著者
廣嶋 清志
出版者
島根大学
雑誌
山陰研究 (ISSN:1883468X)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.1-36, 2010-12-31

幕末における出生率上昇,人口増加は,低階層ほど多い(就業に伴う)移動が減少することによりその出生率と家の再生産率が上昇することによってもたらされたとの予想のもとに,幕末石見銀山領における階層別の移動率を観察し,その高さが,10石以上層を別として,階層の高さに反比例することを示すことができた。同時に,家族を残した就業に関わる移動と考えられる出職という記載が宗門改帳にわずかに発見されたが,この記載は,幕末の緊迫した情勢によって一部の村で例外的に行われたものと考えられ,出職の多くは,一度,転出(出人)と記載されたあと,村内の宗門改帳から除外されたと考えられる。この宗門改帳上不在の家成員は,1年に何度か帰宅することがあったとしても,出職が結婚している者の結婚生活にとってさまたげになり,あるいは未婚者の結婚年齢を遅くし,その結果,家の再生産率を低下させ,その階層差を生み出す重要な原因と考えられる。同時に,宗門改帳による在村人口のみによって計算した結婚率や出生率は出職者を多く含む階層では見かけ上やや高くなるものといえる。このことから,1石未満層に比べ無高層の家再生産率は低いにもかかわらず,結婚率と出生率は高くなったものと考えられる。13;

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