著者
今野 晃
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.207-223, 2011-09-30

1965年の『マルクスのために』『資本論を読む』の出版により, アルチュセールは構造主義の代表として脚光を浴びる. こうした情況の中, アルチュセールは「重層的決定」概念を提起した. この概念は, 一般に「社会は政治, イデオロギーや経済等の諸要素が絡み合って現象する」ことを意味する概念として受容された. しかし, 彼がこの概念で提起した問題は, 通俗的見解に納まらない. 本稿においては, まず彼がこの概念を提起したコンテクストを綿密に追い, その意義を明確にする. ここで重要なのは, この「重層的決定」が社会的現実の多様性をいかにして捉えようとしたかである. この考察によって彼の理論が相矛盾する解釈, 熱烈な評価と同時に激しい批判を引き起こしたか明確にできる. 次に, この重層的決定との関連において, 彼がその後提起した「徴候的読解」を考察する. しかし, この2つの概念にはあるズレがあった. このズレは, その後のアルチュセールの「理論的転回」の本質を明確にするであろう. ただし, ここで明確になるズレは, 彼の理論に固有なものというよりも, すべての社会学的な認識や理論が必然的に直面しなければならないアポリアでもある. アルチュセールの理論的転回を見ることで, 我々はこのアポリアを明確にすることができるだろう.

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