- 著者
-
春井 久志
- 出版者
- パーソナルファイナンス学会
- 雑誌
- 消費者金融サービス研究学会年報 (ISSN:13493965)
- 巻号頁・発行日
- no.4, pp.35-57, 2004-09-30
2002年10月に始まった銀行による「年金保険」の窓口販売が好調である。生命保険の税制優遇措置によって死亡時の相続税が一部免除されるために、高齢者が中心となって購入しており、同年末までに3800億円を販売し、銀行の主力商品に育ちつつある。この年金保険は、運用実績によって受け取る年金額が変わる「変額年金」がその大半を占めている。銀行は年金保険の保険料の3〜5%程度を手数料として生命保険会社から受け取り、保険料は生命保険会社が預かって運用するため、したがって自己資本比率の低下を来たさずに、銀行はその資産を膨らませずに収入を上げることができる。銀行業界は景気低迷と超低金利のために運用難に陥っており、投資信託と並ぶ銀行預金の「受け皿」に位置付けている。2002年に金融商品の販売・勧誘ルールを定めた「金融商品販売法」が施行されたが、金融商品販売法の施行後も金融商品のリスクについての十分な説明を受けずに購入し、その後の市場変動で元本割れするなどのトラブルや消費者被害が後を断たない。それにもかかわらず、被害に遭った消費者が金融商品販売法によって救済された例はほとんどない。第1の理由として、同法は金融商品相場変動などに伴う元本割れリスクの説明を販売業者に義務づけているが、消費者は業者から十分な説明を受けなかったことを自ら立証しなければならない。一般の金融サービス消費者にとって、現実的にはほとんど不可能である。第2に、「日本版金融ビッグバン」後の金融の自由化により、金融商品が多様化し複雑化したうえに、販売チャネルが拡大したために、一般消費者にまで高度な金融商品・サービスに接する機会が増えた。また、政府が預貯金から投資型金融商品への資金シフトを奨励したこともあって、預貯金だけでは将来の生活に支障がでるという危機感を消費者に抱かせたことも大きい。イギリスは「金融ビッグバン」を1986年実施し、その後も制度改革を繰り返して、2000年金融サービス・市場法を制定した。さらに、それに基づいて、各種の金融機関を横断的に監督する単一的な金融当局(FSA)や単一的な法廷外紛争解決機関(金融オンブズマン)、単一的な損害補償機構を整備したイギリスでは、金融サービスの消費者に対して無料紛争の解決や補償制度を提供したのみならず、消費者教育や啓蒙活動までFSAが責任をもって実施している。日本でも同様に、すべての金融商品や金融機関(販売業者)を包括的に規制する「金融サービス法」の整備が急務とされるところである。