額所得者」に制限し、その上で保険給付に要する費用にも国庫負担を規定した。したがって、国庫負担は「少額所得者」の救済を意図したものだったと考えられる。
著者
三本松 政之 朝倉 美江 原 史子 大井 智香子 中尾 友紀 新田 さやか 福山 清蔵 永田 理香 門 美由紀
出版者
立教大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009-04-01

日本の外国人移住生活者への政策は総論的な検討に止まり具体的対応は基礎自治体に委ねられており、移住生活者の支援にはデニズンシップとしての実質化という視点が重要となる。韓国では人権をミッションとする市民団体が外国人労働者の労働環境改善、移住女性の生活改善策提案などのための政策担当局との折衝ルート等を活用し、政府への政策形成やデニズンシップの実質化に向けて一定の影響力をもっていることが見い出せた。