著者
川島 ゆり子
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.26-37, 2015-08-31

本研究は,生活困窮者自立支援に関わる支援ネットワークのあり方について検討を行う.生活困窮者は単に経済的な困窮にとどまらず,多様な社会的排除の状況にあり,その支援には多様な専門機関がネットワークを構築して関わる必要性が生じる.実証研究では調査対象である精神疾患を持つ母子家庭の生活状況の厳しさが明らかになった.支援の狭間に漏れ落ち,先行きが見えないまま苦しむ姿が浮き彫りになり,多くのケースは就労していないにもかかわらず,生活保護受給にも至っていなかった.複合問題を抱える当事者に対してはネットワークによる一体的な支援が求められるが,検証の結果,生活困窮者支援において二つのネットワーク分節化の課題があることが示された.一つは時間による分節化であり,もう一つは専門分野による分節化である.生活困窮当事者の生活保障を継続的に実現するためには,生活困窮者支援に携わるコミュニティソーシャルワーカーに対してネットワークのコーディネート機能を発揮する権限を制度として確立する必要がある.
著者
伊藤 嘉余子
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.82-95, 2010-02-28

本研究の目的は,児童養護施設入所児童を対象に行った,施設生活に関するインタビューの結果から,子どもたちが児童養護施設や職員に求めている生活の質,支援,役割について明らかにすることである.C児童養護施設(A県B市)の入所児童10人を対象に1対1の半構造化面接によってインタビューを行い,データを分析した.その結果,多くの子どもが,実家庭とは異質な施設生活に満足や喜びを感じており,物的環境の充実が子どもに与える影響の大きさが明らかになった.しかし,その一方で,施設生活の質の高さに満足すると同時に,多くの子どもが「できれば実家に帰りたい」という葛藤を持ち続けている実態も明らかとなった.また,子どもの感じる施設生活への満足度の高低には,子ども自身が施設内の人間関係をどうとらえているかが影響していることが明らかとなり,人間関係構築やコミュニケーションにおける職員の資質や力量が重要となることが分かった.さらに,多くの子どもが施設入所前/入所時の不安について語っており,アドミッション・ケアの充実の必要性が示唆された.
著者
山田 壮志郎
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.67-78, 2012-05-31

近年,一部の無料低額宿泊所が,ホームレスを対象とした貧困ビジネスであるとして社会問題化している.本稿の目的は,2010年に厚生労働省が行った調査の個票データを分析することを通じて無料低額宿泊所の現状を明らかにすることである.特に本稿では,無料低額宿泊所の特質である利用料の低廉性と居住の一時性について検討した.その結果,第1に,無料低額宿泊所の宿泊料は近隣の一般住宅の家賃と同程度以上であるが,居室の水準は一般住宅と同程度以上とはいいがたいことが分かった.また第2に,入所期間が1年以上の長期に及んでいる入所者が6割近くに上っており,その背景には入所者の生活保護費に関する地方負担の仕組みが一般住宅への転居を阻害していることがあると推測された.問題解決のためには,ホームレスに対する生活保護行政が無料低額宿泊所に依存することなく運用できる環境を整備することが必要である.
著者
大谷 京子
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.31-43, 2010-11-30

日本の精神保健福祉領域におけるソーシャルワーカーとクライエントとの関係性の構成要素を明らかにし,またその関係性に影響を与える要素を検証することを目的に,日本精神保健福祉士協会会員5,595人を対象に質問紙調査を実施した.因子分析の結果,「関係性」については,5因子からなる指標を開発した.また,先行研究から「関係性」に影響を与える要因として抽出した,ソーシャルワーカーが自らの役割をいかに規定するかという「自己規定」と,クライエントをどのようにとらえるかという「対象者観」についても,それぞれ4因子からなる指標を開発した.すべての因子について項目反応理論を用いて被験者母数を算出し,回帰分析を行った結果,「自己規定」と「対象者観」が「関係性」を予測すること,また他方で両者は「関係性」から影響を受けていることが明らかになった.これらの結果から,精神保健福祉領域のソーシャルワークへの提言を試みた.
著者
稲沢 公一
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.129-146, 1993-06-15

The system theories, which have been established on the model of the organization or the machine, have not been worried about problems of system's boundaries, because the organization and the machine have material boundaries. On the contrary, the society does not have any visual boundary. So, if we want to grasp the society as a system, we cannot adopt the theories which assume easily the whole of the system. Based upon the social system theory of Niklas Luhmann, this paper describe the society fundamentally as follows. (1) It is a system with the boundary ofmeanings by which we can reduce the complexity of the world. (2) It's inner components are not individuals but actions as meaningful behaviors. Individuals take part in the social system as the subjects of social actions. But they also are outer environments, because they can deviate from the social system at all times. It shows the arbitrariness of the code of meanings. So the social system has to govern individuals by sanctions. The groundlessness of the code certainly make the ultimate form of the sanction a violent exclusion which causes every discrimination. Therefore, it is necessary for the philosophical study on social work to formulate a mechanism of changing the code to resist the discrimination.
著者
高良 麻子
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.42-54, 2013-02-28

現代日本の社会変動やそれに伴う政策・制度機能不全を背景として,変容・拡大する生活問題を体験している人々に対しては,構造的変化を見据えた支援が必要だと考えられる.そこで本研究では,社会福祉士によるソーシャル・アクションの認識および実践実態を把握することを目的に,日本社会福祉士会会員に対する質問紙調査を実施した.その結果,(1)回収率から関心の低さが推測されること,(2)構造的変化を含めたソーシャル・アクションの認識が記述者の半数であったこと,(3)そのうちの実践者は調査対象者の24%(148)であったこと等から,本来のソーシャル・アクションを実践できている社会福祉士は一部であることが明らかになった.また,重要性を認識しながらも,実際の行動に移せない状況がみられた.このような状況に対応するためには,(1)問題および法制度課題の認識,(2)実践環境の整備,(3)ソーシャル・アクション方法の体系化が必要だと考えられた.
著者
橋本 卓也 岡田 進一 白澤 政和
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.105-117, 2008-02-29

障害者の生活史を通してセルフ・エンパワメントの生成要因を分析している研究は少ない.この論文では,自立生活を送る(計画している障害者1人を含む)6人の重度障害者の生活史に焦点をあてた質的研究に基づき,彼らのポジテイヴな心理的変容と内的成長の視点からセルフ・エンパワメントの生成要因について分析を行った.その結果,(1)価値の転換,(2)感情の共有,(3)自尊感情の醸成,(4)問題解決能力の獲得,(5)自己の障害と向き合う力の獲得,(6)物事の遂行能力に関する自信,(7)物事を相対的にとらえる力が析出された.また,これらの要因は,環境との相互作用を通して獲得されたセルフ・エンパワメントの個人的・心理的生成要因であり,社会的・政治的パワーを獲得していく促進要因でもあることが明らかになった.重度障害者
著者
桜井 啓太 中村 又一
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.70-82, 2011-05-31

2005年度より全国の福祉事務所で「生活保護自立支援プログラム」が策定され,生活保護受給者に対する就労支援などの自立支援プログラムが実施されている.被保護世帯の「自立支援」が注目される反面,自立した被保護世帯の具体的な所得水準や生活状況については十分に研究がなされていない.筆者は大阪府内P市で2006〜2008年度に就労によって生活保護が廃止となった世帯(就労自立世帯)を対象に,廃止時の所得水準・雇用形態について調査を行った.本稿ではその調査結果を基に「国民生活基礎調査」「就業構造基本調査」との比較分析を行った.その結果,(1)低所得と非正規雇用によってワーキングプア化する生活保護「自立」者の存在と(2)自立後も乏しい他の社会保障給付に頼らざるを得ない世帯の現状という2点が明らかになった.
著者
中村 剛
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.3-16, 2008-08-31

「仕方ない」とみなされていることが,実は不正義なのではないか.このような問題意識の下,本稿では,「仕方ない」と思われ見放されている人がいる現実と,すべての"ひとり"の福祉を保障しようとする理念とのギャップを埋めるために要請されるものとして社会福祉における正義をとらえ,その内容を明らかにしている.最初に,正義の概念と社会福祉の理念を確認したうえで,社会福祉研究において正義を論じる理由を確認する.次に「仕方ない」という現実了解に抗するために,他の可能性へと思考を開こうとするデリダの哲学と,不正義の経験という観点から正義論を展開するシュクラーの正義論を取り上げる.そして,この2つの観点から導かれる倫理的正義と政治的正義を提示する・結論として,社会福祉における正義を倫理的正義と政治的正義から構成される倫理的政治的正義と位置づけ,その内容を(1)意味,(2)構想,(3)合意される理由という観点から記述している.
著者
舟木 紳介
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.55-65, 2007-11-30
被引用文献数
2 2

近年国際的に注目されるようになったオーストラリアのソーシャルワーク研究者たちは,普遍的原理としての社会正義概念を基盤としながら,ポストモダニズム思想を導入し,クリティカル・ソーシャルワークとして発展させてきた・しかし,普遍的な概念を基盤とする社会正義概念とそのようなメタ概念を相対化しようとするポストモダニズムといった2つの相反する価値をひとつのソーシャルワーク理論の価値基盤として統合することが可能なのかという困難な理論的課題があった.本稿は,オーストラリアのソーシャルワーク研究者がクリティカル・ソーシャルワーク理論をどのような経緯をもって導入し,発展させてきたか,その理論的変遷を描くことを試みた.社会正義を基盤とするクリティカル・ソーシャルワーク理論がポストモダニズムの影響を受けて,その相反する価値の統合・共存の一方法として,ソーシャルワークの主体に対して反本質主義の視座を採用したことを論じた.
著者
野津 牧
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.65-76, 2003-11-30

不適切な養育環境は,子どもの発達に著しい影響を及ぼす.本事例は,不適切な養育環境で育った男児・Aが児童養護施設に保護されてからの2年間の実践記録である.彼の育った環境は,ネグレクトともいえる養育環境であった.彼の両親は,出生届けを出さなかった.そのため彼は戸籍もなかった.保護されるまでの養育環境は,アパートの一室からほとんど出されることもなかった.保護されたときはよちよち歩きでことばもほとんどなかった.保護時点での発達検査では,Aの発達指数は40であり,中度の「知的障害児」と診断された.集団生活に移ったAは,半年後の発達指数が65,2年後の発達指数は77と急速な伸びをみせ,「知的障害」と診断された原因が養育環境からくるものであることを示した.本小論は,Aの2年間の成長過程を発達検査の結果を中心に紹介するとともに,不適切な養育環境に育った子どもの援助として,発達段階を考慮した援助方針の策定と子ども集団のかかわりが重要であることを示した.
著者
中尾 友紀
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.32-45, 2008-05-31

本論文の目的は,1941(昭和16)年に公布された労働者年金保険法に結実した老齢・廃疾・死亡に対する保険,すなわち「長期保険」に関する議論を,それが開始された1880年代にさかのぼって把握し,同法をその歴史的系譜に位置づけて再評価することから,同法に意図された社会保険としての本来的な意味を検討することにある.本論文では,同法以外に政府管掌の「長期保険」として同法立法以前に逓信省で立法された任意保険である簡易生命保険法および郵便年金法を取り上げ,特に適用範囲の制限方法および国庫負担に関する官僚らの議論に着目した.それらを分析した結果,戦前期日本の「長期保険」構想は階層別にあったこと,官僚らは社会保険としての「長期保険」について,あくまで「少額所得者」のみを適用範囲に検討したこと,そのうえで,労働者年金保険法に「少額所得者」である工場労働者を保護するための防貧政策としての性格を強く内包したことが明らかとなった.
著者
田中 耕一郎
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.30-42, 2010-08-31

本研究では,<重度知的障害者>を包摂する連帯規範の内容と深く関わる承認をめぐる問題について考察する.<重度知的障害者>をいかに承認しうるかという問いは,連帯規範の人間概念に<重度知的障害者>をどのように包摂しうるのか,という問いと同義であるが,現代の福祉国家を哲学的次元において基礎づけてきたリベラリズムの正義では,人間概念の核に自律性をおくがゆえに,そもそも<自律性なき者>(と評価された者)の存在は,その理論的射程に含まれてこなかった.本研究では,まず,リベラリズムの人間概念に異議を唱えたいくつかの倫理的思考を検討しながら,<重度知的障害者>の承認問題におけるそれらの可能性を考察する.次に,<重度知的障害者>も含め,あらゆる人間存在を包摂し,かつ,万人が自明と認めうる普遍的な人間的属性としてvulnerabilityを提起しつつ,この人間的属性から連帯規範を立ち上げることの可能性について考えていきたい.
著者
空閑 浩人
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.44-54, 2001-08-31

今日,社会福祉施設における利用者への虐待の問題が表面化・深刻化している。本稿では,その要因の1つとして施設内における職員組織や集団のあり方に着目する。まず,施設における援助者は職員組織や集団の一員として働くことになるが,そのことにより周囲からのさまざまな影響(状況の圧力)が,結果的に援助者を専門職倫理に反する行為に至らしめるといった社会心理的な要因を「服従」「同調」「内面化」という現象を通じて明らかにする。次に,そのような状況の圧力に屈してしまう援助者の「弱さ」に着目して,その克服に向けての考察を行う。援助者には,いかなる状況であっても,専門職倫理や価値に基づき,利用者の人権と生活を護るという職業的責任を果たす「強さ」が求められる。そのような「強さ」は自らの「弱さ」を認め,それに向き合うことによってこそ得られると考える。
著者
妻鹿 ふみ子
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.3-15, 2010-02-28

本稿は,福祉国家が新たな危機に直面しているとの認識の下,その危機への対応には社会的連帯を再編することが欠かせないことを議論するものである.すなわち,社会的連帯を基盤とした社会保障制度を核として脱近代化=脱工業化がもたらした社会の問題に対応してきたのが20世紀型福祉国家であったが,社会的連帯が著しく後退した今日,福祉国家の基盤が揺らいでおり,福祉国家は家族,地域,企業という社会システムが変容するなかでもたらされた新しい社会的リスクに対応できないでいる.したがって福祉国家の再編にはその思想的基盤としての社会的連帯の再編が不可避である.その際,人称の連帯の再編のあり方を探ることが求められるが,一方で非人称の連帯としての社会保障制度の後退を見過ごさないことも重要である.人称の連帯の再編にあたっては,親密圏の再編の構想を枠組みとして用いながら,支え合いのシステムの可能性を探ることが実際的である.
著者
蜂谷 俊隆
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.42-54, 2010-02-28

糸賀一雄の思想については,1946年の近江学園設立以前にその準備期間があるとされ,先行研究では宗教哲学の専攻や,教員時代に私淑した哲学者の木村素衛の影響が言及されている.しかし,糸賀の思想には木村以外の人物からの影響も少なくなく,糸賀の思想の全体像はまだ解明されているとはいえない.本論文では,糸賀が1941年に滋賀県庁に赴任した直後から戦後にかけて下村湖人と親交があり,下村の展開していた「煙仲間」運動に関与していることに着目した.そして,戦前に糸賀と下村が出会って,1954年に下村が逝去するまでの両者の具体的な交わりを明らかにするとともに,糸賀の「一隅を照らす」姿勢や「同心円」概念には下村の思想や「煙仲間」運動の運動方針,さらにその前身である壮年団の運動方針との関連がみられるという結論に至った.これは,糸賀の思想をとらえ直す際に重要な視点になると考えられる.
著者
相馬 直子
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.35-45, 2004-11-30

「子育ての社会化」とは,家庭での子育てが「外部化」「共同化」されつつ,「社会化」をになう場で再<社会化>される3つの面を有する.本稿は,東京都世田谷区の「保育ママ制度」の分析と保育者へのインタビューを基に,再<社会化>の様相とその帰結を検討した.政策上は「母親」を経験した者のみが従事できる位置づけとともに,「事業主としての仕事」との新たな位置づけもなされてきた.保育者も,「子育ての先輩」「母親代わり」と自分を位置づけつつ,「ボランティアではない」「専門性をもつべき」との認識も発見された.このようにして政策上・保育者の認識上とも「揺れ」ているなか,「保育ママ制度」が子どもや親の育ちに必要な「保育資源」であるとの視点から,その専門性やジェンダー中立的な労働条件・資格要件の見直しが求められる.さもなければ,「地域で・女性が・子どもを育てる」構造(ジェンダー化)の再編の進行が続いていくであろう.
著者
口村 淳
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 = Japanese journal of social welfare (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.94-105, 2014-11

本研究では,要介護高齢者からみたショートステイの意義と課題について検討する目的で,利用者の手記を調査データに用い,質的な分析を行った.その結果,28個のカテゴリ,9個の上位カテゴリを生成することができた.手記の分析を通して,リロケーションダメージが生じる可能性,サービス評価(満足度)を高めるための要因,職員の支援を受ける利用者の内面の動きについて検討することができた.検討の結果を受け,(1)帰宅後のアフターケアの必要性,(2)利用者との信頼関係構築の必要性,(3)利用者のストレングスを評価する必要性といった,ソーシャルワークのニーズや課題が存在することがわかった.
著者
滝口 涼子 伊藤 冨士江
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.55-68, 2010-02-28

わが国では犯罪被害者施策が急速に進んでいるが,その背景には特に犯罪被害者遺族を中心とした被害者運動があった.しかし被害者遺族に関する調査研究の動向をみると,被害者運動やソーシャルアクションに焦点をあてた研究は少ない.本研究では,被害者遺族の体験,特に被害者運動への関わりを取り上げ,事件後,遺族としてどのようなことを経験し,いかに被害者運動に関わり,なにを得たのかを分析することを目的とした.被害者当事者団体(「被害者の会」)の会員である遺族11人にインタビューを行い,「被害者の会」での運動参加・継続過程に関するナラティブを質的に分析した.この結果,「事件にまつわる思い」と,「遺族が運動に参加し始め,活動を続けていく過程」の2つのカテゴリーが見いだされた.さらに,エンパワメント・アプローチの視点から,パワーの欠如状態,エンパワメントの構成要素,パワーの生起するレベルの3点に関して考察を加えた.
著者
口村 淳
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.148-160, 2010-02-28

本研究の目的は,高齢者ショートステイにおける生活相談員の業務を明らかにし,その特徴について検討することである.特養併設型ショートステイを利用した167人の既存臨床情報(16種類)から,「相談員が関与した業務」を抜粋した.Krippendorff,K.の内容分析の手法により分析した結果,業務内容について22個のカテゴリ,さらに「予約および入退所に関する業務」「円滑なケアの実施に関する業務」「具体的サービス内容の調整」「新規利用に関する業務」「緊急的,一時的な業務」という5個の上位カテゴリに分類できた.ショートステイにおける相談員業務の特徴として,(1)予約および入退所に関する業務が多い点,(2)連携・調整・相談というスキルを多用している点,(3)「利用期間外」における業務が大半を占めている点,(4)「施設ケアマネジメント」に関する業務を担っている点,が示唆された.