著者
西崎 伸子
出版者
環境社会学会
雑誌
環境社会学研究
巻号頁・発行日
no.10, pp.89-102, 2004-11-30

アフリカの国立公園の周辺では,住民参加型保全を通じて,地域住民を排除する原生自然保護による失敗を克服することが試みられている。本稿では,東アフリカ,エチオピアのマゴ国立公園を事例に,住民主体の資源管理の実態を明らかにする。マゴ国立公園周辺に位置する一部の村落では,1994年に住民が公園自警団を結成し,密猟対策を始めた。自警団結成の背景には,従来のゾーニング手法にもとつく野生動物保護に対する住民の抵抗に加えて,住民が公園内での養蜂を強く望んでいたこと,野生動物の減少に対して危機感をもっていたことがあった。自警団活動は,狩猟を通して結ばれた既存の社会関係に支えられており,自警団メンバーを通して村落内部に「狩猟の自主規制」という新たな規範がつくられつつあった。また,公園スタッフとの対立を緩和する役割を自警団メンバーが担っており,実質的な「住民主体の資源管理のしくみ」が形成されたといえる。本稿の事例から,エチオピアの野生動物保護をめぐる国家と住民の硬直した対立構造を開く方策として,行政と地域住民の共同管理(Collaborative Management)の可能性が見出せる。住民が主体的に資源管理のしくみを形成し,維持していく鍵は,人と環境の多面的な関係の中に埋め込まれた,地域社会に固有の社会関係を生かしてこそ,可能になるのではないだろうか。

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