著者
立澤 史郎
出版者
環境社会学会
雑誌
環境社会学研究
巻号頁・発行日
no.13, pp.33-47, 2007-10-31

市民調査は,観察会型,研究会型,運動型,政策提言型などに類型化でき,専門性と能動性という二軸で整理できる。なかでも社会的意思決定過程という機能を重視するならば,政策提言型市民調査のあり方を議論する必要がある。そこで政策提言を目指した野生生物保全市民調査を事例に,政策提言や政策関与に至らなかった理由や,専門性と能動性の動態を振り返り,政策提言型市民調査が乗り越えるべき課題を整理した。カモシカ食害防除活動では,新たな事実や新たな技術を示した点で市民調査の成果はあったが,問題の変化や専門化に対応した目的や手法の再設定ができず,経路依存的状況に陥った。「奈良のシカ」市民調査では政策提言に至ったが,それを実際に政策化する仕組みがなかった。また両事例とも専門家が運営に深く関与したが,前者では専門家の主導が市民の能動性低下と結びつき,後者では政策化を研究者に任せたことで必要な制度作りに市民の関心が向かわなかった。これらの経験からヤクシカ調査では,まず市民参加型調査を行い,そこで高い関心と調査技術を有した島民による市民調査がアレンジされた。政策提言型市民調査では,調査技術だけでなく政策化技術の専門家との協働が必要であり,専門家は市民調査の目的や市民の専門性・能動性を踏まえた上で適切なアドバイスを行う必要がある。このような経験を共有しながら社会的意思決定過程としての市民調査の可能性が今後探られるべきだろう。

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