- 著者
-
Johnston Charles
河井 潤二
- 出版者
- 日本ニュージーランド学会
- 雑誌
- 日本ニュージーランド学会誌 (ISSN:18839304)
- 巻号頁・発行日
- vol.18, pp.5-19, 2011-06-18
国境を越えた人的移動が容易となった現在、貧困や迫害を逃れるためではなく、よりよいライフスタイルを求めて、生まれた祖国を離れ、異国に移り住む人々も増加してきた。日本人もその例外ではなく、例えば、オーストラリアへの「ライフスタイル移住」は、1980年代から頻繁に見られるようになり、ニュージーランドでも日本人永住者数はこの10年でほぼ倍増している。オーストラリアのライフスタイル移住者に関する調査研究は、佐藤(1993、2001)、長友(2007、2008)などが詳細に行っているが、ニュージーランドにおける同様の調査研究は、筆者の知る限りまだなされていない。本稿では、オークランドに在住する日本人25人へのインタビュー結果に基づき、彼らがなぜニュージーランドに来ることにしたのかを旅行学で用いられる動機付け理論の観点から分析してみた。本稿で用いた理論は、Howard&Sheath(1968)の「一般・特定」、Hudman(1977)の「プッシュ・プル」、Crompton(1979)の「不均衡」の3つである。日本を離れる理由やニュージーランドに移り住む目的は人により様々だが、分析の結果、いくつかのパターンが見えてきた。(1)日本にいづらいというプッシュか、あるいはニュージーランドに引かれるというプルのどちらか一方だけが要因になることは珍しく、多くの場合はその相互作用によるものであること、(2)仕事のストレスや社会慣習によりバランスを失った不均衡な生活から逃れ、自分を取り戻すために一時的に海外に渡った経験を有する人が多いこと、(3)漠然と海外に引かれる一般的な思いが短期旅行やワーキング・ホリデー、語学留学などを通して次第にニュージーランドに引かれる特定の要因に変わっていくこと、などがそのパターンとして挙げられる。また、初めてニュージーランドに渡る際にすでに移住を決意していることは非常に稀で、現地滞在中に要因がプッシュもしくは一般的なプルから特定のプルに移行し、何らかの引き金がもとで転換点を迎え移住に踏み切るというパターンが一般的であることも、この調査を通じて明らかになった。