- 著者
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川瀬 卓
- 出版者
- 日本語学会
- 雑誌
- 日本語の研究 (ISSN:13495119)
- 巻号頁・発行日
- vol.7, no.2, pp.32-47, 2011-04-01
現代語の「なにも」には、数量詞相当のものと叙法副詞のものがある。本稿は、叙法副詞「なにも」の成立に重点を置いて「なにも」の歴史的変化について考察し、次のことを述べた。1)「なにも」は、まず否定との結びつきを強めながら数量詞用法が成立した。近世後期には否定との結びつきが強い制約となる。また、近世の「なにも」は「なし(ない)」を述語とした非存在文で用いられることが多い点が特徴的である。2)「なにも」が現れる非存在文のうち、事態の非存在を表すものは、不必要の意味合いを帯びる場合がある。叙法副詞「なにも」は、そのような例をきっかけとして近世後期に成立した。そして、事態への否定的判断を表すさまざまな形式と共起するようになる。