著者
川瀬 卓
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.16-32, 2015-04-01

本稿はどのようにして「どうぞ」が聞き手に行為を勧めることを表す副詞となったのか,なぜそのような変化が起きたのかについて,類義語の「どうか」との関係も含めて考察した。「どうぞ」は,近世から近代にかけて行為指示表現と関わる副詞に変化し,話し手利益の行為指示を表すようになる。近代以降新しく「どうか」が話し手利益の行為指示を表すようになったことで,「どうぞ」は聞き手利益の行為指示に偏っていく。ただし,あいさつや手紙など,限られた場面や文体においては,話し手利益の行為指示でも用いられる。以上の歴史的変化は,配慮表現において前置き表現が発達することや,行為指示表現の運用において受益者の区別が重要になることを背景として生じたものである。本稿の考察によって,配慮表現の歴史,行為指示表現の歴史を明らかにするうえで副詞に注目した考察も有効であることが示された。
著者
川瀬 卓
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.32-47, 2011-04-01

現代語の「なにも」には、数量詞相当のものと叙法副詞のものがある。本稿は、叙法副詞「なにも」の成立に重点を置いて「なにも」の歴史的変化について考察し、次のことを述べた。1)「なにも」は、まず否定との結びつきを強めながら数量詞用法が成立した。近世後期には否定との結びつきが強い制約となる。また、近世の「なにも」は「なし(ない)」を述語とした非存在文で用いられることが多い点が特徴的である。2)「なにも」が現れる非存在文のうち、事態の非存在を表すものは、不必要の意味合いを帯びる場合がある。叙法副詞「なにも」は、そのような例をきっかけとして近世後期に成立した。そして、事態への否定的判断を表すさまざまな形式と共起するようになる。
著者
川瀬 卓
出版者
弘前大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2012-08-31

本研究は不定語と助詞によって構成される副詞の歴史的研究である。本研究の主な成果は次の通りである。(1)副詞の歴史的研究における課題と可能性について明らかにした。(2)「どうも」「どうやら」「どうぞ」「どうか」の歴史を記述した。また、それらの歴史的変化を言語変化の一般的傾向と関連付けることも行った。(3)不定語と助詞によって構成される副詞の歴史から見えてくる日本語史的問題を指摘した。以上のことから、今後の副詞研究の方向性に加え、副詞を視点とした日本語史研究の方向性も示せたといえる。