著者
伊達 聖伸
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.85, no.2, pp.479-504, 2011-09-30

カナダのケベック州は、一九六〇年代の「静かな革命」以降、大きな社会の変化を経験している。そのなかで、宗教のあり方も変化している。州政府、教会、家庭の関係が再編されるなかで、学校教育の役割も変わってきており、ますます増大する宗教的・文化的な多様性を踏まえながら、子どもたちの規範的な社会化と市民性教育を行なうことが課題となっている。そのときに拠り所となるのが「ライシテ」の原理だが、ケベックのライシテは、宗教を取り除くことを志向しがちなフランスのライシテとは趣を異にし、宗教と手を切る面を孕みながらも、むしろ学校での道徳教育や倫理教育、宗教文化教育、スピリチュアリティ教育の継続と再編を可能にしているところがある。それだけに、「道徳」「倫理」「文化」「スピリチュアリティ」という言葉には、ライシテの推進者のみならず、反対者の思惑も込められている。本稿は、これらの言葉のニュアンスを読み解きながら、一定の合意形成のなかに、対立の構図が残っていることを明らかにしようとするものである。

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