著者
伊藤 幸郎 堂下 浩
出版者
パーソナルファイナンス学会
雑誌
パーソナルファイナンス研究 (ISSN:21899258)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.13-26, 2015-12-25 (Released:2017-05-26)
参考文献数
9
被引用文献数
1

貸金業法は2006年12月に国会へ上程され、2010年6月に完全施行へと至った。新たに導入された制度の一つとして、借り手へ源泉徴収票等の提出を義務付け、個人年収の1/3を超える貸し付けを禁止する規制、いわゆる総量規制がある。法律が改正された2006年以降、総量規制は日本の貸金市場における借り手と貸し手の双方に広く影響を与えてきた。そこで本論文では、1)貸金業法の過程について主に政府が公表した公開資料から精査し、総量規制がノンバンクの貸付市場にのみ導入された背景を分析した。2)次に筆者らは2005年3月から2006年12月に渡る自民党と金融庁における立法の策定過程の議論に注目した。特に自民党で貸金業法の策定にあたり国会側の立法責任者として深く関与してきた増原義剛氏と、金融担当大臣として2006年12月に貸金業法を国会に上程した山本有二氏による発言に着目し、公開資料では示されていない貸金業法制定の背景を知ることに努めた。3)さらに筆者らは当時、貸金業法の立法に関わった人物、具体的には2006年当時の業界代表者、記者、そして業界ロビイストらを特定し、貸金業法制定の経緯、特に総量規制導入の経緯についてインタビュー調査を実施した。上記の調査を通じて、得られた結論は、(A)政府は貸金業者に対して感情的になった世論を恐れて貸金業法の立法を急いだ。(B)貸金業法に盛り込まれた総量規制の影響調査も欠落していていた、という2点に集約される。
著者
桑名 義晴 岸本 寿生
出版者
パーソナルファイナンス学会
雑誌
パーソナルファイナンス学会年報 (ISSN:18843328)
巻号頁・発行日
no.9, pp.39-50, 2009-10-15

本稿は、アジア、とくに台湾、香港、タイの3地域の消費者金融市場の現状と特徴を考察し、そこにおける日系消費者金融企業の事業展開の現状を分析し、その問題点とビジネスの可能性について研究することを目的としている。台湾の消費者金融ビジネスは、1985年のシティバンクによるクレジットカード事業が端緒である。その後、台湾の金融機関がクレヅット事業に相次いで進出し、2000年頃にピークを迎える。しかし、多重債務問題が表面化したため、上限金利の引き下げが行われ、ローン事業は縮小する。また日系企業は1991年に自動車ローン事業を行い、その後現地の銀行と提携して信用ビジネスを始めるが、規制強化とともに収益性が悪化し撤退する。台湾は、与信データが整備されており、消費者金融へのニーズもあるが、規制が厳しく、ローンの規模が小額であり、消費者金融の収益性が低いのが特徴である。香港では、早くから消費者金融ビジネスが行われており、日系企業も1970年代に参入している。1981年の銀行法の制定により、銀行やノンバンクなど、多くのプレイヤーが参入した。近年では大手企業のシェアが高くなっているが、依然競争は厳しい。香港市場は成熟しているが、中国本土への進出を果たしている企業もあり、新しい事業展開の可能性が存在している。次に、タイでは1990年の金融の自由化により、消費者金融市場が発展した。しかし、アジア通貨危機により市場が縮小し、さらに参入規制がなされた。日系企業は2社進出しており、1社は現地企業と提携し広範にビジネスを展開している。もう1社は、単独進出であり、特定の顧客をターゲットに堅実なビジネスを行っている。これら3地域の現状を踏まえて、消費者金融企業が海外進出を行う際の分析フレームワークを検討した。最初に、現地市場の規模を決定する以下の3つのファクターを提示した。「顧客(市民)の消費者金融への理解度」、「消費者金融の自由化度」、「企業の事業展開力」である。これらのファクターのレベルから、進出対象国の市場の大きさが決まる。しかし今回の調査研究によって、市場規模が消費者金融ビジネスの規模と一致するのではなく、政府-顧客(市民)、顧客(市民)-企業、政府-企業の関係性が消費者金融ビジネスに影響を与える、というコンセプトを提示した。現地市場の規模、政府、顧客(市民)、および企業の関係性が、消費者金融企業の海外進出戦略の成否を決定するといえるのである。
著者
嶋田 美奈
出版者
パーソナルファイナンス学会
雑誌
パーソナルファイナンス学会年報
巻号頁・発行日
no.10, pp.49-59, 2010

貸金業法の改正以前、消費者金融大手7社は消費者金融市場を一層健全化することを目的とし、消費行動診断サービス及び家計管理診断サービスの開発と導入を行った。本稿は、日本貸金業協会が運営するサイトのインターネット上で利用できるこの診断ツールを用いて、消費行動診断や家計管理診断を利用した者に関して、消費行動や心理的な特徴、家計管理状態の特徴などを調査・分析を行ったものである。そこから多重債務者の可能性が高い者を抽出し、その特徴を心理学と行動経済学の観点から検討した。その結果、心理的特徴として、自己コントロールカ、思考的熟慮性と計画性が低く楽観的、生活や金銭への管理意識、金銭感覚が乏しい反面、衝動性やその場への満足感重視の傾向が強い。金銭的破綻の危機感はあるが、借入に対する抵抗感が低く、安易に債務返済を繰り返し行う対処能力の低さ、対処スキルの未熟さが示された。この傾向を行動経済学の現状維持バイアスの視点から見ると、即自的現在消費への満足感に価値を置くため、借りては返すという行為を繰り返しながら、消費や借金を続ける傾向が高く、セルフコントロール機能が不全である。負債が増加する要因として、安易さ手軽さを好み、簡単にクレジットにアクセスできることとその機会があること、将来の消費への価値が低いことなどが示された。
著者
林 真理
出版者
パーソナルファイナンス学会
雑誌
消費者金融サービス研究学会年報 (ISSN:13493965)
巻号頁・発行日
no.5, pp.97-111, 2005-09-30

低リスク層の顧客化という観点にたち、自己の将来設計や目標を意識して時間とお金を選択的かつ戦略的に使う「時間選好型生活者」に注目し、その消費の特徴、金銭意識、潜在ニーズを探り、消費者金融サービスの新たな利用者像と利用モデルを考察することを目的として、首都圏の25歳から34歳の独身女性に深層面接調査を行なった。特徴的な消費スタイルとしては現在消費、選択的消費、自己投資、意味の重視、合理的消費と衝動的消費の混在、自己愛型消費などが見られた。また比較的多くの事例で資金(借入)ニーズには「親の財布」がオンデマンドに対応しており、現時点で消費者ローンを利用することは選択肢になかった。金銭管理、収支バランス、リスク管理に関しては自分なりの対応策を用意しており安全性は高いと思われる。顧客化の最大の障壁として「お金を借りること」に関する心理的バリアが認められた。バリアの根底には適切な金銭教育の欠如と親の金銭観の影響があり、意識的、無意識的に行動を抑制していると思われる。ライフスタイルは先進的だが、金銭面での社会経験が乏しく金銭意識は未成熟である。金融取引(借入)の知識や経験が少ないほど心理的バリアが高くリスク回避的な傾向が強いが、幾つかの事例は経験すればハードルが低くなることを示している。結論として、対象者層は収入の多少にかかわらず、自分にとって価値があることには出費を惜しまず消費性向もコンスタントに高いことから、上記のバリアが解消されて新たな利用モデルが受容されれば、消費意欲、安全性、資金ニーズからみて魅力的な市場を形成する可能性がある。特に起業を志向している場合は、戦略的なキャリアデザインや資金調達プランにフレキシブルな金銭意識がみられ顧客化の可能性は高い。注目すべき点として、対象者層は「お金」そのものだけでなく資金計画を含むキャリア/ライフデザインの総合的サポートを求めており、これに対応するサービスは比較的受容されやすいと思われる。女性のフロンティア意識を金銭面も含めてサポートする消費者金融ならではの社会貢献度の高い新しいサービスモデルの開発が期待される。
著者
上村 祥代 竹本 拓治
出版者
パーソナルファイナンス学会
雑誌
パーソナルファイナンス研究 (ISSN:21899258)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.67-79, 2019 (Released:2020-10-20)
参考文献数
9

本研究では、日本のライドシェアの先行事例から現状と課題、さらに過疎高齢化かつ公共交通の不便な地域におけるライドシェアの受容性を明示し、利用と運賃との関係性の考察を行った。 まずライドシェアの事例を把握した結果、利便性に関しては2つの事例ともに向上したと考えられるものの、各々運行範囲や様々な時間帯への対応、ドライバー確保の課題が示された。また運賃に関しては、ささえ合い交通では、利用者は高いと不満を感じており運行管理側も課題と認識していた。しかし、ささえあい交通の運行実績やささえ合い交通の開始年度を拠点に見たデマンドバスの利用者減少、さらに海外事例の知見を踏まえると、運賃のマイナス面より も利便性のプラス面が優先し利用する傾向がみられ、一定の利用に繋がっていた。一方、なかとんべつライドシェアでは、始めは無料としていたものの、利用者の意志により受益者負担となったことで不満の声は聞かれず有料化に伴う運行回数の変化もみられなかった。そして、ささえ合い交通の事例を基に運行管理の枠組みや留意点を整理すると、運行管理者を軸とし輸送サービスの提供や安全管理への配慮が行われており、今後導入にあたり検討すべき要因を明らかとした。 次に、今後ライドシェアの検討や展開が見込まれる過疎高齢化かつ公共交通の不便な地域の一例として福井県吉田郡永平寺町の高齢者の地域交通の意識把握を行った。その結果、まず料金面よりも利便性を優先事項に挙げていた。そして、ライドシェアや共助型輸送の輸送方法が地域になじみ展開できる可能性があると期待していた。また、運賃に関しては、ささえ合い交通やなかとんべつライドシェアで取り入れられている「固定型」を選択した。しかし、先行事例の実態を踏まえると、利用者の満足を得られるような運賃設定の工夫が求められる。 以上より、運賃より利便性、無料より有料化、謝礼や選択型より固定型の運賃が評価されることについては、行動経済学のナッジが意識決定に影響した効果と考えられる。 今後、ライドシェアを普及、展開を進めるにあたっては、利便性の評価が最重要となり、運賃が高いと実感しても一定の利用は見込まれる。しかし、利用者の運賃に対する満足を得るためには、利用者に輸送サービスの価値を評価させ固定型の運賃設定を行う戦略を取り入れることが望ましいと示唆される。
著者
田中 幸弘 田中 秀一郎
出版者
パーソナルファイナンス学会
雑誌
パーソナルファイナンス研究 (ISSN:21899258)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.21-46, 2019 (Released:2020-10-20)

本論文においては、我が国における仮想通貨の現在の状況について検討し、金融庁の研究会等での議論や仮想通貨に関連する事業者の金融庁による処分や法制度改定などの取り組みを検討した後、いわゆる ICO(Initial Coin Offering) の制度について金融庁による「金融の4機能」のどこに ICO の四類型が該当するのかを検討した。そして、 ICO と類似するクラウドファンディングやソーシャルレンディング等の現行制度における限界を踏まえ、証券及び金融市場における資産運用業界の実務的な側面からICO の投資可能性を担保するための条件を提示するとともに、 ICO という資金調達手段が市民社会の側面から見た資金調達の簡便性との両立が可能かどうかを検討した。その際に ICO という資金調達手段において投資家保護と資金調達の簡便性が両立するかという問題との関係で、その両立のために必要とされる各種制度整備を検討し、現行制度に対する代替案の提言を行った。そして最後に仮想通貨の法的性格との関連でアメリカにおける個人情報を所有権の客体と位置づける法案の内容について紹介するとともにその各方面での将来的な影響について若干の検討を行なった。
著者
陳 足英
出版者
パーソナルファイナンス学会
雑誌
パーソナルファイナンス学会年報 (ISSN:18843328)
巻号頁・発行日
no.9, pp.51-59, 2008

中国の庶民金融は「合会」といい、台湾では合会や互助会を会仔(wheai)ともいう。「合会」は、庶民の相互扶助的な金融組織という点では日本の頼母子や無尽、沖縄の模合と性質を同じくする組織である。1990年以前の台湾の金融機関は、ほとんど日本植民地時代からの金融機関および国民党の台湾移動とともに中国本土から移転してきた金融機関から形成されていた。当時の台湾の銀行は保守的で、担保物件の少ない中小企業と零細企業に対しては冷淡で、銀行から融資を受けることが難しかった。そのため台湾では、民間の庶民金融の「合会」が普及していった。ある調査によると、台湾人が「合会」に参加する率は85%に達していた。1999年7月のアジア金融危機から台湾の金融構造が変化し、国内企業の資金調達は多元的になり、銀行の融資額が減少し業績は下降傾向となりその業務は消費者金融に移ってきた。近年、台湾ではプラスチック貨幣(信用カード【クレジットカード】)が急速に普及している。台湾の消費者信用産業の市場規模は2004年6月の6,631億(台湾元)から2005年7月の8,056億(台湾元)と急激に拡大した。そのうち無担保で小口現金(現金カード)を貸し付ける消費者金融市場は1,934億(台湾元)から3,067億(台湾元)となった。「現在台湾のクレジットカードの負債は400億台湾元、50万人がクレジットカードの負債でどん底に落ちている(永無翻身)」。
著者
桑島 浩彰 加瀬 洋 加賀 裕也 藤村 慎也 岩本 隆
出版者
パーソナルファイナンス学会
雑誌
パーソナルファイナンス研究
巻号頁・発行日
vol.1, pp.31-40, 2014

2006年12月20日に公布され、2010年6月18日に完全施行された「改正貸金業法」が日本経済に与えた経済的インパクトについて、日本のGDPへのインパクトとしてシミュレーションを行ったところ、▲8〜▲18兆円となった。その内訳は、「貸金の取引量減少に伴う消費額減少によるGDPへのインパクト」が▲19〜▲31兆円、「貸金業者の利息収入減少によるGDPへのインパクト」が+2〜3兆円、「過払金返還で債務者に資金還元されたことによるGDPへのインパクト」が+9兆円である。本シミュレーション結果から、「改正貸金業法」は返済能力と借入額とのコントロールが不得手な人に対して、借入実行に一定のハードルを設け、不用意に借入を実施しないための抑止力として一定の機能を果たしたものと考えられる。また、過払金返還請求によって、債務者に対して資金が返還され消費に充当された部分については、上記の通りGDPへの貢献にもつながっている。しかし、このシミュレーションの影響額は、そういった社会保障的な機能を超えて、本来、借入実行をしても問題ない人たちにまで強制的に抑止力が働き、一定の経済減退効果があったことを示唆するものである。この影響度合い・定量感が、「改正貸金業法」が本来目的としていた「多重債務問題の解決と安心して利用できる貸金市場の構築」の代償として適切な大きさだったのかどうかについては、今後、議論すべき所である。更に、「改正貸金業法」の規制別の経済的インパクトのシミュレーションを行ったところ、「貸金業者に対する参入規制/監督の強化によるGDPへのインパクト」が▲2兆円、「グレーゾーン金利の撤廃によるGDPへのインパクト」が▲19〜▲28兆円、「総量規制の導入によるGDPへのインパクト」が▲7〜▲10兆円となった。「改正貸金業法」を主たる規制別に見ると、とりわけ「グレーゾーン金利の撤廃」の影響が大きい。但し、この規制の影響は過払金返還請求の最高裁判決の影響も多分に含んでおり、一概に「改正貸金業法」の影響とも言えない所である。とは言え、この部分に関する一連の処理が貸金業界にとって、最も影響があったという事は上記のシミュレーション結果から窺える。このことは、司法の判断が経済に大きな影響を及ぼしている所として、政策立案の際には、経済だけでなく司法をも含めた考察が必要という事を示唆していると考える。
著者
李 立栄
出版者
パーソナルファイナンス学会
雑誌
パーソナルファイナンス研究
巻号頁・発行日
no.2, pp.67-85, 2015-12-25

中国において最近インターネット企業による金融サービスへの参入が活発化しており、特にコンシューマー向けのサービスが急成長している。この背景には、(1)中国当局の規制緩和、(2)インターネット人口の爆発的成長、(3)第三者決済をめぐる法規制の明確化、(4)金利規制に伴う裁定機会などがある。第三者決済は安全な電子商取引を図るために生まれたサービスである。第三者決済の利用者は近年爆発的に増加しており、登録者ベースで8億人以上に達する。近年は第三者決済のプラットフォームでMMF(余額宝)の販売も行われており、個人は銀行預金よりも有利な金融サービスが利用できるようになっている。余額宝は発売以来僅か1年で開設口座数が1億件を突破し、資産残高が5,742億元(約12兆円)に達し中国最大のファンドとなった。銀行預金からインターネット事業者が提供するMMFファンドへの資金流出の加速は、伝統的な金融機関にとって大きな脅威となりつつある。また、インターネット上のプラットフォームを通じて融資の貸し手と借り手をマッチングさせるP2Pレンディングも、中小企業をはじめとする強い資金調達ニーズとより有利な運用先を求める投資家ニーズを背景として急速に市場が拡大している。もっとも、P2Pには金融システム上のリスクも指摘されている。コンシューマー向けインターネットファイナンスが発達した意義としては、(1)金融サービスレベルの飛躍的な向上、(2)金融包摂の進展、(3)銀行以外の新たな決済プラットフォームの登場、を指摘することができる。当局は消費者保護、リスク管理の観点から規制監督を強化する方針であるが、彼らを金融イノベーションの担い手として活用し、既存金融機関を含む金融システムのレベルアップを図る意図が伺われる。
著者
藤江 俊彦
出版者
パーソナルファイナンス学会
雑誌
消費者金融サービス研究学会年報 (ISSN:13493965)
巻号頁・発行日
no.5, pp.131-137, 2005-09-30

最近になって企業の社会的責任がCSRとして注目されるようになった。だがCSRは経営学の世界ではもう長い間の課題でもあった。ここにはCSRについての十分な議論が欠落していたように見える。近年は多くの学者や実業家などから、グローバル社会からの多様な要請、企業不祥事の多発、規制緩和の動きなどによって組織経営におけるCSRが受け入れられるようになってきた。私が強調したい点は、CSRは単なる営利ビジネスの否定的なインパクトではなく、企業ブランドを創造するなど企業価値を向上させることである。株主価値の最大化は企業価値の創造と同等のものとは言いがたい。実際のところ企業価値は株主価値、顧客価値、社員価値などのマルチステークホルダーの価値を最大化するものでなければならないのである。
著者
堂下 浩
出版者
パーソナルファイナンス学会
雑誌
パーソナルファイナンス研究 (ISSN:21899258)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.15-27, 2016-12-31 (Released:2017-08-10)
参考文献数
8

1999年12月、いわゆる「商工ローン」問題と呼ばれる、当時の事業者金融市場における大手2社であった商工ファンドと日栄によって引き起こされた違法な取立行為と過剰融資への対応として、出資法が国会で改正された。結果として、出資法の上限金利は年40.004%から年29.2%に引き下げられ、この上限金利規制は法改正から僅か6か月後の2000年6月に施行された。この上限金利引下げ措置は事業者金融業界だけでなく、消費者金融業界にも適用されることとなった。このため、大半の消費者金融会社は突然の規制強化に翻弄される事態に陥った。この当時、JCFA(日本消費者金融協会)は会員業者の経営実態を把握するためにアンケート調査を行っていた。 著者はその当時JCFAが行ったアンケート調査のデータを入手した。今回、本データを用いた分析の結果、十分な猶予期間なしに施行された上限金利引下げに対処するために、多くの消費者金融会社は短期的な利益を確保しようと与信基準を緩めたという実態が把握できた。その後、こうした与信行動は消費者金融市場において、いわゆる「多重債務問題」を引き起こす要因の一つとなったとも考えられる。
著者
中西 孝平
出版者
パーソナルファイナンス学会
雑誌
パーソナルファイナンス研究 (ISSN:21899258)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.29-46, 2016-12-31 (Released:2017-08-10)
参考文献数
14

障害者雇用は近年着実に進展しているが、障害者雇用が進められる政策的背景には、就労を通じて障害者の稼得能力を向上させ、その所得を保障しようとする考えがある。しかし、障害者全体に占める雇用者の割合は1割に過ぎず、企業に就労した障害者の勤続年数は短い。それゆえ、障害者の就労を通じた所得保障は達成できていないと言える。 そこで、本稿は、障害者が周囲の支援を受けながらも自らの生活リズムに合わせて主体的に働き自ら所得を稼ぐことができる労働環境を、障害者自身が作り上げることをねらいとして「障害者の起業」を促進し、そのための資金調達の手段として頼母子講を活用することを提起している。 第2章では、障害者の所得を保障するためには、就労の継続性と安定性が保たれかつ就労移行が円滑に進められる必要があることを指摘したうえで、障害者の勤続年数はなぜ短いのか、そして、そのことから障害者の起業についてどのような示唆が得られるのかについて、平成15年度、平成20年度、平成25年度の三つの『障害者雇用実態調査結果』を基に分析している。 その中で、障害者が「前職を離職した理由」と障害者の「将来への不安」の二つから障害者雇用の継続性と安定性が確保できていない理由を導き、障害者が周囲の支援を受けながらも自らの生活リズムに合わせて主体的に働き自ら所得を稼ぐことができる労働環境を、障害者自身が作り上げることをねらいとして、「障害者の起業」を提起している。 第2章では、日本政策金融公庫により実施された『2008年度新規開業実態調査(特別調査)』と『起業意識に関する調査』から「障害者の起業」への示唆を得たうえで、UNDP1ミャンマーによるマイクロファイナンスを参考として、障害者が起業する際の資金調達の手段として頼母子講を活用することを提起している。 その中で、障害者が起業する場合のリスクとして、第一に、生活保護を受けている障害者が多い中で、起業して収入を得れば生活保護費を削減されることにつながり、事業が軌道に乗るまでは不安定な生活を強いられること、第二に、障害者が事業を行う場合、職務の遂行と自身の体調やケア・スケジュールとの関係から制約を受けることを挙げている。 それゆえ、障害者が起業する場合、第一に、少額の開業費で身軽な経営形態を採用すること第二に、開業後の運転資金が柔軟な返済条件で融資されること、の二つが求められるとしたうえで、UNDPミャンマーによるSRG(Self-Reliance Group)活動を参考として、頼母子講を障害者が起業する際の資金調達の手段として活用する場合、掛け金の払込時期を頼母子講の参加者が相談して変更することができるなど、頼母子講をめぐるルールの硬直性を克服する仕組みをつくることができれば、障害者が自身の生活リズムに合わせてビジネスを行うことができるとしている。
著者
生駒 雅
出版者
パーソナルファイナンス学会
雑誌
パーソナルファイナンス学会年報
巻号頁・発行日
no.11, pp.97-103, 2011

・北海道拓殖銀行、大和ファイナンス、三洋電機クレジットという資金提供者側としての実務経験と、経営コンサルタントとして関わってきたベンチャー企業、中小企業という資金需要側の実態とニーズを把握している立場から、事業者向け融資の実際と展望を検証していくものです。・日本の企業総数は約421万社であり、そのうち約366万社(87.0%)が事業者向け融資の対象である小規模企業と個人事業主であります。この約366万社の資金繰りは貸金業法と割賦販売法の改正に伴い悪化して行っています。・規制強化による影響と実情は次のようになっていると考えられます。銀行→個人事業主・零細企業にはリスク回避のため資金供給を停止。貸金業者→貸金業者自身の資金調達難から対応が困難。信販・クレジット・リース会社→銀行系・商社系の傘下に集約化され、リスク回避が鮮明化。・規制強化による二つの破綻事例(1)印章彫刻器製造販売会社→リース審査厳格化の影響で販売不振となり自己破産申請。(2)店舗内装工事会社→信販・クレジット会社の与信厳格化の影響による個人消費減退による飲食店・小売店の売上減少と金融機関の審査基準強化による資金調達環境の悪化から、新規出店が激減となり民事再生を申請。・従来、貸金業者が対象としていた事業者向け融資市場へは、銀行を始めとした金融機関ではノウハウの蓄積がなく対応不能となっています。・規制強化による上限金利引き下げと総量規制の導入により、リスク圧縮とコスト削減という二つの大きな課題が横たわっています。不特定多数を対象としていた従前の手法ではリスクとリターンが合わず、提携戦略を取った新たな手法の開発が必要とされます。・事業者向け融資市場は、規制強化と国内景気の悪化という二つの障害がある状態となっていまが、一方で個人事業主・零細企業には資金調達に対する強いニーズがあります。既存の金融機関・ノンバンクは、当該マーケットに対しての与信機能を放棄しており、提携戦略等をとる新たなリスクテイカーの育成が求められています。そのためにも事業者向け融資に適応するような法整備が望まれます。
著者
中村 貴司
出版者
パーソナルファイナンス学会
雑誌
パーソナルファイナンス研究
巻号頁・発行日
vol.2, pp.53-65, 2015

本研究は、独創性のあるストーリーを通じた株式投資のケースメソッドを用いることで、投資家の行動や相場変動の特徴・特性など、心理的アプローチを用いた行動ファイナンスの視点をパーソナルファイナンスの資産運用の分野へ効率的・効果的に取り込むことに加え、実務への応用可能性の高い投資のエッセンスをケースメソッドに含有することで、個人投資家の金融リテラシーの向上に寄与することを目的としている。本研究ではパーソナルファイナンスと行動ファイナンスの概要に加え、ストーリーを用いたケースメソッドのメリットを述べた後、顧客である個人投資家と関わりながらITバブルとITバブル崩壊を証券の営業現場で経験した一営業担当者としての視点で書かれている「A君の株式投資物語」というケースメソッドの実例を示した。このケースでは、マーケットの狂喜乱舞、楽観と悲観、幸福感と絶望感など群集心理の激しい移り変わりを経験し、マーケットに揺さぶられ続けてきた個人投資家や営業担当者のイメージが湧くような具体例やマーケットの局面ごとの反応例を示した。また、このケースメソッドを通じ、代表的な株式投資の分析手法であるファンダメンタルズ分析とテクニカル分析のメリット、デメリットや投資を行う上での適切なポジション管理の必要性に加え、マーケットの変化やマーケットに伴う困難、逆境に対し、しなやかに対応できる柔軟な思考力と行動力を持つことの大事さを投資におけるエッセンスとして学べる機会を提供することで、パーソナルファイナンス教育の分野への貢献を行った。
著者
渡部 なつ希 飯田 隆雄
出版者
パーソナルファイナンス学会
雑誌
パーソナルファイナンス研究
巻号頁・発行日
vol.1, pp.7-15, 2014

北海道では20年前まではほんの数社に過ぎなかったワイナリーが2013年時点では約20社にまで増加している。本稿では日本で販売されているワイン全体の約4%でしかない純国産ブドウ原料100%のワイン、すなわち、ワイン生産地域でブドウを栽培し、そのブドウでワインを製造し販売するといった、産業としてのワイン生産を柱とする経済振興政策が、地域経済の発展及び人口の定着を目標とするときに、必ず問題となるファイナンスの視点から分析する。まず、ワイン製造会社が付加価値の高い商品群を生産できるようにファイナンスの仕組みを工夫する事により、波及倍率の低い農業生産0.57とその他食品部門0.52、土木・建設や金融サービス部門の0.89、公共サービスの1.02など、地域の産業構造による波及効果の偏りを考慮しながら、地域経済にも貢献できるような施策を考察する。そこで、『平成17年度北海道地域産業連関表』を用いて、経済波及効果と雇用効果をシミュレーションすることによって、そこに内在する様々な問題点を明示し、解決策を提案することにより、今まで以上に経済的に豊になる施策を提案しようとする試みである。その結果、北海道にとって、高付加価値ワインの生産と六次産業化は不可欠である。必要とされる資金調達手段として、補助金や金融機関を通じた制度融資の効果も大きいが、財政を投入しないで自由に活用できる投資資金も、効果が大きく、今後活用すべき制度と考えられる。具体的には、(1)各ワイン会社が土壌改良などでファイナンスしても、それほど波及倍率が高くなるわけではない。(2)政府補助金、金融機関の借入、匿名組合方式の投資資金をそれぞれ投入して、経済効果をシミュレーションしたがそれほど波及倍率が高くなったわけではない。(3)六次産業化の育成施策としてワイナリーがレストランやホテルを併設したとして新規施策に投入する資金を、政府と民間がお互いの得意とする部分でファイナンスすることにより、より効果的な経済効果が得られる。(4)オーガニックワインはブドウ栽培はじめ一連の製造工程に於いて人手がかかる分、人口の地域定着向上に大きく寄与できると期待される。
著者
堂下 浩
出版者
パーソナルファイナンス学会
雑誌
パーソナルファイナンス研究
巻号頁・発行日
vol.5, pp.7-18, 2019

<p>2006年12月に貸金業法が改正された。法改正の過程は感情論が先行する一方で、実証データに基づく科学的検証が封殺されるという、あまりにも拙速なものであった。中でも新たに導入された総量規制の実効性は当時から疑問視されてきた。事実、三國谷勝範・金融庁総務企画局長(当時)は総量規制の根拠について借り手の統計的なデータを取らずに、その基準を明確にしないまま導入を決定した旨を国会で答弁した。貸金業法の完全施行直後から、科学的根拠がなく導入された総量規制による金融収縮を懸念する報道姿勢が徐々に強まり、金融庁は消費者金融の代替手段として消費者ローンを積極的に手掛けた金融機関に表彰状を授与するなど金融機関による銀行カードローン普及を顕彰制度等で促した。</p><p>しかしながら金融機関は個人信用情報に関わる前近代的なインフラしか有しないため、銀行カードローンの与信精度が貸金業よりも劣っている点は当時から広く知られていた。金融機関は銀行カードローンの保証を総量規制で貸し出しに大きな制約を強いられた貸金業者へ主に委託し、同時に審査も貸金業者に依存する格好で、その残高を増やした。皮肉にも、こうした金融庁による政策はその後の第二次安倍政権で実施される大規模金融緩和の長期化により金融機関の預貸率が低下していく局面で、必要以上の資金が銀行カードローン市場に流入する事態を招いた。</p><p>銀行カードローンにおいて特に問題視されるのが、金融機関による前近代的な貸付情報の管理システムが挙げられる。貸金業者による貸付情報の更新頻度は日次に対して、金融機関による貸付情報の更新頻度は月次であり、その情報の一部は貸金業者に共有されない。</p><p>結果として今日、銀行カードローンの利用者による返済困難者の急増が報道されている。こうした事態を招いた理由の一つとして金融機関側の前近代的な情報管理システムの下で銀行カードローンが急成長した点が挙げられる。</p>
著者
堂下 浩
出版者
パーソナルファイナンス学会
雑誌
パーソナルファイナンス研究 (ISSN:21899258)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.7-17, 2017-12-31 (Released:2018-10-05)
参考文献数
9

厚生労働省は2015年1月に公表した「労働市場分析レポート」で、非正規労働者が近年増えた大きな原因として、増加傾向にある廃業した個人事業主の雇用の受け皿として機能していると論じた。個人事業主の廃業増加を貸金業法の影響のみで捉えることはできないが、法改正が個人事業主をはじめとする中小零細事業主の資金繰りの面で廃業に拍車を掛けた蓋然性は否定できない。そして2016年12月に貸金業法改正から10年が経過したが、上限金利の引下げが中小零細事業主の資金繰りに硬直性を高めた状況に変化はない。我が国の開業率、廃業率は先進各国に比べ大きく見劣りするが、無担保・無保証融資という小口金融が機能していない点もその理由の一つであろう。一方米国で急成長を遂げる新たな金融手段としてフィンテックに脚光が浴び、その国内導入への機運が盛り上がっている。米国では中小零細事業主向けのトランザクションレンディングを含め、様々なビジネスモデルのフィンテックサービスが先行しているが、これらフィンテックサービスを我が国の成長戦略に活用するのなら、中小零細事業主向け無担保・無保証融資の担い手としてフィンテック市場を先ず整備することが政策的に喫緊の課題であろう。しかしながら日本において金融庁はトランザクションレンディングを含め、フィンテックにおける融資サービスに対する金利規制の緩和を検討していない。一方で、与党である自民党と公明党はトランザクションレンディングに関して強い関心を示し、そのサービス分野での規制緩和も示唆している。そこで、本論文では貸金業法が零細事業主に与えた影響と日本におけるトランザクションレンディングの現状を把握するとともに、立法府でトランザクションレンディングが政策的に注目される背景と目的を分析する。
著者
陳,足英
出版者
パーソナルファイナンス学会
雑誌
パーソナルファイナンス学会年報
巻号頁・発行日
no.10, 2010-09-10

今年の夏に大学を卒業した青年のうち、僅か24.4%しか就職ができなった。ある銀行財富管理部の管理者(主管)は、青年たちに将来の資金管理についてアドバイスを提起した。「基本的な消費金額を計算し、できるかぎり節約し、なんとか貯金の習慣を作る」。長い歴史をもつ中国では、市場経済もはやくから成長していた。「蛙を待ち構えている蛇のように、貪欲な高利貸達がいる」ということばが残っていることにも示されている。また「倍称の息」ということばも使われていた。「倍」とは利息を元金の2倍にすること、「称」とは利息を元金と同額にすることを指す。つまり200%、100%の金利である。このような悪条件でも借金せざるをえなかった農民は、高利貸大地主から金を借りて多くの犠牲者を出し、村から逃亡して流民化し社会を不安定にした。高利貸から借金をしなくてもよいように、中国の民衆は「合会」という相互扶助的な庶民金融組織をつくって自分たちの生活を守ろうとしてきた。台湾の庶民の相互扶助的な金融組織という点では、日本の頼母子講や無尽と質を同じくする組織である。台湾の庶民金融は会仔(wheai)という。または互助会や合会ともいう。理財(Investing)の道具として、大勢の台湾の庶民たちが利用している。クレジットカードを利用するのは、大金を持ちながら、買い物をするのはリスクがあるからであり、また、買いたい時には現金がなくてもクレジットカードで支払うことができるからである。しかしながらクレジットカードを利用しながら、貯金しようと思うと大変難しい。そこで「会仔」を使うのである。
著者
陳 足英 張 務華
出版者
パーソナルファイナンス学会
雑誌
パーソナルファイナンス学会年報
巻号頁・発行日
no.13, pp.61-68, 2013

現在台湾では、郵便貯金・労働者退職基金・労働者保険基金及び公務員退職・援助基金の四つの政府系ファンドがある。中華郵政(Chunghwa Post Company Ltd.)は預金残高ベースで、台湾で最大手の預金金融機関である.中華郵政が提供している金融商品には通帳預金・定期預金・郵便振替があり、預金残高は3商品合わせて4.63兆台湾元である(2010年末)。2009年の預金機関全体の預入預金は21.3兆台湾元であるので、中華郵政で預入されていた残高は、その21.7%に相当する.または、中華郵政の2010年の年次報告書によると、中華郵政で預入されている預金商品の預入残高は、定期預金の残高が3,021,916百万台湾元で、通帳預金の残高が1,526,690百万台湾元で、郵便振替が76,482百万台湾元である。全球華文行銷知識庫の2007年8月30日によると、台湾の政府基金では、それぞれ持っている資金は、郵便貯金が4兆台湾元で、労働者退職基金が6052億台湾元で、労働者保険基金が4276億台湾元で、公務員退職が4324億台湾元である。台湾の中央銀行の公開市場操作は、以上の資料によると、台湾の中華郵政の貯金が、台湾の中央銀行の最大資本金と思うであろう。退職基金と保険基金の成立の目的は、国民たちの老後の生活保障や、社会および経済を発展させることである。
著者
堂下 浩
出版者
パーソナルファイナンス学会
雑誌
パーソナルファイナンス研究
巻号頁・発行日
vol.1, pp.55-65, 2014

貸金業法の副作用が徐々に顕在化しつつある。新聞各紙は2013年4月4日に警察庁が発表したデータを引用し、貸金業法の効果によりヤミ金融の被害件数が減少していると報道した。筆者はこうした一連の報道に違和感をもつ。筆者らが2013年1月に行ったアンケート調査において直近1年間のヤミ金融利用率は「消費者ローン利用経験者」ベースで9.8%と、2011年調査の3.3%を大きく上回った。また同様の増加傾向は日本貸金業協会が2012年11月に発表した調査でも確認されていた。実際、本報道の後もヤミ金融の被害を伝える事件は頻発している。2013年5月の事件に限定しても、ヤミ金融に従事していた袖ヶ浦市議が逮捕された事件や、ヤミ金融の亜種である偽装質屋やカード現金化に関する事件報道など後を絶えない。このようにヤミ金融被害の拡大は改正貸金業法による副作用の一つに過ぎない。本調査からヤミ金融被害をはじめとする貸金業法による一連の副作用が確認された。本稿では法改正が引き起こした諸問題について報告する。