著者
品田 知美
出版者
環境社会学会
雑誌
環境社会学研究
巻号頁・発行日
no.3, pp.179-195, 1997-09-20

経済原理としての互酬は、これまで環境との関係では市場交換や再分配に比べて優位な扱いを受けてきたにもかかわらず、その理由が明確に語られたことはなかった。はじめに本稿では、互酬に対して「2以上の対等関係にある主体が、貨幣によらずに対象を取り引きすること」という操作的定義を与える。次に、環境と互酬の接点については、森林の取り引きを具体例とした理論的考察により、主体の対等関係および取り引きに仕随する内的意義という2つの要件からみて、互酬が市場交換よりも世代間や国家間の取り引きにおいて優位に立つ可能性を示す。その上で、"近代と両立しうる共同体"を指向する組織として共的セクターを位置づけ、ヤマギシ会、生活クラブ生協、(株)大地の3事例の検討を通して、互酬の存立要件を検証したところ、組織内部で互酬取り引きを存続させる場合、主体と対象に課すべき一定の制限が明らかになった。近年、組織内での互酬取り引きの維持はますます困難になりつつあるようだ。だが、主体の対等性という互酬の要件は近代社会の理念と親和的なので、組織内部に限らずとも、互酬は個人や他の民主的組織を主体とした私的領域において、十分に成立する余地がある。また、特殊な直場での交換にも、環境にとって有意義な「内的意義」を伴った取り引きが成立する余地が残されている。ここには、互酬と環境に関して共的セクターに限定しない議論の可能性が聞かれていると考える。

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